1人になった

m.e

第1話 祖父の死

 高校2年の冬、私の誕生日の日に祖父は亡くなった。

 ずっと寝たきりだったので、いつ亡くなっても不思議ではなかったから心の準備はできていた。

 翌日の夜、祖父が亡くなったこを知った縁のある方々、親戚、近所の人が多く集まる中、ちょっとした事件が起きた。


「あの家の娘ね…顔も見たくなかった」


 祖父の葬式の最中、そう言われて親戚の叔母さんに頬を叩かれた。


 私が小学校低学年の頃、その叔母さんはよく家に遊びに来ていた。

 その頃は、ケーキを買って来てくれたり服をくれたり可愛がってくれていたけど私の祖母を悪口をよく言っていたので嫌いになった。

 ある日、私が小学校からの帰り道その叔母さんと家の近くで会った。


「おばあちゃんいる?」


 そう問いかけられたけど、返事をせずに祖母に叔母さんが来たことを知らせなかったことが一度あった。

 また祖母が悪口を言われるを聞きたくなかったから。

 しばらくして私の一つ上の兄が叔母さんが玄関先に来ているのに気付いて家の中に招き入れた。

 後から親戚の人に聞いた話だけど、その出来事がきっかけで私は叔母さんに嫌われてしまったらしい。

 私も悪かったけど、そのことをずっと根に持っているとは思いもしなかった。

 けど、葬式の最中に叩くのはどうかと思う。ムカつくなら、言いたいことがあるなら言葉で言ってくれないと分からない。

 頬の痛みはあまり感じなかったけど、モヤモヤしてずっと胸が苦しかったのは覚えてる。


 火葬も無事に終わり、私と兄、祖母の三人で家の近所に住んでいる祖母のお姉さんとその娘さんの家でお茶を飲んでいる時に祖母に異変が起きた。


「スミエ!どうしたの!」


 スミエとは私の祖母の名前だ。

 祖母のお姉さんが祖母の方に駆け寄った。私は隣にいたので視線をすぐに祖母へと向ける。

 一瞬何が起きているの理解できなかったが、祖母の座っている座布団が濡れてシミができていた。

 お茶でもこぼしたのかと思ったが、アンモニア臭が漂ってきた。

 周りが慌てているにも関わらず祖母はぼんやりとした顔で前を向いていた。

 祖母のお姉さんが新しい下着と服を用意してくれている間、私と兄で汚してしまった座布団を風呂場で洗い、床を拭いた。

 床が畳の為、染み込んでしまっただろうと申し訳ない気持ちになる。

 しばらくして祖母が我に返った顔をして帰り仕度を始めた。晩御飯はお姉さんの家で食べる話になっていたので不思議に思った私は

「ばあちゃん帰るの?」

 祖母は頷きながら

「じいちゃんにご飯食べさせんといかんけんね」

 耳を疑った。祖母も年だが、まだ呆けてはいなかったので冗談だと思いたかった。

「スミエさんの旦那さんは亡くなったやろ?」

 祖母のお姉さんがそう言うと、祖母はきょとんとした顔でお姉さんを見つめる。

「なんば言いよっと?死んどらんばい」

「スミエさんどうしたとね?覚えとらんと?」

 祖母は考えるように黙りこんで、しばらくして小さな声で、「そうやったね」って悲しそうな声で呟いたのが聞こえた。


 祖母はその日を境に少しずつ呆けはじめた。


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