第8話 手料理
お昼休み、いつもなら僕と眞智子さん2人でご飯を食べている。
今日に限ってはクリオも転入してきた他に、マサやんと琴美、美子と佐那美といったほぼオールキャストで食事することになった。
同じクラスのクリオ、マサやんはともかくとして、隣のクラスの佐那美、中等部の琴美と美子が参加する異常事態。
ゲスト連中は非常に満足している様だが、当の眞智子さんはご機嫌斜めモード。
マサやんは責任を感じてか、さっきから眞智子に気を遣っているが、僕は半ば諦めモードで黙々と弁当を食べている。
ちなみに僕の弁当は毎朝、美子が作ってくれる。
基本的に栄養バランスを配慮したお弁当なのだが、下手なコンビニ弁当なんかよりも断然美味しい。美子は中学生なのに和洋中なんでも作れる達人なのだ。
伊達に得物をいつも持ち歩いている訳ではない――お願いだから料理以外に使わないでね。
「お兄ちゃん、今度は何食べたい?」
美子が一人で黙々食べている僕に声を掛けてきた。
正直、ここまで美味しく作れるとリクエストする物が思い浮かばない。
「うーん……特に思い浮かばないな」
「それじゃあ、中華の満漢全席でも挑戦してみようか?」
「それじゃあ、お父さんの給料がなくなるよ」
「じゃあ、何作ればいいのか言ってよ」
美子はちょっとムッとしながら僕に尋ねる。
「美子さんの料理は非常に美味しく頂いているので文句ないんだけど――」
そう思いながらふと正面に座る眞智子に目を移す。
眞智子は先ほどより不機嫌な様子。
彼女が食べている弁当をチラリと覗くと昨日の夜の食材と思われる卵焼きと煮物、ご飯の上に海苔が敷かれたいわゆるのり弁である。それもご丁寧に2層構造。
「あっ、だったら僕は眞智子さんの様なお弁当がいい」
――だが、その言葉は禁句であった。
美子が「あ゛?」と眞智子と僕を睨む。
一方、眞智子は僕にいきなり弁当のお手本として御指名され、動揺してご飯が喉に詰まらせ咽せている。
「こ、これ昨日の残り物だよ」
眞智子は顔を真っ赤にして自分の弁当を手で隠した。
「ちょ……冗談でしょ? 昨日の残り物が食べたいの、お兄ちゃんは」
「えっ、それでいいよ。合理的だし」
「お兄ちゃんは私に、お兄ちゃんに対する愛情に対して手を抜けって言うの?」
美子は何か勘違いしている。
手が込んでいれば愛情、手を抜けば愛情じゃない……という訳でもない。
別にバランスが良く美味しく食べられればいいわけだから。
しかし、言い方がある。
その手を抜くという言葉に反応して眞智子が怒り出した。
「ちょっと待ってよ。それじゃ私がまるで手抜きしていい加減に料理しているみたいじゃないの」
「アンタの料理に対していい加減とまでは言っていないわよ。なんで朝に弁当作らないのよって思っているだけ」
「別にいいでしょ。夜のうちに明日の分を作れば明日の朝が楽だもの」
「それって手抜きじゃない」
「違うわよ。料理は私の仕事なの!」
「何言っているの。アンタんち金持ちじゃん。お手伝いさんいないの?」
「うちの親は確かに医者だけどお手伝いさんなんて雇っていない。それにうちのお母さんは南極に医者として参加している」
あっ、そう言えば眞智子のところでお母さん見なかったのはそういう事か……
そこはデリケートなところかなと思って聞かなかったけど、南極行っているのか。
なるほど、だから一人でお父さんの道三(みちぞう)おいちゃんと兄の龍央(たつお)さんの食事も作っていた訳ね。
一方で美子は、僕のお弁当以外は作らない。それはお母さんも嘆いていた。
美子が引け目を感じたのか若干怯む。
「えっ、家族全員の食事を朝昼晩毎日? ヤンキー故に気合いが入っているじゃないの……でも味で勝負よ」
「ヤンキーだったことは関係ないでしょ! それに料理で勝負するつもりないんですけど――」
眞智子がそう答えている間に、美子の箸が眞智子の芋煮をさらっていく。
「いただき!」
「あっ」
美子が眞智子の芋煮をパクリと食べた。
――5秒くらい美子が沈黙して、それから美子の表情がなくなり、箸を持つ手が下にだらんと垂れた。
美子はどよーんとした表情で眞智子を見る。
「何だよ、勝手に食って、そのマズイって表情するんじゃない!」
眞智子が顔を赤くして怒る。
美子は黙って椅子に座るとお通夜の席みたいに大人しくなった。
……うん、美子のこの表情。眞智子お手製のおかずは、かなりうまいと見た。
そして、美子は悔し紛れに一言。
「お醤油、若干多い……それだけ」
だが、眞智子は美子の言葉の趣旨を理解していない。馬鹿にされたと思っている。
「あったまにきた!お前の少しよこせ!」
眞智子は制服を腕まくりすると、美子は無言で自分の弁当を差し出す。
だが――眞智子の箸は僕の弁当に向かっていた。
そして、食べかけのハンバーグを箸で器用に切って、僕の食べかけの部分を自分の口にパクリと運んでいった。
「……って! あ―――っ!」
生気のなくなっていた美子が眞智子の予想外の行動に驚いて声を挙げた。周りの視線が一斉に僕らに集中する。
「あー、おいし。確かに美子の料理は美味しいわね。何か隠し味でもあるのかな……アッ、分かった大好きなお兄ちゃんのDNAかな。この前クラス会でキスしちゃったから私でも分かった――」
眞智子が美子を挑発すると美子がこの前の件を思い出して「ウガアアアアア!」と奇声をあげ眞智子の胸ぐらを鷲掴みにして暴れだした。
「何、美子騒いでいるのよ」
佐那美はそう言いつつも、僕の弁当から食べかけのポテトをつまみ上げ自分の口に運び、クリオに関しては「あんまり取っちゃうとレイがお腹すいちゃうでしょ?」と言って、クリオがさっきまで食べていたサンドウィッチを強引に僕の口に押し込んだ。
「あっ、レイと関節キスしちゃった……」
「だったら、あたしのサンドウィッチも食べてくれる?」
――ピクン。
眞智子と佐那美が取っ組み合いをやめて、二人を凝視する。
「面倒だからあたしがチューしてあげる」
「な、なんでそうなるの?」
佐那美の実力行使に僕が悲鳴をあげると、クリオが「ちょ、スクリュービッチ!やめろ!」と怒りだし、眞智子と美子も佐那美の顔と身体を僕から引き離そうと大暴れ……こんなことしていたら――――
「ちょっと、神守君達のグループ、うるさい」
当然、こうなる。
担任の高田が怒りだした。彼女もここでご飯を食べていた様だ。
佐那美の言葉を借りるとすると……30歳目前の喪女である彼女が、僕のリア充ぷりに機嫌を損ねたとのことだ。
当然、非があるのは僕らであり、名指しされた僕が代表して謝罪した。
ただ、これでも納得しなかった女史により、僕らのグループは食堂の出入りを禁止された。
とばっちりを受けたのはマサやんと琴美である。
大人しく食べていただけなのに、イチャついて食べている様に見えたらしい。
だから、この二人も出禁を食らった。
……もっとも、『この面子』でということなので、二人で来てこっそり食べている分には問題はないだろうけど。
そして僕らは他の連中の恨み、妬みを買っていたらしい。
食堂の男子からは『神守の奴、○ねば良いのに』、『リア充○すべし』という呪いの言葉が。女子からは『イケメンの奪い合い、○ね』、『あんたらで男占有するんじゃない』という嫉妬の言葉を浴びるはめになった。
ただ、うちには俗に言う『キチ○イ妹』や『頭のおかしい佐那美』、『伝ヤンの眞智子』がいる。
彼女らが『お前ら、顔覚えておくからな』とばかりに、それぞれの男女の顔を確認する様に視線を移動させると、顔を背け蜘蛛の子を散らす様に消えてった。
――結局、僕らは屋上に行き、そこで残りを食べる事になった訳だが……
「ところでさ、この中で一番料理が上手なのは誰なの?」
佐那美がぼそりと、またトラブルを招くような発言をする。
沈黙する一同……
――――っって! 何でこのタイミングで言う?
「またさっきの事、思い出しちゃったじゃない!」
「佐那美、お前何回ぶっ飛ばされれば頭治るんだ?」
美子と眞智子が機嫌悪そうに答える。
佐那美はそんなのお構いなし。
「二人してそんなに眉間にしわ寄せて怒らないの。あたしはあんたらみたいに大して料理出来ないのは自覚しているんだから、素朴な質問よ」
……と彼女はあっけらかんと答えた。そしてクリオにも、とばっちりが及ぶ。
「ふぁっきゅーはあんたできるの?」
「ファックユー言うなっ! ――でもハムエッグくらいなら……」
「オーケー、なら今度、うちで料理対決しない?」
「「「はぁん?」」」
眞智子、美子、クリオがハモった。
「そういう事で神守君も参加ね」
「なんですとぉ?」
「あっ、食事食べるだけっていうのはなしね。神守君も作る」
「えっ、僕料理なんてまともに作ったことがないんだけど」
僕がそう言うと、佐那美は何かを閃いた様で、頷きながら話を続けた。
「それではこうしましょう。皆で料理作るのはナシ――」
「あぁ、よっかった……僕、料理なんて――」
僕がそう安堵したのも束の間、佐那美はさらにとんでもない事を言い出した。
「神守君一人で皆に料理を振る舞うの! これって凄いことだと思わない?」
「えっ……僕、一人でデスか?」
動揺すると僕もクリオ同様に日本語がおかしくなってきた。
「そう」
「僕、料理デキマセンよ」
「神守君、頑張れ!」
彼女は僕の話を聞いてくれない。
「みんな……」
僕は他の子に助けを求めるが……
「お兄ちゃん、作ってみよう!」
「礼君大丈夫、なんとかなるって」
「レイ、何も難しく考えなくて良いよ」
彼女らは目を輝かせながら、僕の料理に期待している。ダメだ、完全に詰んだ。
「そ、それじゃあ。機会があったら作るよ……」
「イヤイヤイヤ、帰りうちに寄ってよ。いいよね皆?」
佐那美の独断と偏見で本日、集合を掛けられる……普段なら皆、即断るところであるが、今日に限っては佐那美の意見に従った。
――――結局、どうしようと悩んでいる間に学校のスケジュールが終わる。
その日に限って何も残ってする予定もない。
僕は佐那美と眞智子にがっちりと両腕を取られ、連行される様に佐那美宅に連れて行かれる。一応、マサやんと琴美も「一緒に行こうか?」という話はしていたが、美子が「あんたらの貴重な時間は確保しないとね」と断りを入れ2人はそのままデートに出てしまう。
「僕の貴重な時間は?」
「料理作る事ぉ!」
美子はうれしそうに僕の貴重な時間を自分らのために確保した。
眞智子や佐那美に腕を押しつけられ……ということは彼女らの胸が当たって非常に幸せを感じるハズなのだが、そんな幸せを感じる余裕もなく、なんとなく嫌な予感しかしなかった。
その時の僕の顔はドンヨリとしたものだったと思う。
「あれ、女の子2人に囲まれているのに暗い顔して……神守君大丈夫?」
「ちょ、まるで私達が悪者みたいになっちゃうじゃない」
佐那美と眞智子が若干困った表情をしている。二人は「しょうがないなぁ」と言って僕を解放してくれた。
すると美子やクリオが――
「そこまで私達に作るのが嫌なの?」
「でも、それって自分は作らないけど、誰かが作ってくれるって甘えているだけなんじゃない?」
ちょっと引いている。
そうじゃない……そうじゃないんだ!
理由はちゃんとある。
多分、僕が作る料理は料理とは言えない――物だと思う。
僕がまだ小学生だった頃、爺さんが同じ事を言いだしてその結果『作らなくて良い』――と言われた気がする。何分、昔の事なので細かいことは覚えていない。
せっかく作ったのに、子供ながらに傷ついた記憶だけは残っている。
そんな嫌な思い出があるのだが、そんなのお構いなしで引いている女の子―――
ちょっと酷すぎないか?
いつも、いつも、いつも僕を振り回して、一体何様もつもりでいるんだよ。
なんだか段々腹が立ってきた。
こうなったら――よし、作ってやろうじゃないか。どうなっても知らない!
僕は覚悟を決めて佐那美の家に乗り込んだ。
――――佐那美の家に到着して1時間後。ちょっとした惨状が広がっていた……
僕が作ったのは、彼女らが言う極簡単なお味噌汁とご飯、そして卵焼き。
まず、眞智子は味噌汁口にした途端、白目を剥き口から泡を吹いて痙攣し始めた。
美子とクリオは卵焼きを食べて……そのまま卒倒。二人とも何やら得体の知れないものを口から吐き出し、それが天を目指して上ろうとしている。
そして、最後に残った佐那美はその惨劇を見て、持っていた箸と茶碗をがたがたと震わせている。
「か……神守君、や、やっぱり料理しなくていいよ。お、男の子だもんね」
彼女はそう言い、茶碗と箸を置こうとした。
逃がさない。僕は彼女の肩をがっしり鷲掴みする。
「せっかく、佐那美さんの要望をかなえたんですから……ちゃんと召し上がれ」
「いや……あの……その……」
ギロリと彼女を睨み付ける。
「まさか言い出しっぺのあなたが食べないってことは――ないよね?」
僕は亡霊の如くボソボソ耳元で囁いくと、彼女は涙目になりながら手を震わせそれを恐る恐る口する。
「ん――っ!」
彼女は身体をヒップホップじゃないけども身体を上下に揺すらせ、数秒後に――
「ピギャアアアアア~!」
佐那美は頭がおかしくなったみたいな奇声を上げて卒倒、後頭部を強打。
その場でピクピクと痙攣していた。
こうして地端宅の台所で死屍累々の惨劇ができあがった――
……おかしい。分量や調理方法は合っているハズなのに。
この惨状、どうしよう。
119番通報すべきか?
110番?
とりあえず、この阿鼻叫喚の惨状をなんとかしなければ。
そう頭を巡らせていたら、間もなく彼女らがほぼ同時に意識を取り戻した。
全員が頭を振ってその場にうずくまっている。
「僕の料理の感想を教えてくれる?」
僕は淡々と尋ねた。
すると彼女らは身体を震わせながら、ようやく口を開く。
「これ冗談でしょ? わざとなの? ねえ、わざとなの? 礼君、言っておくけど死んじゃったら人は終わりなんだからね!」
「お兄ちゃん、包丁じゃなくても人って簡単にこ○せるんだね……危なく死んじゃうところだった……」
「私、戦闘機の座席に縛り付けられそのままテイクオフしたシーン思い出しちゃった……うえぇええっ」
「……神守君、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、もう変な強要しませんので許して下さい、許して下さい、許して下さい……」
……とまあ、眞智子は怒りの感情を、美子は臨死体験を、クリオは恐怖の思い出をフラッシュバック、佐那美には新たなトラウマスイッチを植え付けた様だ。
ざまあみろ……とその時は思ったが、それもやがてむなしさに変わる。
彼女らはふらつきながらゆっくり立ち上がり、誰がいうでもなく各々が後片付けをし始めた。
僕も手伝おうとしたが、彼女らは「あっ、いいから。ここは私らが何とかするから……」といってそれを拒む。
無言でテキパキと食器を片付けて行く彼女ら。
いつも喧嘩等でまとまらない彼女らであるが、今日に限っては黙々と処理し10分程度で作業を終えた。そしてこの後、談笑すらすることなく即解散となった。
その態度はないと思う…………皆も酷い目に遭ったかも知れないけど、嫌がっている僕に作る様強要した結果がこれなんだから。
だから僕は嫌だったんだ。
そう言えば、前回は爺さんがそうなったけ?
……すっかり忘れていたというより、自分で忘れようとマインドコントロールしたのかもしれない。
いずれにしても『眞智子にバット』、『美子に包丁』に並ぶ『神守礼に料理』という不名誉な組み合わせが誕生したのはいうまでもない。
自宅に帰る途中、美子が「お兄ちゃん――料理が出来なくとも、私が作るから何にも心配ないからね」と励まされた時には、なんだか涙が出そうになってきた。
――そして自宅に帰ると僕は母親に呼び出された。
お昼の騒ぎかな?それとも佐那美宅の殺○未遂の件かな?――そう考えながら母がいる台所に向かう。
ちなみに美子は母が苦手であり、「あ、私は先に2階行っているね」と逃げる様に自分の部屋に行ってしまった。
「あんた、花嫁候補と妹をころ○かけたんですってね?」
母はケタケタ笑っている。
ちなみに母は美子だけは花嫁候補と認めていない。聞いたら大騒ぎするだろう。
――話を戻す。
「だって、作れって言うんだもん。でもちゃんと作ったつもりなんだけど」
「そういえば、礼ちゃんが小学生の時に、お爺さんも危なくあの世送りにしかけたことあるんだけど――覚えている?」
あぁ、爺さんの件か。それにしても実の父親なのに酷い言い方である。
「まぁ、そのうちに料理の練習しなさいよ。せっかくうちにはぶっ飛ばしてもしな○いスーパーガールがいるんだもの」
「それ酷くない? 美子さんを実験台にするのは。今日、『包丁じゃなくとも人はころ○るのね』ってしみじみ語っていたよ。多分、そう簡単に応じてくれないよ」
「大丈夫、大好きなお兄ちゃんのためになんだってするわよ。例えば『チューしてやる』とか適当に騙せば必死で食べるだろうし、腕も上がるわよ。それに程よく記憶も飛ぶだろうし」
「それはあんまりだよ。せっかく頭が良いのに…」
「それでも、まぁ……佐那美ちゃんみたいにならなければいいわ」
なんだか言いたい放題である。
うちの母は美子や佐那美に対して厳しい。
そのくせ、眞智子はかわいがっている。
「あっ、そういえば眞智子さんから伝言よ」
眞智子は美子の件もあって重要な事項については直接携帯に送ることなく、母経由で連絡がある。
「『神守君、さっきは怒ったりしてごめんなさい。あれはよく考えてみると佐那美の馬鹿に同調した私が悪い。本当にごめんなさい。明日その件でお詫びがしたいので一緒に付き合って下さい』だって、ちなみに美子は私から用件頼んでおくから心配しなくて良いわよ」
母はそういって自分のスマホを僕に見せた。
「なるほどね――そう言えば眞智子さん、何か手伝えって言っていた気がするけど、それをこの件に含めて良いのかな……って聞いてもお母さんはわからないか」
「あぁ、その件でいいって」
本人いないのにずいぶんいい加減な回答だ。本当にその件でわかっているの?
「あとで『それはそれ、これはこれ』って言われそうなんだけど」
「それはないわよ。ほら」
母のスマホを確認する。
確かに『明日付き合ってくれれば、私も気が晴れるのでそれで納得します』と記されている。
「何かごちそうでもしてくれるのかな?」
「それは私はわからないわ。ちなみに眞智子さんの件は私からお父さんに話しておくから」
「何で、眞智子さんの件でお父さんが関係するの?」
僕の問いに母はしまったという表情を見せる。
そして小声で「(あぁ、お父さんは地端さんと同級生だったっけ……そう言えばお父さんは佐那美ちゃん押しだけど……まあいいでしょ)」と呟いていた。
「えっ、佐那美さんも関係あるの?」
「あはは、眞智子さんとのデート、お父さんに話しておくって話。お父さんは地端さんの肩を持ちたいだろうけど、佐那美ちゃんがアレだから……まぁ、眞智子さんと仲良くしなさいよ」
母はそう言って僕の背中をバンと叩いた。
どういう意味なんだ?
「あと、この件。美子に言ったら……マジで怒るからね」
「うん? 何でそこまで秘密にするの」
「いいから。全ては明日になればわかるから」
母はそう言ってそれで話は終わった。
――何か立て続きでイベントが入るなぁ……そう思った一日であった。
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