第2話 お願いだから、暴れないで!
前回の概要
僕らのクラスの催し物の件で、佐那美がプロデュースしたいと勝手に名乗り出て、僕らの承諾の確認をとらないまま、うちのヤンデレ妹美子を吹っ掛けてオファーをされてしまう事態に。
怒った美子がクラスに乱入!どうなる俺ら……?
――5分後。
美子はマサやんから内容を聞き出し、状況はそれなりに納得した。
もちろん、眞智子とキスする話は伏せられている。
美子の表情はいるから落ち着きを取り戻したようで、腰に手を当て「そういう事なら一言いってよね」と僕に抗議する。
そして僕の腕にしがみつくと――
「どうせ、お兄ちゃんが主人公なんでしょ? だったら私が相手になってあげる」
――と言って、はにかんだ。
勝手に話を変えるんじゃない!
……そう思いつつも、下手に否定すれば『何?それどういう意味なの』とおっそろしい目つきで得物をチラつかせながら恫喝されるのは目に見えている。
今の僕にはビビって何も言えない。
大体、流れでわかってもらったとおもうが僕が恋愛について壁を作っているのは、俺のビビり性と周りを取り巻く環境にある。
美子は完全にブラコン・ヤンデレ。
普段は頭脳明晰冷静沈着でかわいい女の子なのだが、俺がらみになると理性が蒸発し、映画に出てくるような殺人鬼になりうる性格である。
僕はそれが怖くて仕方なく従っているのである。
そして眞智子もある意味似ている。
彼女は物事全てに一途な性格である上、計算高い。それは彼女が一度『これはこうで、この様にする』と決めると計算尽くで、ほぼ想定内に結果を導き出す性格である。
その上で、彼女の今の目標は『僕との交際』と宣言している。
もし僕が彼女の意図に反した行動をとったら理性が飛んでしまったら、警察が出動するほど大暴れする様な性格である。
眞智子もヤンキー・ヤンデレである。
もう一人、天然のヤンデレがいる。佐那美である。
彼女は思いつきとひらめきでピンチを好機に切り替える天才である。
今の彼女の目標は、僕を使って日本で地端プロダクションを盛り上げようと考えている。しかも売り出しのためなら、イベントだって何だってすると言っている。
もし僕の人気がやばくなったら、人気の底上げのため佐那美と僕が結婚するイベントを考えている様だ。
彼女の場合は、眞智子のそれになぞるのなら、彼女が一度『これはこうで、この様にする』と決めるとひらめきや感を頼りにして、ほぼ想定内に結果を導き出す性格だ。
――つまり、もし僕が彼女の意図に反して行動したら、理性が元々存在しない彼女が次に取る行動は、全く予想がつかない。ただ考えられる事としたら法を犯そうがどれだけ他人に迷惑掛けようがお構いなしということ。
例えば、僕を意のままに操るために既成事実をつくって縛りをつける事も考えられる。具体的に言うと、撮影だと称して屋外でとても人様にお見せできない卑猥な行為に及ばれ、僕自体辱めを受けることだってあり得るのだ――それも嫌だ。
佐那美も、頭が病んでる・ヤンデレだ。
このイッちゃっている3人が絡んでくると、もう滅茶苦茶だ。
どうしよう……僕終わっちゃうかもしれない。
その一番ヤバい美子が、この2人の前で俺の手に絡みついてくる。
ぶっ飛んだ性格の女性陣の中で、比較的常識人なのは眞智子である。
情けない話だが、僕は目で眞智子に救いの手を訴える……が、すでに眞智子はあの死んだ魚目(通称ケロロ目)で美子を睨み付けていた。
ヤバッ――頼むよ眞智子さん。
僕は泣きそうな表情で眞智子に訴えかけたところ、彼女は首をゆっくり縦に1回振り、不自然な笑みを浮かべて美子の前に歩み寄る。
「美子、今回はクラスの出し物だから諦めてくれないかな。いい子だからこのまま黙ってうちに帰って礼君を待ってくれない?」
「――何、ヤンキーのくせして優しいお姉さん面しているの? そんなにヒロインやりたければそこの馬鹿とやればいいでしょ」
美子はそう言ってクラスの隅でビビって小さくなっているマサやんを指さした。
眞智子はヤンキーの一言で眉毛をぴくり動かし口元をゆがませ不自然な笑みを浮かべている。
「あのね、この際だからハッキリ言っておく。私の彼は礼君だから」
ピクン――美子の動きがピタリと止まった。
その一言で美子もケロロ目に変わり、僕の腕から離れるとあの新世紀の人造人間のように猫背になりながらゆっくりと眞智子の前に詰め寄る。
眞智子も「あははは――」と変な笑いをあげ無表情で美子の前に乗り込む。
あぁやばい、このままでは……殴り合いどころか、こ○し合いになりかねん。
僕は二人の間に入って止めに入る。
「や、やめてくれ、眞智子さん、美子さん。喧嘩は良くない」
僕は彼女らの間で両手を広げ必死に阻止を図る。
すると『あたしは関係ありません』といわんばかりに佐那美がうれしそうに指でフェンダーを作り――
「いいね、いいね。修羅場だね。今度の映画はスプラッターもので決まりだね。スプラッターといえば包帯。それじゃミイラって意味の『モミー』っていう怪奇映画でもしてみましょうかね」
――とケタケタと笑う。
ゾンビ状態の眞智子と美子が同時に佐那美をギロリと睨む。
「ミイラはマミーだよ。あんた本当に馬鹿なんだね」
※ポルトガル語でモミーとも言われるそうです。突っ込んだら殺されます。
「だって佐那美だもん。バカにつける薬は眞智子のところにもないでしょ?」
二人は佐那美を見下すような高笑をする。
「――何、あんたらやる気なの?」
今度は佐那美がキレた。某映画スターみたいにリズミカルに体を左右にスライドさせ、いつでも応じてやるという姿勢を示している。
「なんだ? マジでやるのか!」
「返り討ちにしてやる。この馬鹿佐那美!」
二人が佐那美に向かって詰め寄る。
「今度は3人で喧嘩かよ。これ以上はまじでやめてくれよ」
僕は両手で眞智子と美子を抑えた。
しかし、急に二人は顔を真っ赤に染め上げ、僕の方を見て『えっ?』という表情で驚いていた。僕は何のことだかわからずそれぞれの顔を見て確認したが、それが気に障ったらしい。二人は機嫌悪そうにため息をつく。
「何が『モミー』よ、この青春スケベ! いい加減しないと、どこかのスケコマシみたいになるから」
眞智子は、どこかのスケコマシに機嫌を害している様子だが、それは一体誰なのか?!
すると今度は美子が――
「スケコマシっていってもわからないわよ。佐那美より鈍いんだもの――って、まだわかっちゃいないかしらね。そう思わないお兄ちゃん?」
――とあからさまに僕の名前を持ち出して来た。
理由はわからないけど、二人とも僕にトゲがある言葉を発しているので、原因は僕のなんだろが、今度は佐那美までかみつきだした。
「神守君がそうことしているから、『モミー』だって言われるのよ!」
彼女はそう言い、ちょっと控えめの胸を突き出しながら責任転嫁して怒っている。
僕は彼女らがご機嫌斜めの理由をわからず首を傾げていたのだが、遂に眞智子と美子がじれったそうに『あぁもう!』と癇癪を起こしはじめた。
「ところで、いつまで掴んでいたら気が済むのかしら? この変態さんは」
「拒否はしないけど、二人分掴んでいるって言うのが気に入らない」
「そうそう、二人分っていうのが――ね」
「それで……いつまで掴んでいるのよ、このモミ男がっ!お兄ちゃん今日から『モミー』だ。モミ男だから『ミスターモミー』で決まり!」
「あっそれいいわ。私も礼君の事『ミスターモミー』と言うわ。」
急に眞智子と美子がタックを組んで僕に対して明らかに軽蔑の目を向けている。
――掴んでいる?
彼女らの追及でふと我に返る。確かに両手が何かを掴んでいた。しかもやわらかい。僕が掴んでいるものをよく確認したところ、彼女らを制止しているハズの両手がそれぞれの胸をしっかり鷲掴みしているではないか。
「えっ? ええっ?!」
僕は咄嗟に手を離すが、時既に遅し。僕の通称名に『ミスターモミー』という不本意な軽蔑名称が加わった。
「おや、修羅場だね。こりゃ凄いわ――あっ、これおもしろいんじゃね?!」
僕の不幸を対岸の火事として見ていたマサやんは何かを思いついた様だ。そして佐那美を手招きし、そっと耳打ちしていた。
「えっ……そんなのあるんだ、それや面白いわ。それじゃソレのパロディ映画っていうかオマージュを勝手に作っちゃえばいいのね」
意気投合する二人。その様子は何となく気になってはいたが、それ以上に眞智子と美子に対して僕は必死に言い訳していたわけでそれどころじゃなかった。
今思うと、ちゃんとその企画を聞けば良かったと後悔している。
――そして、次の日の放課後。
佐那美が目を真っ赤にさせ台本を作ってきた。
だが、パソコンで作った割には誤字脱字は多いわ、話がまとまっていないわ――で、どういうストーリーなのか全く理解出来ない。まるでこの小説を読んでいる感じだ。僕は佐那美に文句を言おうと思ったが、マサやんがそれを見て「上等上等。これでいいよ」とそれを理解し納得しているので、何も言えなくなってしまった。
僕以外にも納得していない人がいるようで、彼女らは佐那美に対して「なんだよこれ?!」と若干攻撃的に尋ねるが、佐那美に――
「言っておくけど、客が振ったサイコロでストーリーが変わるから。だから、ストーリーの展開で眞智子や美子――って感じにヒロインが変わるから」
と言われ、渋々承諾した。
「それで、主人公はやっぱり僕か?」
「当たり前でしょ。うちの看板役者なんだから」
「監督は?」
「一応あたし。あと脚本ね。撮影は池田にやってもらうよ。照明や特殊なところはうちの弟、元家が担当するから。後は空いている人はエキストラやってもらうから。そうなると人が足らないわね――それじゃあ、あたしも地端佐那美として出演してあげるわ」
佐那美が自信満々に答える。
何か嫌な予感がする。僕はチラリと美子と眞智子を見る。彼女らも胡散臭いそうに佐那美を見ている。
妙に乗る気になっているのは佐那美とマサやんだけである。
――撮影会当日
僕はアルバイト先で知り合ったツンデレヒロインから強引に押しつけられたサングラスと華僑出身お調子者のおっちゃんからもらった黒皮のブルゾン、そして社長に買わせたジーンズ姿で待ち合わせ場所の駅前のペデストリアンデッキに到着。
だが、そこで先に到着していた佐那美にすぐさま怒られた。
「ちょ、ちょっと神守君、その格好ってレインの格好じゃないの?!」
「だって僕のバイト着だもん」
「馬鹿! 誰がレインを主演させるって言った。レイン出したらあたしがお父さんに怒られるでしょ!」
――酷い言われようである。しかも馬鹿に馬鹿と言われるとは思わなかった。
「大丈夫、レインのシンボルであるブルーコンタクト入れていないから」
僕はそう言ってサングラスをずらして彼女に見せた。
だが、それに納得しない2人がすぐに到着。
その1人が僕の襟首を掴んで「何やっているのよ」と睨んできた。
美子である。
「ペデストリアンデッキにレインがいるって話を聞いて来たんですけど! 何やっているのかな、お・に・い・ち・ゃ・ん」
「いやあ、美子さん。30分ぶり」
「30分ぶりじゃないわよ。家から出て行くときにはそんな格好していなかったでしょ? どこでそんな格好してきたの?」
美子が顔を頬を膨らませて怒っている。どうも美子はレインが嫌いな様である。
元々、美子はレインのファンであったが、その正体が僕だと知ってファンをやめてしまった。逆に僕がレインになると、もの凄く機嫌が悪くなる。
なお、僕は買い物があるって言って美子より一足先に家を出たのだが、実はこの近くに事務所の所有する
そしてタイミングのを見計らって眞智子が割って入る。
「何しているのよ? 周りの人、レインが来ているって勘違いしているわよ!」
眞智子は少しご機嫌斜め気味の表情で周りを見回す。
確かに周りに人が集まって来て騒いでいる。でも眞智子の機転で周りの人も『なんだレインじゃないんだ』と納得して三々五々とした。
「早く着替えてきなさい!」
眞智子は僕の背中を押し、僕が元来た方面へと追いやる。しょうがないので僕は再びマンションに戻り、普段着に着替えた後にペデストリアンデッキで合流することとした。
「おそい!」
佐那美が腕組みしながら僕の事を待っていた。その脇でマサやんとその彼女の琴美がスマホ片手にじゃれ合っている。彼らは僕が戻っている間に到着したようだな。一方で眞智子と美子はなぜかその場にいなかった。あっそういえばまだ佐那美の弟が来ていないようだ。
「悪い遅くなった。あれ、眞智子さんと美子さんは? それに元家君はまだ?」
「元家はまだ来ていないわよ、まったくあの子ときたら――それにあのヤンデレ2人組は駅向かいのデパートで陽気に買い物よ。まったくもう!」
そして、僕が戻ってきた旨のメールを美子と眞智子に送って10分位が経過したころ、美子と眞智子が楽しそうに会話しながら戻ってきた。この2人の彼女らから、ヤンデレ女の五文字は全く見えない。こういう時には仲がいい2人のようだ。
「ごめん礼君待った? 服選ぶのに時間掛かっちゃって」
「礼兄さん悪いねぇ~。結構気に入った服があったんでね」
僕には謝るが、佐那美には全く謝る気はない2人である。
「いい加減にしてよねっ。あなたたちを待っていたのはあたしだけじゃなくて、池田も琴美も待っていたんだからねっ」
佐那美はそう言ってマサやんらを指さすが、マサやんらは2人でいちゃつきながらスマホで遊んでおり、全く気にしている様子はない。
その様子を見てさらに佐那美がいらついたようで――
「ちょっとあんたらいつまでイチャついているの! さっさと撮影始めるわよ」
――とマサやんを蹴っ飛ばした。
「――で、どういうシーンをこれからとるの?」
僕が佐那美に尋ねると、佐那美はニヤニヤしながら「そうね。まず眞智子、この木刀持って」と彼女はそういってどこから取り出した木刀を差し出す。
「えっ、私木刀持ってどうするの?」
「それで、その向かいに神守君と美子が立って」
僕と美子はわからない状況で立たされる。
――こんなシーン台本になかったぞ。
「その次、美子はうれしそうに神守君の腕にしがみつき、神守君は優しく美子を見つめている」
「はぁ……」
美子と僕は佐那美の言うとおりにする。
すると眞智子の目があのケロロ目に限りなく近い状況になる。
「おもしろくない――」
ここぞとばかりに佐那美が「おもしろくないでしょ?」と眞智子をからかう。
眞智子が機嫌悪そうに「それでどうするのよ、私に何をさせたいわけ?」と淡々と彼女に詰め寄る。
「だったら、そこで美子をこれで殴ってくれる?」
佐那美の奴とんでもない事を言ってくれた。眞智子がケロロ目のまま「OK」とつぶやき、木刀を構える。
「ちょ、ちょっと眞智子。そんなので殴られたら、私死んじゃうでしょうよ! 佐那美あんたもっといい方法ないの?!」
美子があわてて眞智子の木刀の先を掴み佐那美に抗議する。
すると、駅の方から「姉さん何やっているんだよ。そんなの使っちゃだめだよ」
と聞いたことがある声が聞こえた。佐那美の弟の
元家は「こっちだよ、こっち」と言いながら新聞紙を丸めた棒を佐那美に差し向ける。
「姉さん、『駅の方』だけじゃわかんないよ! 通りがかりの人がレインの話をしていたから、何とか場所がわかったけど――それに小物を間違って持って行かないでよ!」
どうやら佐那美の奴、元家にろくに場所を伝えなかったらしい。
僕は眞智子から木刀を取り上げると元家の新聞棒と交換する。
「それだよ、それ。間違えないでよね」
といいつつも、あからさまにつまらない表情で新聞棒を軽く回した。
――眞智子の奴、本当は美子をぶっ飛ばしたかったのか?!
彼女の「チッ――」という舌打ちが気に掛かる。
「それじゃあ、もう一回リハーサルやるわよ。元の場所に戻って」
佐那美の合図で皆それぞれの持ち場に着く。マサやんも琴美とカメラの位置を確認しリハーサルが始まる。
パコーーン!
あたりの人が振り向くほどかなり大きな音がペデストリアンデッキに響く。
眞智子の新聞棒が美子の頭頂部を直撃し、美子の頭が勢いよく前に垂れる。
うわっ――痛そう。
「カット! 違う違う違うのよ!」
佐那美がすぐさま入ってきた。
美子は絶句しながら、頭を抱えうずくまっている。
まだリハーサルなのに非常に気の毒である。
「えっ何が違うの」
眞智子は何かスッキリした表情で佐那美に問う。
そりゃ、そうだろう。リハで最初から豪快にひっぱたくのは無しだ。
だが、佐那美が文句を言いたいのはそこじゃなかった。
「違うの、言うの忘れていたけど頭上から振り落とすんじゃなくて、真横からひっぱたくの。先ほど強さでね」
酷い話である。美子は涙目になりがらギロリと佐那美を睨み付けた。
「側頭部? それ大丈夫なの?」
眞智子がちょっと強ばった笑みを浮かべながら佐那美に尋ねる。
おいおい、あんた木刀で美子を殴ろうとしていただろ?……まぁそれは冗談半分だったのかもしれないが、側頭部を思いっきり殴れといわれるとさすがの眞智子もちょっとばっかり心配する。
しかし佐那美は――
「大丈夫よ美子だし。ゴキブリ並の生命力だもん。死にはしないわよ」
――という酷い根拠で言い切ってしまう
当然、美子はキレる。
「いい加減にしろ! 私もの凄く痛かったんだから! もう頭きた。あんたらもぶん殴ってやる!」
彼女は2人に飛びかかりそうになる。
僕は美子を止め、彼女らに――
「あの、これって映画だよね。君たちはここぞとばかりに復讐していない? もしそういうことしている君たちは嫌いだな」
と2人に苦言を呈したところ、動揺した佐那美、眞智子。
「まさかぁ。でも、美子がゴキブリに見えたのは事実よ。ごめんなさい」
「ゴメン、ムカついてるとはいえ頭強く叩き過ぎた。今度は気をつけて足腰立たないようにケツにするからな」
彼女らはとても謝罪とは思えない言い訳で誤魔化した。
一方、美子は「お前らぁ……あとで覚えてろよぉ――」と涙目になりながら彼女らを睨み付け、次に彼女はケロロ目になりながら僕の方を見て何か呟いている。
「それよりも『そういうことしている君たちは嫌い』って何?それって好きっていう事の裏返しじゃないの? じゃあ、こいつらにボコられればこいつら嫌いになってくれるのかしら……それって私、生きていられるのかなぁ――」
やっぱりこの子、怖いんですけど……
――さて、撮影の方である。
衣服は彼女らの私服のままで、即本番となった。
ビデオカメラはマサやんのスマホで代用、眞智子の後方から撮影。
眞智子は美子にぶつからないようにしながら、豪快に新聞棒を斜めに振り落とし、振り落とされた瞬間に美子は崩れるように倒れる事になった。
……たしかに木刀でぶん殴れば間違えなく、そうなるだろう。
そしてスマホカメラは通行人のエキストラの佐那美と琴美ちゃんを映し出し、驚愕の表情を収めた。
そこでワンシーンが終了した。
その後であるが、ケロロ目の眞智子が僕に抱きつくシーン。
佐那美の説明によると――
「神守君、眞智子の胸にちょっと顔を埋めてくれないかな」
――という非常に理解しにくいものだった。
眞智子は顔を赤くして動揺している。僕は美子の顔色を確認しながら佐那美の話を聞くが……
「気持ちが良くて昇天する感じで崩れて倒れて」
やっぱり訳のわからない事を言ってきいた。
「えっ、それってなんか違和感あるけど」
僕の問いに、佐那美はなんて言っていいか考え、次第に苛つきだす。
「要は昇天するっていっても、スケベったらしい顔しなくていいから。そうね眞智子の胸でミスターモミーがうれしさ余ってショック死って感じでいいわよ」
彼女はいい加減に誤魔化している様だった。
「何よそれ?意味分からないわ」
眞智子が両胸を押さえながら佐那美に確認する。
「あんたらは黙って監督の指示に従う、OK? それにあんたは別に神守君だったら文句ないでしょ。畜生、ホントはあたしがそれやってもらいたかったんだけどね」
「う、うっ――」
眞智子は顔を真っ赤にしながら唸りながら俺をチラチラ見ている。
眞智子は僕が演じるその行為については余り抵抗感ない様子で、むしろ恥ずかしそうにモジモジしている。普段なら非常に喜ばしい事なのだろうが、ビビりの僕としては下で倒され歯ぎしりしている美子の方が気になった。彼女からドンヨリした何か良くない気配を感じたからだ。
その一方で、さらに佐那美と眞智子の話が進んでいた。
「眞智子さぁ、神守君が倒れるときは息を合わせて一緒に同じ方向に倒れて欲しいのよ。そういう事でお願いね」
そう彼女は言い切ると眞智子を僕の方に押しつけた。
「ちょっと、わかったわよ。いいわよ、やります!」
眞智子は覚悟を決めたようだ。
一方、僕の方も下で倒れている美子の冷たい視線が非常に痛かったが、このままでは埒があかないので、言われるがままやることにした。
「ところで、なんで私まで倒れの? 礼君が倒れて動揺して受け止めようとするか、大声出してパニックになるのが普通だとおもうけど」
眞智子が倒れる理由について再度確認するが、佐那美は「あんたも心臓麻痺を起こしたのよ!」と無茶苦茶な説明をし、眞智子は首を傾げながら渋々指示に従う事となった。
スタートの合図で僕は眞智子にぎゅっと抱きしめられ、心臓麻痺という設定で倒れると眞智子も僕に合わせて一緒に倒れ込んだ。
そしてエキストラである佐那美と琴美が腰が抜けてその場でしゃがみ込み悲鳴を上げこのシーンは終了となる。
――でも、眞智子の大きくて柔らかかったなぁ。
そう思っていたら、美子がぎゅっと僕の足の甲を踏みつけた。
「いつまでスケベったらしい笑みを浮かべているの。このミスターモミーが!」
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