第10話命の忠義
「おい、まだ見つからないのか!!」
トランシーバーに向かってガイが、怒声を浴びせている。
「申し訳ありません、俺が目を離したばかりに・・・。」
仲間の一人が言うと、ガイは舌打ちをして通信を切った。
ガイがこれほど怒っているのは理由がある、ユリカが無断で脱退したからだ。忍者と一緒で個人の独断でグループを抜けるのはご法度、ましてや誰かに自分たちの事が知られてしまったら任務にならない。
「やはり俺は最初から反対だったんだ。」
「ユリカを入団させることかい?」
李カルラが言った。
「ああ、技術もハートもだめ。ただ幼い色気が取り柄なだけの嬢様だ。」
もともとユリカは家出していた所をボスに拾われ、キラーリストに入団した。ただセンスが無い彼女が役に立つことと言えば、召使いと情報収集ぐらいな物。
「言われてみればそうかもね・・・、そろそろボスからの連絡が来る時間よ。」
ガイはリラックスのために、煙草を吸った。
小杉の車にに乗せられ高山とジョンは、目的のビルに到着した。
「おそらくあのビルだ、二人とも準備はいいな?」
「もちろん!」
「はい、行きましょう。」
小杉はビルから近いコインパーキングに車を駐車させると、三人は車から降りて慎重にビルへと向かった。
「どれがあいつらのアジトだ?」
高山が小声で、ジョンに言った。
「うーん・・・・、あの窓の辺りかな?あの窓だけ、暗幕がかけてあるから。」
「四階だな、慎重に行くぞ!」
すっかり乗っている小杉を先頭に、三人はビルの裏側に回った。そして非常用階段を上っていったとき、小杉が「下がれ!」と叫んだ。
「パン!」
銃声がしたかと思うと、三人の男達がこちらに近づいてきた。
「愛犬を助けに来たようだが、そうはさせない。」
三人は高山らに拳銃を向けている、同じ三人でも拳銃の有無で優位がはっきりしている。
「どうすれば・・・。」
「僕に考えがある。」
ジョンが高山に言うと、高山は頷いた。
「さあ、こっちに来い!」
男達の一人が命令する、するとジョンは懐からなんとダイナマイトを取り出し、あろうことか持っていたライターで着火させた。
「えっ!?」
「それっ!」
ジョンは男達に向けてダイナマイトを投げた、男達はパニックになった。
「高山さん、小杉さん!今だ!」
ジョンが言うと高山と小杉は頷き、男達に体当たりをした。特に小杉は元ラグビー部だったこともあり、スクラムで鍛えたタックルは強烈で男達は全員が気絶した。
「あっ、ダイナマイトは!!」
「大丈夫だよ、高山さん。」
ジョンが指さす方を見ると、ダイナマイトは爆発せずに燃えている。ジョンが足で踏みつけ鎮火させた。
「このダイナマイトは、導火線以外は全てにせもの。火薬は入っていない。」
「すごいなあ・・・、それより先に進もう!」
高山とジョンと小杉は、階段を駆け上がっていった。
「ガイ、お前が犬一匹にてこずっているのはどういうことだ?」
トランシーバーから、ボスの沈黙の怒りが伝わってくる。
「すいません・・・・、どうしても殺させまいと邪魔する輩がいまして・・・。」
普段は冷酷で恐れ知らずなガイも、ボスの声を聞くと態度が小さくなる。
「ジョンの事か・・・、全く息子とあろうものがいい迷惑だ。」
「えっ、本当ですか!」
「ああ、何ならむしろ殺してもいいんだぞ。」
「でも・・・。」
「お前が私に従順なのは解る、しかしあいつはもう息子ではない。」
「わかりました、でももう大丈夫です・・。」
とガイが言った時、高山とジョンと小杉がドアを開けて侵入してきた。
「ガイ!敵襲よ!」
「ああ、・・・ボス、すみませんが通話を切らせていただきます。」
ガイは通信を切ると、即座に近くにあったライフルを構えた。
「ハスキーを返せ!」
高山が大声で言った。
「言っただろう、あいつは失敗作なんだ。」
「失敗作でも生きていく権利はある!」
今度はジョンが言った。
「ボスの息子が正義かぶれか・・・、こりゃ勘当されるわけだ。」
ジョンはそのまま黙ってしまった。
「ハスキーはどこだ!どこにいる!」
小杉が大声で叫ぶと、背後からガイの仲間が来て高山らの背に銃口を当てた。
「お前ら、動くな!」
「くっ・・・、なんてことだ。」
「遅かったな、でもいい。せっかくだからハスキーの最期を見届けさせてやろう。」
ガイは仲間に指示を出すと、仲間の一人がケージごとハスキーを連れてきた。ハスキーは中で暴れていて、目隠しをさせられていた。
「まさか、殺すのか!」
「何を訊いている?当然の事だろう。」
「やめろ!・・・・・やめろ!」
「叫ぶな!本気で撃つぞ!」
高山は背後にいる男に怒鳴られた。
「さあ、今天国へ送ってやるからな。」
目の前でハスキーが・・・家族の一員が・・・・理不尽な宿命を理由に殺される。高山はハスキーが、銃殺される瞬間を見たくはないと、強く瞼を閉じた。
「グオ―ーーーーーーン!」
ハスキーが轟くような遠吠えを上げると、なんと自力でケージを突き破って飛び出した。
「何!?」
「えっ!?」
瞼を開けた高山は、目を疑った。そこには目を隠されながらも、孤軍奮闘するハスキーの姿があった。
「グワーーーッ!」
「ギャーーーーッ!」
ハスキーは高山らの背後にいた男の肩に噛みついた。
「何をしている!早く殺すんだ!」
ガイが怒鳴る間にハスキーは、もう一人に噛みつく。
「もう、手のかかるわね!」
「そうはいくか!」
援護しようとした李カルラに小杉が体当たり、李カルラは伸びてしまった。
「お前ら、好き勝手はここまでだ!」
「グッ・・・・。」
ガイはとっさに高山を捕らえ、銃口を高山の右側頭部に当てた。
「高山!・・・くそっ!」
「さあ、高山を殺されたくなければハスキーを連れて来い!」
「もう連れていけないよ・・・。」
「何!?」
ジョンはガイに目隠しを見せた、ジョンの後ろではハスキーが大男に変身していく。
「余計なことを・・・!」
「ハスキー・・・、じゃあ今日は!」
高山は咄嗟に後ろの窓をチラッと見た、夜空に満月が輝いていた。
「ガアアアアア!」
「くっ、これでもくらえ!」
ガイは銃口をハスキーの胸に向け、発砲した。
「ああああああああああ!」
銃声を聞いた瞬間、高山は発狂してガイを殴った。
「うおおおおおおお!」
更にガイが倒れた瞬間、大男がガイの胴体を殴った。
「ガハアアアアアア!」
大男の拳がガイの胴体に食い込み、ガイは断末魔の叫びを上げた。
「パラドックス・ウルフ・・・。」
高山が呆然としていく中、大男は胸から出血し倒れ、元のハスキーの姿に戻ってしまった。
「パラドックス・ウルフ!おい、大丈夫か!パラドックス・ウルフ!」
高山はハスキーを揺さぶり声をかけた、しかしハスキーはもう亡骸になっていた。
「あああああああああああーーーーーーーーーーーーーー!」
悲しみの悲鳴を上げる高山に、小杉が話しかけた。
「高山・・・、ハスキーは最後の力を持ってお前を助けた。きっと悔いは無い。」
「高山、ごめんなさい。僕がもっとしっかりしていたら・・。」
小杉もジョンも泣き出した。
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