第6話獣人化計画
突然の祐介の死により、しばらく落ち込んでいた高山。しかしハスキーのためにも生活に支障を出してはならないと、すぐに立ち直った。
「祐介がくれたこの立派なハスキーのためにも、俺は頑張るぞ!」
それからしばらくして四月も終わりに近づいてきたある日、高山が働いている書店に一人の少年がやってきた。少年は中学生ぐらいの背丈で青い目をしている。
「あの、すいません。」
少年は流暢な日本語で、高山に話しかけた。
「何ですか?」
「ここに、高山卓さんという人がいると聞いたのですが、ご存知でしょうか。」
「高山卓は私だ。」
「おお、高山さん。はじめまして、僕はジョンと言います。」
「よろしく、ところで君は外国人か?」
「はい、アメリカのユタ州から来ました。」
「何の用ですか?」
「実は、あなたの家に泊めて頂けないでしょうか?」
「どうしてですか?」
ジョンは少し体をもじもじさせると、こう答えた。
「実は僕、日本に置き去りにされたんです。」
「はあ、どういうこと?」
「僕は日本に到着するや否や、父さんからジュースを飲むよう指示されたので飲みました。そしたら急激な睡魔に襲われ、気が付いた時には路地裏に居ました。幸いお金が多少あったので、電車と歩きでここまでやってきました。そして今夜の宿を探している時に、あなたの事をあなたの友人から知りました。」
「わかった、行く当てが無いなら入れてあげる。でも君、犬は平気かな?私はハスキーを飼育しているんだ。」
「いいよ、むしろ犬は大好きなんだ。」
「そうか、じゃあ午後六時頃にまたここに来てくれ。」
「どうもありがとうございます、それじゃあ!」
ジョンは手を振りながら、笑顔で書店を出た。そして午後六時、高山は書店の前で待っていたジョンを車に乗せ、自宅に向かった。運転してから五分程経った頃、ジョンは高山の肩を軽く叩いた。
「どうしたの、トイレか?」
「ちがう、後ろの車が僕らを追跡している。」
バックミラーを見ると、車種は分からないが確かに白い車がいた。
「高山さん、悪いけど撒いてくれる?」
「わかった、出来る限りやってみる。」
運転はそう得意ではない高山はとりあえず、不規則に角を曲がりながら車を走らせた。十分後、後ろにいた白い車はいなくなっていた。
「よかった・・、でも大分自宅から離れてしまった・・・。」
その後高山とジョンはラーメン屋で夕食を食べると、午後八時頃にマンションに着いた。高山がいつも通り玄関を開けると、ハスキーが出迎えてくれた。
「おーよしよし、遅くなって悪かったな。」
「大きいですね、撫でていいですか?」
「いいよ。」
ジョンはハスキーを撫でようとしたが、ハスキーに吠えられてしまった。
「ははは、まだ慣れてないからな。お風呂入るか?」
「はい、ありがとうございます!」
浴室に向かうジョンを見て高山は疑問を持った。彼はどうして両親に置き去りにされたのか?はたまた出会う前から自分の名前を知っていたが、どうやって知ったのか?そして高山が入浴を終えた後、パジャマ姿のジョンが高山に言った。
「高山さんにお願いがあります。」
「何でしょうか?」
「僕の事は誰にも言わないでください、もし尋ねられたら『最近知り合った小さな友達』と言ってください。」
「それって、相手が警察でもということ?」
ジョンはこくっと頷いた。
「どうしてだい?このままだと、君はこの日本ですごく困ることになるんだよ。それに君はアメリカに帰りたくないの?」
「アメリカにはいずれ帰るつもりです、ですのでこのままあなたの家に住まわせてください、お願いします!」
ジョンは土下座した。高山は困っていたが、困っている人を放っておけない質なので「ハスキーの散歩と買い物以外は、あまり出歩かないこと。」を条件に、ジョンを自宅に住まわすことにした。
高山が衝撃の事実を知ったのは、それから五日後の満月の日の事だった。この時ハスキーは、高山が仕事中の間ジョンに散歩させてもらっているため、ジョンにも懐くようになっていた。
「高山君、ホームステイの受け入れ始めたの?」
帰宅してきた高山に後藤さんが尋ねた。
「ああ、そうなんだ。初めは不安もあったけど、今は仲良くやっているよ。」
高山はそう答えて、自宅に入った。そしてジョンと夕食を食べている時、高山はジョンにハスキーの秘密を教えた。
「実はこのハスキーは、満月の日の夜に大男に変身するんだ。信じられないだろうが、これは本当の話だ。」
するとジョンはウンと頷くだけだった。その後も注意事項をジョンに伝えたが、頷くだけ。高山はジョンの反応に、疑問を持った。
「やはり何か裏がある・・・。」
実は高山はジョンに内緒で、ジョンが出会った自身の友人について調べていた。しかし小杉も日向も文雄どころか、誰一人ジョンに会った事はないという。もしかしたらあの時美央と話している隙に、私を殺そうとした男のグルかもしれない。高山はその日、不安で寝付けなかった。
そして満月が輝く夜、ハスキーは大男に変身した。大男は辺りを見回して、真っ先に肉が山盛りになった皿の方向へ向かって行った。これは高山が事前に用意したものである。大男がガツガツ貪っていると、突然リビングのガラス戸が割れて、そこから黒ずくめの格好をした男が入ってきた。しかも猟銃を構え、銃口を大男の方向に向けている。
「ついに片づけられるぜ、この失敗作を・・・。」
大男は狼のように唸りながら、男を睨んでいる。するとそこへジョンが、乱入した。
「こいつは殺させない!」
「お前か・・・、最近俺の行く先々に現れやがって・・・。」
ジョンはポケットから出した小型ナイフを持ち、男と相まみえる覚悟で戦闘態勢をとった。互いの間からは、殺気と闘志が渦巻いていた。すると男が大男の頭を狙おうと、銃口を少し上へ上げた瞬間!
「誰だ!」
と高山が大声で部屋に入ってきた。
「高山さん!」
とジョンが叫ぶと、男は舌打ちをして高山にタックルしながら部屋を走り抜け、内側から鍵を開け玄関から出た。
「大丈夫ですか!」
ジョンが高山に言うと、高山は起き上がりこう言った。
「ジョン・・・、君は何者なんだい?私にぶつかってきた男は私も知っているんだ、それに君も知っていた。これはどういうことなの?」
ジョンはこれ以上隠せないと悟り、真相を話した。
「僕が日本に来たのは、このハスキーを引き取るためなんだ。」
「どういうこと?」
「このハスキーが満月の夜に大男になるのは知っているね、その能力は改造手術によるものなんだ。」
唖然とする高山に、ジョンは話を続けた。
「このハスキーは獣人化計画で生物兵器にされたんだ。」
「獣人化計画って何?」
「簡単に言うと動物を人間化させて戦争の道具にするんだ。例えるなら牛をミノタウロスに、オオトカゲをリザードマンにって感じかな。」
「じゃあ、ハスキーはワーウルフになるはずだったってこと?」
「そう、だけど改造手術にミスが生じて完全な人になってしまった。しかも本来なら常態化するはずなのに、特別な条件でしか発動しない落ちこぼれになってしまった。」
この後ジョンは、高山に更なる衝撃を与える話を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます