第4話失恋の狼男
さて無事に再開した高山とハスキーだが、その前後のことを少し説明する。
昨日の深夜、ハスキーは大男に変身し娘の両親を捕食した。娘はこの時尿意で目が覚め、トイレに向かっていた。そしてトイレから出た後、娘は両親を捕食する大男を目撃。娘は恐怖のあまり半狂乱のまま、玄関から飛び出してマンションを出た。そして柳公園まで逃げ出し、遊具に隠れて恐ろしい一夜を明かした。その後娘は自力でマンションに戻って、自宅の中を見た。そこには血塗られた床にあるバラバラの両親と、口の周りが赤くふっくらとしたハスキーの姿だけがあった。その後娘の家に警察が来た。娘は「両親はあのハスキーが、大男に変身して殺した。」と証言したが、娘の自宅内のむごすぎる状況に、警察は「暴れたハスキーがあそこまでするなんて思えない。」と感じ、娘の証言は信じてもらえなかった。その後娘は児童養護施設に連れられ、娘の元自宅は原状回復した。しかしこの一件で悪い噂がたったため、今もその場所は空き家のままである・・。
さてそれから一週間後、高山は車で百合の花動物病院へ向かっていた。目的はハスキーの健康診断である。
「ハスキー、今日はいい子にしてろよ。後でご褒美あげるからな。」
高山はケージの中野ハスキーに向かって言った。マンションから四十分程で、動物病院に到着した。高山はハスキーをケージから解放し、百合の花動物病院の中へ入っていった。
「予約した高山卓です。」
「はい、高山様ですね・・・・!」
すると受付のお姉さんこと、星田董が顔を赤くした。
「あの・・・、どうしました?」
「えっ!すみません、整理券をどうぞ・・・。」
高山は?という顔で、待合のソファーに腰を下ろした。そしてハスキーの番が来たので、高山はハスキーを連れて中へ入っていった。そして一通りの診断を受け、医者から次のような報告を受けた。
「このハスキーは極めて健康です、この状態を維持してください。ただ・・・、一つ気になることが・・・。」
「何でしょう?」
「このハスキーは、どのようにして入手されましたか?」
「えっとーー、保健所から引き取りました。」
「なるほど、保健所からとなると元は野生化していたり元の飼育環境が劣悪なところから引き取られたものが多いので、健康状態が悪いほうが普通なんです。」
「そうなんですか・・・。」
「それなのに健康などころか、この大きな体格。タイリクオオカミと見間違えても不思議じゃない。」
「ははは、私もそう思います。」
高山は上機嫌で、百合の花動物病院を後にした。
その後、高山はいつも通りの平日の生活に戻った。高山は書店のレジ前の椅子で、のんびり本を読んでいた。昨今書店に来る人は減少傾向なので、今では店内に客が居ないほうが普通になっている。
「それにしても本当に暇だな・・・。」
高山が言いながら欠伸をすると、入り口のベルが珍しく鳴り出した。
「いらっしゃいませ。」
店内に入ってきたのは、コートを着た清楚な女性だった。
「ん?あの人、何処かで見たな・・・?」
高山の予想通りこの人は、動物病院の受付をしていた星田董だった。星田は店内でエッセイやマンガなどをしばらく立ち読みしていた。そして二冊の本を持って、高山のいるレジに向かった。
「ありがとうございます。」
「あっ、高山さん!ここで働いているんですね。」
「えっ!どうして僕の名前を・・。」
「あっ、すみません。私は星田董と言います。動物病院でお会いしました。」
「ん?あっ、受付の人か!」
高山は雑談しながら、会計をした。
「あの、実は前から・・・。」
「ん、どうかしましたか?」
すると星田は顔を紅潮させると、購入した本をほったらかしにして書店を飛び出した。
「あっ!星田さん、忘れ物ですよ!」
高山も書店を飛び出したが、星田の姿を見失ってしまった。
「弱ったなあ・・・、預かっておくか。もし今日中に来なかったら、職場に持って行ってあげよう。」
高山は博田にこの件を報告し、袋にレシートと本を入れて星田が気づいて戻ってくるのを待っていたが、結局星田が書店に戻ってくることは無かった。
そして翌日、高山は博田に「星田に本を届けてくる」と一報を入れて、袋をもって百合の花動物病院へ向かった。到着すると星田との件を松本清美に伝え、星田を呼び出してもらった。
「あの、本当にすみませんでした。あの後、急に仕事が来てしまって・・。」
「気にしなくてもいいよ、はいどうぞ。」
高山は星田に袋を渡した。
「星田さん、ほんとうにおっちょこちょいで・・。」
松本は母親にでもなったかのように言った。そして星田は高山に小声で「あの今週の金曜日に来てもいいですか?」と言った。高山は疑問を感じながらも、職場に向かった。
そして金曜日(満月の日)、星田は高山のいる書店に向かった。
「いらっしゃい、今日はどうしましたか?」
「・・・・・実は・・・・・高山・・・さんのことが・・・・・・・・・・・大好きです!」
ここで突然の告白である。
「えっとーー・・・。」
「嫌いですか?」
「いや、君の事は可愛いいと思うよ‥。」
「じゃあ、好きという事ね!やったーー!」
一人で勝手に決めつけ喜ぶ星田、高山は唖然とした。
「じゃあ、あなたの家に行ってもいい?」
「・・・・だめだ。」
「どうしてよ!」
星田は怒りだした。
「いや・・、人には見せられないものがある。」
「何よ、クスリでもやってるの?」
「大きなハスキーがいる、噛まれるといけない。」
「私犬好きだし、犬アレルギー無いから平気よ。」
「・・・わかった、でも今日中には帰ってくれ。」
高山は口論するのを諦めた。
「ありがとう!じゃあ待っているね。」
店を出る星田を見て、高山はため息をついた。一部始終を聞いていた博田は「凄い女性だね・・。」と呆れていた。そして帰宅時、星田は高山についていった。途中でコンビニによりビールを買って、星田は高山の家に上がり込んだ。
「うわあ、大きい!」
「パラドックス・ウルフというんだ。」
「変わった名前だね。」
星田は家に上がるなり夕食作りを始めた、高山はどんなのができるのかという期待と不安でいっぱいだったが、食べてみるとこれが美味しかった。しばらく雑談をしていくうちに、高山は星田に少しながら魅力を感じた。ところが買ったビールを全てのんだ星田は、そのまま眠ってしまった。強く揺すっても怒鳴っても起きない。
「今日中に帰る約束なのに・・。」
仕方なく高山は星田を自分の部屋まで運び、そのまま寝かせた。
午前一時頃、星田は尿意で目が覚めた。トイレに向かい用を足した後、高山の部屋へ戻ろうとすると、何かとぶつかった。
「高山さん?・・・」
しかし目の前に居たのは、全裸の大男だった。
「ひゃあああああああ!」
星田はパニックになり、勢いのままに玄関から飛び出した。星田の叫び声で、リビングで寝ていた高山も目が覚めた。
「星田さん?星田さん!」
高山が呼びかけたが、星田からの返事はなかった。
「驚かしてしまった・・、だから見せたくなかったのに・・・。」
こうして高山と星田の恋のようなものが幕を閉じた。
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