雨上がり

真水

雨。

 昨晩、雨が降ったから。

 

 登校中に黒猫を見たから。

 

 携帯の充電を忘れていたから。

 

 同じ漫画を2冊買ってしまったから。

 

 

 

 

 

 1歩歩く事に1個考えつこうとか、無謀な話だろ。分かってたけれどバカバカしさに溜息をつく。少し歩調を弱めたが、それも意味をなさない。

こんな事してもできなきゃ意味ねぇんだよなぁ。というかそもそも、考えた中でマトモなものなんてひとつも無い。今だってそうだ。きっと見られたら鼻で笑われるだろう。いや、鼻で笑う暇なんてないかな。知らないけど。いや、でも今日の私は違うぞ。違うんだ。いつだって、発揮するタイミングを間違ってきた行動力。

 

 

 

 おはよう、と声をかけ、教室に入る。数人の声が返ってくる。そうすればあとは、今日暑いね、など他愛のない話のスタートだ。暑いねぇ。ニコリと笑って返す。変じゃないよな。

 

 1時間目。2時間目。3時間目。4時間目。今日は特に長い気がする。何も変わらないけど。

 

 

 

 

 

 でもここからは違う。少し気を引き締めなくては。

 何も無い風に、素知らぬ顔で。

 教室を出て、廊下を抜けて、階段を上る。屋上の扉は空いていない。想定内。ドアノブごと回せば空くんだよ。鍵イッてんだよ、これ。先輩と忍び込んだ時のワクワクが懐かしい。なんだかごめんなさい。あの時の笑顔に謝りながら、ノブごとグッと回す。なんで謝ったんだ。今。あぁ、確かに、鍵壊れてんなこれ。この調子だと私以外にも忍び込むヤツがいてもおかしくない。こんなに簡単に開くんだったら、もっと早く来ればよかったな。

 

 1度後ろの階段を確認して、念の為その下の踊り場も確認して、誰もいないことに少し安心する。ここまで来れば大丈夫だろ。

 

 ドアは錆びて、ギギギと重い音を鳴らした。以外に音が大きくてヒヤリとしたが、モタモタして気づかれては不味い。少しの隙間に体を滑り込ませた。


 

 

 

 風で崩れた前髪を直す。しかしまたすぐ吹いてくるから、そのうち諦めた。眩しい。雨の次の日だからだろうか。銀色の手すりが妙に反射する。後ろ、誰もいないよな。念の為確認するが、誰もいるはずはなく、安心したが、少し苦しかった。そしてその苦しさは自覚されるべく、しかし見て見ぬフリをした。はぁ、と溜息をつく。

 

 念には念を、この時間を邪魔されるのは御免だ、と屋上をぐるりと一周する。不良ってホントに貯水タンクの上にいるのかしら。それも確認したかったが、梯子などの登るすべが無かったので諦めた。まぁ、こっちから干渉しなければあっちもしてこないだろう。そもそも、いるかどうかも分からないし。

 

 誰1人としていないことにもう一度安心した。言うまでもなく、ズキリと痛んだがそれは無視する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を閉じ、少し経って開ける。

 

 両手で手すりを握る。

 

 

 

 グッと体重を乗せ、体を浮かせ、着地する。

 

 

 

 

 あれ、靴って脱ぐのが礼儀なのかな。ま、いいか。

 

 

 

 

 

 

 昨晩、夜の雨があったので。

 

 

 

 

 

 

 

 呟いて、足は、縁を蹴った。

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