第16話 姉以外のヒロイン登場?

 御園中学と御園高校へ別々に繋がる道にたどり着く。

 放課後も遥と一緒に帰ることを約束して別れた。

 一人になった流斗は、御園中学へと足を踏み入れる。


 立派な校門が流斗を出迎えた。周囲には少数のガードマンと思われる者や、監視カメラが仕掛けてある。魔術を使える現代において、そのカメラが役に立つとは思えなかったが、おそらく何か特殊な機能が搭載されているのだろう。


 昨日、学校のパンフレットを見て確認したあと、昨年までここに通っていた遥に校舎の説明や位置取りは教えてもらってはいたが、改めて実物を見るとその広さと立派な造りに驚きを隠せず、周りをキョロキョロと眺めてしまった。


 そんな自分のことを不審な目で見る生徒に気付き、その場を急いで後にする。事前に伝えられていた教室へと向かった。そこに自分のクラスの担任教師である人が控えているはずだ。


 歩きながらパンフレットの内容を脳内で反芻する。この私立御園学園には、今では全国の高校に取り入れられている、特殊な授業制度を中学の時点で取り入れてある。


 特殊な授業制度というのは、個々の才能をより強化するために、『悪魔』との戦いの後に導入された新たな教育制度のことだ。その制度により、午前中の授業は平常通り主要科目の授業が行われるが、午後からは各自が選択した授業を受けることになる。


 選択の幅は広く、大まかに分ければ、午後もそのまま勉強をする者や、スポーツ、芸術、魔術の鍛錬などを行う者がいる。


 ひとえに勉強といってもその種類は無数にあり、本来学校で習うレベルに留まらず、科学、化学、医術、天文学、地形学、心理学、工学、工業、経済、生命などのハイレベルな知識を学ぶことができ、特殊な技術を習得することも可能だ。


 スポーツや芸術では、各競技や分野で全国のライバル校と熾烈な争いを勝ち抜き、学校に利益をもたらすためや、プロになって大金を貰うためなど、様々な思惑が重なっている。


 その中でも武術は軍事的戦力になりうるため、特別過酷な授業を行っているそうだ。


 そして魔術の才能があるものは、学園から直接推薦を受けてさらなる鍛錬を積むことになる。才能は乏しいが自身の実力を高めるために、自ら魔術の授業を選択する者もいるようだ。魔術の専門授業は、悪魔の再侵攻に備えた日本における魔術師育成機関でもある。


 これによりこの学校では、体育、音楽、美術、書道、家庭科、技術などの副教科の授業は行われない。すべて各自の判断に委ねられているのだ。


 それは目まぐるしく変わるこの世界情勢に適応し、自己の長所を国の役に立てるためであり、個々が生き抜くためでもあった。


 昨日パンフレットを読んだ流斗は、自分が選択する科目をすでに決めていた。


(俺の選択科目は武術しかないだろうな)


 そんなことを考えながら、目的の教室に向かって廊下を歩き、角を曲がろうとしたところ。反対から物凄い勢いで角を曲がってきた人物に強烈なタックルをくらう。


「ぐふっ!」


 物思いにふけっていたところを思いもよらぬ衝撃が襲い、間抜けな声が漏れた。


 ぶつかった衝撃で両者は宙に投げ出される。瞳は空中で豪奢な金髪縦ロールの少女を捉えた。運動エネルギーの関係で、二人は流斗が歩いてきた廊下の方向に倒れこんでいく。


 その際に位置が入れ替わり、流斗の体は上方に流れた。そして下方に流れた少女の頭は地面に激突しそうになる。流斗は咄嗟に右腕を伸ばし、少女の頭を抱え込みながら床に倒れた。右腕に鋭い衝撃が走るが、流斗にとっては大した問題じゃない。


 少女に怪我がないか確認しようとして、その顔を見る。西洋人形のように整った顔立ちで、その容貌からは優美さが漂い、陶器のような滑らか白い肌が印象的だった。


 視界に入った髪は綺麗な金髪で、サイドは縦ロールになっており、腰まで伸びた長い後ろ髪は真っ白いリボンで束ねられている。


 流斗の手は少女の髪の上から後頭部を保護しており、彼女に怪我はなさそうだ。


「うっ……い、たたた……」


 少女が呻きながら瞳を開き、その綺麗な青い目が流斗の顔を捉える。その目線はゆっくりと下に降りていき、少女は自身の胸元を見て顔を真っ赤にした。意味が分からず流斗も目線を下ろすと、自身の左手が少女の胸の上にしっかりと添えられている。


「うおっ!」


 流斗は驚いた声を漏らし、思わずその左手の指を動かす。

 指にぷっくりとした柔らかさが伝わってきた。


「――おおおお、これは! 申し分のない柔らかさだ……っ! だがしかし、姉さんには遠く及ばないな……あの大きさと弾力に比べれば、まだま――うぐっぉ!」


 言葉の途中で少女に腹を強く蹴り上げられた。

 流斗の体は後方に勢いよく弾かれる。

 少女は顔を怒らせながら起き上がった。


「あ、あなたっ! なんてことするんですのっ! 人の、む、胸を触った挙句、他人と比べて貶めるなんて……許せませんわ!」


 確かに、彼女の胸は遥より小さかった。だが悲嘆することなかれ。彼女の胸はまだ成長途上の中学生の胸だ。高校生の遥と比べるのは酷であろう。これからの成長に大きな期待が持てる。


 そもそも自分の姉は、この世に存在するどんな女性よりも美しいのだ。比較すること自体がナンセンス。誰も人と女神を対等に見ないだろう? そういうことだ。


 流斗は勢いよく腹を蹴り飛ばされたというのに、大したダメージを見せずに起き上がった。極限まで鍛え上げられた腹筋の前では、女子中学生の蹴りなどまったく効かない。むしろ気持ち良いくらいだ。いや、別に変な意味ではなく。


 流斗は今頃になって、少女に弁解を始める。


「おいおい、待ってくれ。俺はあんたを助けようとしただけで、胸を触ったのは故意じゃないんだ」

「何をおっしゃりますの! あなた、胸に触れているのに気付いてから、さらに揉んできたじゃないですの!」


 少女の怒りは止みそうにない。心なしか彼女の金髪が逆立っているような気さえする。


「……チッ、ばれたか」


 流斗は悪びれずに舌打ちした。

 元暗殺者とはいえ、流斗も年頃の男の子だ。そういうことに興味がないわけではない。


 それに加えて、流斗は神崎家で過ごすうちに、良くも悪くも普通の少年へと近づいていた。そもそもあのナイスバディな遥とずっと一緒にいれば、邪な感情も芽生えるというものだ。だからといって、自分のことを『弟』として可愛がってくれる『姉』に手を出すわけにはいかないし。


 そもそも流斗は遥に忠誠を誓っている。遥のことをそういういやらしい目で見ることなんて……たまに、本当にたまに、極々稀にしかない。……たぶん。



 ◇ ◇ ◇


 あとがき

 七年間使っていたノーパソがご臨終しました。逝く前になんとか必要なデータは移せましたが。ちょっと更新遅れるかもです。

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