みによむ・シンデレラと魔法使い

山岡咲美

第1話「裸足の少女と真紅の魔法使い」

 「すいません卵を二つ下さい」

その男はモーニングブレスト、二つボタンで膝丈程ひざたけの黒い服、ごく一般的な紳士の礼服を着ていた。

「悪いが紳士様、あんたに売るものは此処ここにはには無いよ」

マルシェの一角に店を出すその男は丁寧ていねいながらいやみっぽくそう言った。

わたしの姿がご主人の気を悪くさせたなら申し訳ない」

決してその男が非礼な身なりをしていた訳では無い、ただその男の髪と目が真っ赤な血の色をしていたのだ、それは異端の証し魔法使いである事を表していた。


「なあ戦友、オレ達が戦場をのたうって手にいれた物はこんな物かよ」


その男は外人部隊として戦場にいた、そして生き残りこの[遠い国]の市民権をえたのだ。

「あの紳士様、私が代わりにお買いいたしましょうか?」

男は振り返る、そこには随分ずいぶんとみすぼらしい服の若い娘が立っていた。

「この金で卵を二つ頼む」

男はあっさりとその見ず知らず娘に金を渡した。

「はい、お任せて下さい」

男はよくその手でだまされていた、世間知らずの魔法使いを騙すのは簡単らしいのだ。

(あのむすめクツいて無かったな)

だが今回は違う、えて騙されたのだ。

「ま、この国の人に助けられた事も有ったしな」

(隊長は御健在ごけんざいだろうか?)

男はそう言いむすめの後ろ姿を見送ったあと家路についた。


「すみません、いらっしゃいますか?」


ドアノッカーが2回叩かれそう声がした、男はおどろくあのむすめだ、男は混乱したが出ない訳にもいかない、明らかにここが男の屋敷と知ってる風だ。

「あのお嬢さん、何の用向ようむききかな?」

(オレは何をいってるんだ?)

大きくは有ったが雨漏りするような古屋敷ふるやしきの扉をあけ混乱を悟られないよう静かに言う。

「あの、卵をお届けに…」

(卵?、卵、卵、卵、卵?)

男は気付く、このはオレ為に、卵を買って来てくれたのだ。

男の顔はみるみる赤く成る、顔も髪も目も真っ赤だ。

(ふう……)

「申し訳ないレディ、わたしはレディの事を盗人ぬすっとだと思っておりました、お金はレディが余りのお姿だったので差し上げるつもりでお渡しした物です」

そのむすめはキョトンとした顔で話を聞いている。

「本当に申し訳ない」

男は深々と頭を下げる。

「そうですね、こんな成りの女が金を出せなんて言えばそう思われても仕方ありません」

男は頭を下げたままバツの悪い表情をしている。

「でもありがとう、こんなわたしと呼んで下さって」


これがオレ、真紅しんくの魔法使いと裸足はだしの少女との出逢いの話である。




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