第10話 炎獣(えんじゅう)
タクマ達は一度宿屋で休みを取る。そして、朝が来た。
「あ〜よく寝た、この布団寝心地良いな」
久々のベッド。まるでホテルに泊まったかのような気持ちいい朝を迎えられた。
そろそろ王のもとへ向かおうと、タクマはメアを探す。
しかし、辺りを見渡しても、何故かメアが居ない。ベッドは二つ置かれているが、流石に男と一緒に寝るのは嫌だったから、別の部屋で寝たのだろうか。いや、借りた部屋はここだけだからあり得ない。
タクマは、メアが先に出てしまったと思い、メアを追いかけるようにして部屋から出ようとした。
その時、出入り口の隣に設置されたクローゼットがガタガタと音を立てながら動いた。
「わぁっ!な、何だ!?」
タクマは恐る恐るクローゼットを開ける。
するとそこから、ホラー映画に出てくる、間接のヤバイ化け物のように、ぐにゃぐにゃとしたメアが寝ていた。
「お、おい起きろ。てか、この関節どうなってんだ?」
タクマは、メアの頬を弱めに叩いて起こす。
すると、メアはぐにゃぐにゃの体を戻し、ふわぁと呑気にあくびをした。
「何じゃタクマか。ここの寝床は快適じゃな」
「そこは寝床じゃない。それに、見てはいけないものを毎回見せる事になるからやめてくれ、頼む」
そう、メアは長年屋敷の棺桶で寝続けていたせいで暗くて狭い場所じゃないと眠れなくなっていた。
タクマはその正体がメアだった事にホッと息をつく。
「よし、王の所に行って話を付けよう」
「本当に大丈夫なんじゃろうな?」
メアは、どこか不安そうな顔でタクマに訊く。しかし、森を燃やしたと言う冤罪から助けてくれた優しい王だったのだ。話せば分かるはず。
タクマはそう信じ、二人はチェックインを済ませ、アルゴ城へと向かった。
【アルゴ城 城内】
今日は時間的にも早かった為か、城の見張りがまだ少ししか居ない時間に入ることができた。
特にやましい事をするつもりはないが、その方が良かったのか、メアの顔色は悪くなかった。
「おぉ来てくれたか、タクマ君」
「はい。幽霊屋敷の調査の結果報告に参りました」
玉座の間に続く大きな扉の前で待っていたアルゴ王が、階段を降りてこっちに近付く。
「おや?ところでその娘は一体」
「あの屋敷に住んでいた住人です、見れば分かる通り幽霊じゃないので連れてきました」
タクマは正直に答え、自己紹介するようにとメアを振り返る。しかし、メアは何だか不満そうな顔をしていた。
心配したタクマは「どうかしたか?」と訊ねるが、メアは少し間を置いてから「……別に」と答える。
確かに顔色も悪い気がする。話し合いも出来そうにないため、メアをソファで休ませ、仕方なくタクマが代わりに話し合いをする事にした。
「結果としてはあの屋敷住んでたのはあの子一人だけで、彼女がここに来たのは……」
「取り壊し反対と伝える為に乗り込んだ。そうだね?」
アルゴ王はタクマの先を読むように答えた。予想外の事に驚いたタクマは、ただ一言「はい」としか言えなかった。本当ならメアに話して欲しかったが、王の事を警戒していて話にならなさそうだから仕方がない。
「そうだ、じゃあこうしよう。彼女と共に、私が出したクエストを達成することが出来ればその件を考えよう」
そう言い王が手を二回叩くと、大臣らしき恰幅の良い人が、小さな宝箱を開いてタクマに中身を見せた。
「これは五万ゼルン金貨。あの武器屋にある中で最強の武器と防具一式を買っても数千は残る。つまり彼女には取り壊し再検討、君には以下の追加報酬を出すと言う訳……」
話の途中、王は急に立ち上がった。何だか外が騒がしい。
更に、どこか焦げ臭い臭いも漂ってくる。敵襲を予想し、タクマは窓から城下町を見る。すると、その窓から、門が燃えているのが見えた。
そしてその目の前には……
「ティグノウス!?火ダルマのくせに生きてやがる……」
なんと、昨日戦ったティグノウスが、全身を火だるまにして襲撃してきていた。街は阿鼻叫喚の地獄。さっきまで滞在していた宿屋も、ほぼ半分まで燃えてしまっていた。
そして、その目には、真っ赤な宝石のようなものが埋め込まれていた。
「あの目は……ようし!私が酒場に出した依頼ではないが、奴を倒す事が出来れば、さっき話した報酬を与えよう」
「な、なんですって!?」
すると王は、ワイン瓶とグラスを持ってソファに座った。
そして、ニヤリと笑いながら、グラスに注いだワインを太陽の光にかざす。
「私はここで見物する。この闘いは酒のつまみに丁度いいからね」
「王様、アンタの国なのになんてことを……」
タクマが王を説得しようとした時、城下で悲鳴が聞こえた。
もう一度窓から様子を見ると、今度は民家が燃やされていた。
「早く逃げてください!」「こっちです!」
タクマは見ていられず、気が付いた時にはその窓から飛び降りていた。
「……あれ?こんな高さから飛び降りたのに、骨も折れてない?ええいそんなのどうでもいい!」
タクマは剣を抜き、ティグノウスに近付く。しかし、どこか様子がおかしかった。まるで、目の宝石から力を得ているような、そんな恐ろしい気を感じる。
あの時とは違う覇気、炎を恐れている訳ではないが、なぜか恐ろしい。
──グルァァァァァァァ!!
ティグノウスが吠えたと同時に、口から火球が飛び出した。
「この火ダルマにコピーした炎ぶつけても意味ないな……」
「ウォーター!」「くそ、こんだけ魔導師集めても消えないのかよ……」
消火にあたる人々の嘆きを聞いて、タクマはその覇気を振り払い剣を構え直す。
すると、タクマの後ろから飛んできた投げナイフが、ティグノウスに刺さった。
「これは……!?」
タクマが振り返ると、ナイフを数本持ったメアが立っていた。
「ここは一応妾の故郷じゃ。こんな奴に焼き払われてたまるか」
「よし、ここからは俺たちが相手だ!行くぞメア!」
「おう!って、妾に指図するでない!」
しかし、ティグノウスはそんなのを無視し、宿屋の消火にあたる人へ突進しようとしていた。
「相手はこっちだぞ虎野郎!」
タクマは前回攻撃した首の方へ回った。しかし……
「嘘だろ、傷がない……」
そう、傷がなくなっていたのだ。普通ならもう死ぬ筈の傷を負わせたにも関わらずだ。それも、傷を焼き繋いだのではなく、最初からなかったかのように。
タクマは動揺しながらも、必死で攻撃しようとする。
だが、纏っている炎が熱すぎて、とても近付くことなど出来ない。
「何ボサっとしておる!生物殺るには目を狙うのじゃ!」
メアはティグノウスの片目を狙って投げナイフを投げまくる。
「何故じゃ、妾自慢の投げナイフが簡単に……」
しかし、ティグノウスは鋭い爪で投げナイフを切り刻んでいく。
よく見るとその爪は、熱して叩いた後の日本刀のように鋭くなっていた。
ここで膝をついたら負け、そう言われてもこんな状況では絶望しか感じられない。
「こうなったら一か八かだ!」
その時、タクマは消火用の水を被りティグノウスの方へ走った。
「馬鹿お主!水を被って何するつもりじゃ!」
「とんでもねぇ無茶だ!」
タクマは燃えるティグノウスの背中に乗った。
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