第6話 運が悪い時はとことんツいてない

「何だ何だ?森が燃えてやがる」


 急に燃え出した森の周りに野次馬が集まる。

 すると、その中から尾が燃えるティグノウスが飛び出してきた。


「うわ!ティグノウスだ!」「お前は新人を!俺たちはコイツを止める!」


 辺りは阿鼻叫喚、中級冒険家のチーム達がティグノウスと戦闘に入る。


「僕は剣で迎え撃つ、アンは他の人達を助けてやってくれ!」


 そして、後を追ってきたフィル達も加勢する。


「うわっ!俺の剣が……」「自慢の硬い杖がこんな奴に……」「駄目だこりゃ、お前ら逃げるぞ~!」


 しかし、ティグノウスの斬撃により、歯向かう冒険家達の武器は綺麗に切り裂かれ、ほとんどがスタコラサッサと逃げていく。

 だが、それでもフィルは諦めずに剣を振った。

 しかし、その抵抗も虚しくあっさりと剣を斬られてしまう。


「こりゃ酷い。けど、例え力になれなくても、俺はやるっ!」


 タクマも二人の後を追って剣を取り、飛び込む。


「アナタそれ、ケンさんの師匠が最後に打った鉄の剣じゃない」


 逃げる冒険家達のサポートをしていたアンが、タクマの剣を見て驚く。

 だが、今そんな事を話す余裕はない。

 現状タクマは押されている。しかし、剣はティグノウスに斬られていなかった。

 一旦ここは離れよう、そうしてタクマが後ろに距離を取った時だった。

 ティグノウスが口に火のエネルギーを溜め、それを離れてすぐのタクマに向けて発射したのだ。

 その事に気付かなかったタクマは、ただ絶望の眼差しで、飛んでくる火の玉を見つめる。


「危ないっ!!」


 すると、フィルはタクマを押し、タクマの代りに火球の犠牲となった。


「……がはっ!」


 生々しく吐血する声と、フィルの小さな叫びが聞こえ、まるで世界がスローモーションになったかのように倒れ込む。


「フィルさーーーん!!」


 その光景を見てタクマは叫び、すぐさまフィルのもとへ駆け寄る。


「ぐっ……無事でよかったよ……タクマ……くん……」


 だが駆け寄るのが遅く、フィルは目を閉じてしまった。息も薄くなりつつある。その時、タクマの中で何かが燃え上がった。


「お願い!行かないで!!まだ……子供も……いないのに……」


 アンは倒れているフィルの胸に手を当てて泣く。

 すると、タクマは急に立ち上がり、さっきの火球をコピーし、《コピー・フレア》と、自分の剣に向けて放った。

 すると、先程戦っていたスライムの油に引火したのか、メラメラと燃え上がり、見様見真似のフレアソードが生まれた。


「安心してくれアンさん、フィルさんは死んでない。いや、絶対に死なせない!聞きたい事は帰りの馬車で全部話します!だからあの冒険家達と一緒に逃げてください!」


 タクマはアンに背中を向けて言う。


「でも……」

「やらせてください、あの虎だけは……許したくないんです!」


 そう言い残し、タクマは怒りの形相で燃える剣を振り、ティグノウスの爪を弾き返した。

 そして、そのままティグノウスと共に二人から離れていく。

 すると、倒れたフィルが起き上がり「アン……」と名前を呼んだ。


「彼にやらせてあげよう。あの剣と魔法を持っているならきっと……」

「……えぇ、アナタが信じるなら、私も信じるわ」



 タクマは燃える剣を構え、ティグノウスと目を合わせる。


 ──生物の急所は心臓、首、脳の三つが基本。

 タクマはその三つの急所を確実に狙える部分を探る。

 しかし相手は待ってくれない、ティグノウスはタクマに向かって走る。

 それをタクマは剣で防御するが、今度はジワジワと鋭い爪が剣に入っていく。


「燃やして炎の能力を常に使えると思ったが、鉄が柔らかく……」

 それでも、タクマは防御し続けた。

 すると、2センチ入った辺りでティグノウスの爪が引火し、燃える手で草をガリガリ削り火を消そうとする。

 爪の中に入っていた動物の油に引火したようだ。


「よし、今だっ!」


 タクマはティグノウスの背中に乗り、首に剣を突き刺した。しかし、それでもまだ死なない。

 ティグノウスはタクマを振り下ろす為に辺りを走り回る。

 そして混乱した為か、大火事の森へと入っていこうとする。


「うおっ!ストップストップストップストップ!!!」


 さっきまで本気を出していたタクマも、流石の火の中ダイブは嫌だった。そのため、タクマは思いっきり剣を抜き、中学時代に授業でやった受け身の技術を利用してティグノウスから降りる。

 すると、その目の前についさっき抜き取った剣が落ちてきた。

 数センチでもズレていれば、男としての大事な部分が吹き飛んでいただろう。

 そんな恐ろしい事を頭から振り払い、タクマが「イテテ…」と言いながら立ち上がると、アルゴの警備兵と思われる人達が近付いてきた。


「な、何すか?」

「君かね?ここら一帯燃やした奴は」

「ちょっと署までご同行願おうか、そこで話を聞こう」


 そんな事を言われ、タクマは「えっ?」と口から動揺の声を溢し、きょとんとした目で警備兵を見た。


「待ってくれ、これは全部ティグノウスのせいで……」

「見てくださいこの人、腹に火傷を負ってます!」


 タクマの弁解を遮るかのように、フィルの傷を見た他の兵士がそれを報告した。

 なんという事だ、こんな時に限って疑われる要因が増えてしまった。


「ティグノウスが?バカ言え、ティグノウスが魔法使える訳無いだろ」

「そうだそうだ、言うならもっとマシな嘘をつけ」


 兵士達は、信じることなく、タクマに言い詰める。そう言われても、事実は事実だ。それ以外に何を言えと言うのだろうか、タクマは悩んだ。

 いや待てよ、フィルは気絶してるが、アンなら証人になってくれる筈だ!

 そう思い、藁を掴む思いでアンの方へ振り返る。しかし……


「大丈夫、アイツはきっと斬首刑です。」


 しかし、兵士の慰めのせいで、タクマの無実を証明を邪魔されている。

 タクマは魂が抜けかけた。


「じゃあ、来てもらおうか」


【アルゴ 尋問室】

「それで君はどうして森を燃やそうと?神への反逆かね?」

「そうなんだろ!?早く吐けコノヤロー!」


 二人の尋問員に恐喝される。もうどっちが悪者なのか分からない。むしろあっちは傷跡ハゲの男、ヤのつくおっさんといい勝負だ。

 だが、何度言われてもやったのはティグノウスだし、フィルの火傷も奴のせい。他に言えと言われても言うことはない。


「だったらあの証人カップルを連れてきてください!彼らなら全て……」


 しかし尋問員はその言葉を止めるように「もう聞いた」と答える。


「彼女から炎魔法を使っていたと言う目撃証言がある」

「しかもただのフレアじゃないらしいな。何でもコピーだか何だかってのが付いてたらしいじゃあないか」


 この言い方からして、彼らはそこしか聞いてないようだ。これだから偏見報道が問題視されると分からないものだろうか。

 「もう駄目だ」タクマがそう思った時、尋問室前で騒ぎ声が聞こえた。


「安静にしていてください!」「ここは関係者以外立入禁止です」


 そんな声が聞こえる中、尋問室に飛び込んできたのは、腹を中心に包帯を巻いたフィルだった。


「フィルさん!?安静にしないと……」


 まさかの客人に、タクマは驚く。すると、タクマの心配する顔を見て、フィルは優しい笑顔を向ける。


「僕は彼の証人だし、恩人が冤罪でこんなとこに居るって聞いたら、怪我なんてどうでもいいさ」


 証人フィルの乱入によって、全ての尋問がめちゃくちゃになった。

 それに怒った尋問員は「お前らはアルゴ王直々に判決を言い渡してもらう!連れて行け!」と部下やタクマ達に怒鳴りつける。

 そして、二人は厳重な警備の下アルゴ城へ連れて行かれた。

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