いるかいないか猫神様

五百夜こよみ

1話 大変!同居の相手は殺人鬼?!

1:それは私と雀が言う

 朝起きると、近くで殺人事件が起きたというニュースが流れていた。

若い男が、体を切り刻まれて、公園に倒れていたという。

聞いたことのない公園名だ。

私は、目玉焼きをトーストに乗せて、それを折りたたみ三口で頬張ると、片手に持っていた牛乳で一気飲みをする。

テレビ画面に表示されている時刻を気にしながらも、台所に食器を持っていき、水につける。

洗うのは帰ってからだ、と慌ててテーブルの上に乗っけていた鞄を肩に引っ掛ける。

ニュースを見たまま、こちらを振り向かないおじさんを後目に、私は玄関へと向かった。


「いってきます」


 義理として呟いた台詞を受け取る人間はいない。

おじさんはやはり無言のまま、面白くもないニュースをじっと見つめていた。











 学校では妙な噂が流れていた。


「猫神様?」

「なんだ、かごめ、知らんのか?」


 そう呆れながらも、流行に乗り遅れている私を見て、虎は表情に若干優越感を混じらせる。

それにむっとして、


「別にぃ?そういう噂とかぁ?興味ねーしぃ?」

「拗ねんなよ」


 苦笑する虎は、なぜか私の肩を掴み、あたりを見渡し、誰も私たちに注目していないことを確認すると、声を潜めて言った。


「裏山に古ぼけた鳥居があるって話は知ってるか?」


 裏山、といってこの学校の生徒であれば誰でも思い浮かべるのは、学校の裏手のこじんまりとした山である。

山といっても大して高さはなく、私たちでも半日もかけず簡単に頂上へ上ることができる。

そもそも私たちが山と言っているだけで、本当の意味では山ではないのかもしれない、丘とか。

だけど小さいといっても木々は鬱蒼としているし、昼間でも薄暗いため、大人には入るなと口うるさく言われている。

なのに必ず年に一人は迷子になり、学校中が大騒ぎする羽目になる。

遠目に見るだけでも、昼間でも薄暗い気味の悪い場所で、度胸試しか何かは知らんが、そこに入る奴は馬鹿だと思う。

私としては自分から好んで近寄りたいところではない。


「山の頂上へのルートからそれた所、中腹あたりに、鳥居があるらしい。

それが普通の鳥居じゃないんだ。

その鳥居は俺らでも屈まないといけないくらい小さくてな」


 まるで猫のための鳥居みたいだって?

まさか、本気でそんなこと思ってんの?


「それで、鳥居の向こうにはどんな神社があるって?」


 気乗りはしない風には見せたが、虎にはばれているだろう。


「何もない」

「はあ?」

「大昔に山火事があった時に焼失したとか、空襲で焼けたとか、いろいろ噂はあるが、神社そのものは残っていないらしく、鳥居だけがあるらしい」

「意味わかんない。神社はあるのないの、どっちなんだよ」


 それがな、と虎は続けた。


「深夜二時に、その鳥居の中を覗くと、神社が現れるらしいんだ」


 はい、嘘!絶対嘘だ。

それが顔に現れたんだろう、虎の声は正統性を訴えるかのように熱を帯びる。


「本当だって!皆見たって言ってるんだ!」

「そんな夜中に誰が見たって?」

「そりゃ、噂だと二組の山岸とか、四組の田中の兄貴とか」

「誰だよ。一人も知らないし」

「そうだろうな。かごめ、俺以外友達いないしな」


 うるさい!といって、ぽこりと頭を叩く。

私の方が背が高いし、虎は野球少年だからか髪を剃っていて、頭を叩きやすい。

まるで私に叩かれるために存在しているようだ、と言ったら大否定されたけど。

でも今のは虎が悪いだろ!

私に友達がいないのは事実だけど、だって、何か怖がられてるし、私だって努力してるのに、それを虎も知っているのに意地悪を言うから…。


「いてえな。そうやってすぐ暴力振るうから怖がられんだよ」

「うううううっ」

「そうだ、それもついでに願ったらどうだ?」


 どうやら話は最初に戻ったらしい。


「夜中の二時にしか存在しない神社に行けば、願い事が叶うんだ。

どうだ、今夜一緒に行ってみないか?」

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