7秒後に終わる君の世界に、魔王はいらない。

海堂 翼

第1話 始まりは最終幕のプロローグ

たった1人の少女が、空を斬り裂くのを見た。


どこまでも深々と大地に根を張り、高々と大気層に届くかというほどの途方も無く巨大な世界樹。


そのさらに上空に浮遊する天空城。


俺と自らを「最果ての魔王」と称するその少女は、その頂で剣を交えていた。


もうどれだけの時間が経過したことだろうか。


.........いや、実際は大して時は流れていないのかもしれない。


しかし、一瞬でも気を抜けば死の谷に転がり落ちてしまうような、この剣戟が俺にそう感じさせるのも至極当然のことだろう。


少女の洗練された剣技に、人が到達することはないであろう異次元の魔法が重なる。


俺はその美しい舞いのごとき剣撃を、受け流しかわすので精一杯だった。


俺の敗北、そして死が訪れるのも時間の問題だろう。


少女だけが使うことを許された「斬り裂いた対象の存在を消し去る」魔法。とんでもなくバカげたチートだ。


だいたい、この大戦に参加したヤツらはどいつもこいつもチートがすぎる。


本当にいくつ命があっても足りなかった。ここまで来れたのは、かなり幸運だったと言える。


俺がこれまでの旅路で起こった出来事を思い出すと、自然と口元は緩んだ。


俺がこの異世界に来てから、2年が経った。


ただの高校生だった俺が、神によって異世界に送り込まれて


【英雄】たちの異世界サバイバルゲームに参加させられるなんて


2年前の俺に想像できるはずもない。


でも、これは『夢』でも『幻』でもない。確かに俺が『観測』してる現実だ。


俺の今までの冒険と、仲間と紡いできたモノは確かにあったんだ。


「戦闘中に笑うとか……いい度胸してるわね」


今まで淡々と剣を振るっていた少女から、初めて叱責を受ける。


「いや、なんだかんだ楽しいこともけっこうあったよなーって」


少女は苦虫を噛み潰したような顔をする。


「その余裕を……消す」


微笑を浮かべながら剣を振るう俺にいらだつ少女。


自然と剣筋が荒々しくなる。


にしても、少女が手加減をしてくれていることは明確だった。

俺に致命的な一撃を与えるチャンスは十二分にあったのだから。

しかし、そうしないところを見ると……


彼女にも、少しは俺たちと旅をしていた頃の記憶が残っているのかもしれないな。


彼女が無意識に力にブレーキをかけている今のうちに、なんとかこの防戦一方な状況を打破したいが……


これが手加減かよ……いつ殺られてもおかしくない。


しかし、たとえ敗色濃厚であっても俺に退くという選択肢は無い。


俺は、俺の世界の数多の【英雄】たちが積み重ねてきた力と技で、必死に少女の剣についていく。


そうだ。


たとえこの先に、俺の敗北が、死が、そして少女との別れが待っていようとも、俺は少女を縛る呪いを断ち切るため、剣を振るい続けるだろう。


そんな俺の決心はつゆ知らず、少女は強い信念を剣に乗せて俺の命を断ち切ろうとする。


「私の邪魔をするなら……今度こそ消す」


「悪いけど……俺にはやり残したことがある。だからまだ消えるわけにはいかない」


俺は「剣」に魔力を流し、形態を変化させる。


気づけば、少女の剣が俺に振り下ろされようとしていた。


またそれと同時に、俺は少女の額に「銃口」をかざした。


そして、瞬時に銃の引鉄を引く。


少女は驚異的な速さの反応で、上半身を天を仰ぐように反り曲げ、弾丸を回避し、一歩二歩、後退し距離を取る。


そして、剣先をこちらに向けたまま言葉を紡ぐ。


「わからないわ……このままでは、あなたは私に敗北してこの世界から消え去る。なのに.........なぜそこまでして、私の邪魔をするの?」


少女の表情には、いらだちと困惑が入り乱れていた。


少しの沈黙を経て、俺はその問いに答える。


「簡単だよ……言ったよな。君の世界に、魔王はいらないって」


軽やかな雲が漂う、どこまでも広がる澄み切った蒼天に、重厚な銃声が響いた。



ー第七世界 崩壊まで、あと7秒ー





ーーーこれは、決して英雄譚などではない。


これは、たった1人の少女のために世界を滅ぼした、愚者の物語だ。

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