異世界へのおくりびと ~レナの業務日誌~

@knavery07

プロローグ 佐藤一

 これは私の――――‘おくりびと’と呼ばれる者の物語――――。


「これで手続きは以上です。お疲れさまでした、佐藤一さん」


 私は書類に目を通し、細かいチェックを済ませ、目の前に座る男性に声を掛けた。佐藤さんは、年齢が20代前半。趣味は散歩と人助け。死因は……落下死。


「本当ですか? いやーよかった。落下して、痛みを感じたかと思ったら、こんな白い空間にでて、目の前に君のような綺麗な女の人がいるんだもん、びっくりしたよー」


「ありがとうございます。けど私のような女など、そこら中にいます」


 綺麗だと言われて、悪い気はしないが、所詮はお世辞だろう。


 それよりも仕事を優先しなくてはいけない。私はその場で空に指を振り、空間の裂け目を作る。

 

 そこに手を突っ込み、次の手続きのための書類を取り出した。


「本当にすごいなぁ。まさか死後の世界なんて、本当にあるなんて思ってなかったよ。僕もあの子たちに会えるかな?」


「佐藤さんの言うあの子たちがどんな方かはわかりませんが……佐藤さんの世界から送った方もそれなりにいるはずです。運が良ければ西暦出身の方とであえるかもしれません」


 ――――生きていれば――――


 心の中で付け加え、テーブルに最後の書類を出す。


「では、これが最後の書類です。あなたを欲しいと言った神様のいる世界へのパスポートであり、同意書だと思ってください。この書類にサインをしたら、あなたの魂は、‘この世界の死後の世界`……いわゆる天国ですね。そこへ召されることはなくなります。そして、‘その所有権は、その世界にある死後の世界へと完全に譲渡されます’」


 かまいませんね、と最終確認をする前に、彼は書類にサインをした。


「僕を欲してくれた神様のいる世界なんでしょ? なら、問題ありません」


「……そうですか……わかりました――――――」


 そう言った佐藤さんの真後ろに、門が現れる。サインをした瞬間に、新たな世界との契約が完了し、その世界への門が開く仕組みとなっているからだ。


 その世界で、転生者がどのような目覚めをするかは、私にはわからない。


 そもそも、この世界の形のまま転移という形になるのか、その世界に転生をするのか、それさえも私にはわからないのだ。


 私がするのは、あくまで意思確認。


 死にたいか――――生きたいか――――その二択の。


「では佐藤さん、改めてお疲れさまでした。門へとお進みください。良い異世界生活があなたに訪れるのことをお祈り申し上げます」


 頭を下げながら、私は佐藤さんが門の向うへと消えていくのを見送る。


「はい、ありがとうございました。次の世界でも頑張りますね!」


 そして、門が消えたのを確認してから、私は頭を上げて、書類へと送管完了の印を押す。


「けど、よかったのかしら……? 佐藤さん、あの世界に呼ばれた理由、確認しないで……」


 私はあの世界からの求人募集欄を確認する。


 年齢、若いほど好ましい。当て嵌る。


 性別、不問。当て嵌まるわね。


 身体状態、良好。これもよし。


 他、純粋な人材を求む。これが一番難しかった……。


「ちょうどよく、彼が死んでくれて助かったわ。……サイコパスなんて、なかなかいないものね」


 私は佐藤さんの転生先から注文を受けて回答させた、彼のアンケート用紙を確認した。


「本当によかった――――――」


 問3:子供が泣いています。両親が突然亡くなってしまったそうです。あなたはどうやって慰めますか?


「彼には――――」


  回答:殺して、天国の両親と会わせてあげる。


  ――――備考欄――――連続児童殺人犯。


「地獄すら生温い……」


 募集人材の使用目的――――生贄。(魂は私の中で永遠に苦しみ続けます by神様)


 私が書類をしまうと同時に、空間への来客を知らせる音が鳴る。


 私は振り返り、新しいお客様へとあいさつをした。


 おくりびととしての仮面を被って……。


「はじめまして、私はレナ。新たな世界へのおくりびとをしております」


 これは、そんな私の‘おくりびと’の――――出会いと別れの物語――――。

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