043:さらば新宿。


「一つだけハッキリさせとくぜクソアンデッド。この群れではオレが上で、お前が下だ。分かったらオレの近くに寄るんじゃねぇ。アンデッド臭くてかなわねぇんだよ。ユウナが決めたことだからオレが仕方なく従ってるだけってことを忘れんなよクソアンデッド」


「な、ななな、なんなんですかこの躾のなっていない犬は!! 先輩!! 無駄ですよ。そんな怖い感じで威嚇しても無駄ですよ!! わたしだっていろーんなこと経験して強くなったんです!! それに、わたしは先輩の後輩!! あなたより先輩との付き合いは長いんですーだ!!」


「……なんだテメェ。まだわかんねぇのか? なんならどっちが上か分からしてやろうか? あぁ?」


「いいですよ! やりますか!? そんな手負いで勝てるとかさすがになめすぎじゃないですかっ!? ───〈ダークアーマー〉ッ!! 〈ダークソード〉ッ!!」


「はいストーップ」


 私は柄にもなく仲裁役にまわる。


 ……もう嫌だ。

 前途多難すぎるんですけど……。

 目の前で臨戦態勢にはいっている坂本とガウルを見ながら、私はイカついため息をもらさずにはいられない。


 坂本が目覚めて、私を見てビビり倒して、でも眷属化のおかげでコミュニケーションをとれたから何とか落ち着かせることができた、ってとこまではよかった。

 うん、そこまではすごくよかったのよ。

 

 …………。


 逆に言うと、そこまでしか良くなかった。

 問題はガウルが起きてから。

 ガウルって、私たちより臭覚に頼ってるとこがあるんだよね。

 だからなのかな、起きて真っ先に坂本の存在に気づいた。

 多分なんとなく、私と坂本が親しいことも理解してたと思う。ガウル頭いいから。

 

 そのうえで、一言。


 『なんかアンデッド臭くねぇかユウナ?』


 ガウルはすっごい敵意をあらわにした。

 それはもう仲良くする気なんて1ミリもありませんよって感じで。

 それと私を煽りに巻き込まないでもらえます? ガウルさん。

 こういうの一番困るから。

 どうするのが正解なのかほんっとにわからんから。


 当然、ガウルの言うアンデッドが誰のことかは明白だった。

 ガウルが起きるまで坂本といろいろ喋ってて、坂本が人間じゃなくてデュラハンって種族だってことも聴いてたから。

 

 聴いたときはふざけんなって怒鳴ってやったけどね。

 そのくらいは許してよ。

 世の中理不尽すぎでしょクソッタレ。

 坂本の見た目が人間の頃とほとんど変わらないのに、なんで私はトカゲになったんですかね。

 ねぇ、神様。

 教えろこの野郎。


 はい、脱線した。


 まあ、それはいいか。

 それで、ガウルの煽りに坂本は分かりやすく怒った。

 なんか私の知ってる坂本じゃないなーって思った。

 私の知ってる坂本はもっとこう、なんていうか、こんなハキハキしてるタイプじゃなかったんだけど。

 プレゼンとかもお世辞にも得意ってタイプじゃなかったし。

 こんな世界になって坂本もいろいろあったってことだろうね。


 そして現在に至る。


 絶賛喧嘩中の犬と死体。


 クリア条件のこととか、これからのこととか、いろいろ話したいことあるんだけど……はぁ、これはしんどそー。


「先輩!! この犬に言ってやってくださいよ!! 私と先輩がどれだけ固い絆で結ばれてるかってことを!!」


「はぁ? ふざけんなよクソアンデッド。オレとユウナはいくつもの死線を超えてきてんだよ。まだわかんねぇのか? お前なんてお呼びじゃねぇーんだよ。こんな臭い奴に側に居られちゃあたまったもんじゃねぇ」


「黙って聴いてればさっきからなんなんですか人を臭い臭いって!! ちゃんとお風呂入ってます!! だいたい女の子に臭いはないでしょ臭いわ!!」


「臭ぇもんは臭ぇんだよ。アンデッド臭くて吐きそうだ」


「失礼すぎです!! 喋れるからちょっとだけすごいと思ってましたけど、やっぱり犬は犬ですね!!」


「……なんだとてめぇ」


「なんですかっ!?」


「いい加減にやめぇえええい!!」


 さすがの私も我慢の限界。

 これは説教が必要。 


 《まったく、呆れますね》



 ++++++++++



「というわけで、仲良くしろよなーお前ら。私に柄にもないことさせんなよ。ってかこの状況で喧嘩とかさすがに緊張感なさすぎだから」


「うぅぅ、すみませんです先輩……」


「……すまねぇユウナ」


「はい、よろしい。それでね、まず私のなかで決定してしまったことを発表します」


「え、急ですね先輩」


「あーまぁね。前々から考えてたことだけど、ちょうどいいし。───それでは発表します」


「なんだよユウナ。もったいぶるなよ」


「そこ静かに。えー、コホン。私たちは───新宿から出ることにします」


 …………。


 …………。


「……なんだそんなことかよ。まー最近は魔物も減ってきてたしなー」


「それもあるんだけど、進化したせいで家壊れちゃったからねぇ……はぁ、最悪。───でもまあ、いいきっかけになったかもね。いつまでもここにいるわけにはいかないし」


「わたしはどこでも先輩についていきます!!」


「あ、うん。……ありがと坂本」


「はいっ!」


 あのテレポートを使う奴に姿を見られてる。

 ここに留まるのは危険すぎるわ。


 《忘れ物はしないようにしてくださいね、ユウナ》


 ……なにそれつぐみさん。

 そんなに子供じゃないよ私。


「それで先輩、どこに行くんですか?」


 あー、それね。


 いろいろ考えたんだけど、とりあえず決めた。


 これから私たちは───


「───『池袋』に行こうと思います」


 …………。


 まあ渋谷が怖そうなんで、反対方向の池袋辺りにとりあえず行ってみようかなーって、理由はそれだけなんだけど。





【後書き】

これにて『新宿編』終了になります。

ここまでお読みいただき本当にありがとうございました。

以下、次章の予告です。


池袋は万人の安息地?

増える“クリア条件”を知る者たち。

激化する『人と魔物』『人と人』『魔物と魔物』の戦い。

ファンタジーで定番のアレ、出現。


次回、新章突入。

怒涛の『池袋編』始動。

お楽しみに。

∩(^ΦωΦ^)∩

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る