039:怪鬼事変【醒】


 《進化が完了しました》

 《進化にともない個体名『ユウナ』のレベルがリセットされました》

 《カルマ値が大幅に下降しました》

 《新たにスキル〈滅月の閃撃〉を獲得しました》

 《新たにスキル〈月竜の幻影〉を獲得しました》

 《新たにスキル〈月光透過〉を獲得しました》

 《新たにスキル〈月光強化〉を獲得しました》

 《新たにスキル〈月魔法〉を獲得しました》

 《新たにスキル〈月殖刃〉を獲得しました》

 《新たにスキル〈竜の知覚〉を獲得しました》

 《新たにスキル〈竜鎧甲殻〉を獲得しました》

 《新たにスキル〈蝕毒爪〉を獲得しました》

 《新たにスキル〈蝕毒牙〉を獲得しました》

 《新たにスキル〈蝕毒のブレス〉を獲得しました》

 《新たにスキル〈魔法無効〉を獲得しました》

 《いくつかのスキルが〈蝕毒爪〉に統合されました》

 《いくつかのスキルが〈蝕毒牙〉に統合されました》

 《いくつかのスキルが〈蝕毒のブレス〉に統合されました》

 《毒の属性が『バジラの屍毒』に変質しました》

 《新たに称号『月夜の寵愛』を獲得しました》

 《新たに称号『紫毒の天魔』を獲得しました》

 《新たに称号『支配種』を獲得しました》

 《いくつかの称号が『紫毒の天魔』に統合されました》

 《いくつかの称号が『支配種』に統合されました》

 《称号『支配種』を確認したことにより、新たにスキル〈洗脳〉を獲得しました》


 ……………………………………………………………


 ……………………………………………………………


 ……………………………………………………………


 ……………………………………………………………


 ……………………………………………………………


 ……………………………………………………………


 ……………………………………………………………


 ……………………………………………………………


 ……………………………………………………………


 ……………………………………………………………


 《【åŒn%ã】からの干渉を確認》


 《接続中───接続中───成功》


 《新たに称号『期待の候補者』を獲得しました》


 《称号『期待の候補者』を確認したことにより、クリア条件の一部が開示されました》



 ++++++++++



 感じたことのないほどの脱力感。

 ほんのわずかの力も入らない。

 もはや自分自身がドロドロの液体になってしまっているようだ。

 完全なる無の世界で私はただユラユラと漂っているだけ。


 異常な疲労感と空腹感。

 こんなのは初めてだわ。

 どれだけ走り回ったとしてもこれほど酷い状態にはならないと思う。

 あー、しんどい。何もしたくない。


 あれ? 何してるんだっけ私?


 ───ユウナ。


 ん?

 今誰かの声が聞こえたような。

 眠いからやめてほしいんだけど。


 ───起きて下さいユウナ。


 はぁ、やめてよー。

 残業するから今は許してー。


 ───ガウルに命の危機が迫っていますがどうしますか? 見捨てますか?


 ……ガウル。


 ……ガウル。


 ……ガウルッ!!?


 それは、私の意識を覚醒させるには十分すぎた。

 重い瞼を必死に開ける。

 眩しい光が飛び込んできた。

 瞬きを数回。

 ぼんやりとした意識が次第にハッキリとしてきた。


 それと同時にいろんなことを思い出した。

 キョロキョロと辺りを見渡す。

 視点が明らかに高くなってるけど、今はそれどころじゃない。

 

 やっぱり───ガウルがいない。

 

 つぐみさんいるッ!?


 《当然いますよ、ユウナ。おはようございます》


 おはようございます……じゃなくてっ!

 ガウルは!? ガウルはどこ!?

 

 《現在、ユウナは進化直後であり状態が安定していません。特に今回の進化では大きな変化が見られます。まずはその身体が慣れなければ、命に関わりますよ》


 ……次、ガウルのことを軽く見るようなこといったらさすがにキレるから。


 ガウルはどこ?


 《……分かりました。地図を表示します。ですが、くれぐれもお気をつけて》

 

 分かってる。

 ごめんね。


 ガタッ。


 外に出ようとしたら何かにぶつかった。

 そして気づいた。

 私、とっても大きくなってる。

 部屋から出られない。

 最悪。


 迷ってる暇はない。

 一か八かベランダの窓にタックルをかまそう。

 だけどその前に───私は視界の端に捉えたマジックポーチから溜め込んだ魔石をありったけ取り出し、食べる。


 ガリガリ、ボリボリ。

 ガリガリ、ボリボリ。


 空腹で仕方がない。

 かなりの量食べたけどまだまだ飢え死にしそうなレベル。

 だけど今は時間がない。


 いちにのさん、でいこう。

 私はマジックポーチを咥える。

 ガウルに出会うまではデカくて引きずってたこのポーチだけど、今では逆に小さすぎて咥えるのが難しい。

 さて、行くか。

 急がないとガウルがやばい。

 窓をぶち破れるかは不安だけど、進化して強くなったであろう身体にかけるしかない。


 よし。


 いち、にの───さんッ!!


 前脚と後脚で思いっきり地面を蹴った。


 そして……爆発が起きたように錯覚した。


 まずは窓を余裕で貫通。

 勢いがありすぎてもはや窓だけじゃなくていろんなものが破裂するように壊れた。

 愛着のあるマイホームとの別れを悟ってしまうレベル。


 そして勢いよく外に飛び出した私は、その勢いそのままに何枚もの壁を貫いてからようやく止まった。

 恐ろしいことに、全く痛くない。

 ……やばい。

 身体能力が上がりすぎて制御できない。

 でも慣れなきゃだわ。


 私はつぐみさんが示してくれた脳内の地図を見る。

 幸い距離はそこまでない。

 

 だけど───まずい。


 反応が3つ。


 ぐったりと動かない弱い反応が一つ。

 多分これがガウルだ。

 ほんとなんでこんな無茶してんのよ。


 そして、そこから離れた場所に一つ。

 多分こいつは遠目から様子を窺ってるんだと思う。


 最後に……コイツがヤバい。

 かなり強い上にガウルに近づいてる。

 ガウルにとどめをさすつもりだ。


 クソがッ!!


 私は再び地面を蹴る。


 制御出来ずに壁に何度も激突しながら進んでいく。

 だが、慣れてからのスピードは尋常ではなかった。

 凄まじいと言う他ない。

 自分の事だけど。


 ───見えたッ!!


 私はソイツの死角から全力で駆ける。

 振り向いた。

 でも関係ない。

 もう距離はないから。


 私は今出せる全力で前脚を振るい、ソイツを弾き飛ばした。

 

 ───殺れてない。


 感触で分かった。

 弾き飛ばした奴は人間じゃない。

 硬すぎる。

 でもとりあえず危機は脱した。


 後は───私は遠目からコチラを見ているもう1人を睨む。


 なんならそのまま殺そうかと思ったけど……ソイツはふわりと消えた。

 しかも恐ろしいことに知覚できない。

 それが何を意味するのかは嫌でも分かってしまう。


 瞬間移動……ルー○だ。


 そんな奴までいるのか。

 今の金髪の奴は覚えておこう。

 危険だわ。


 …………。


 …………。


 …………。


 ふぅー。


 これでひとまずオケだねー。

 あぁー緊張した。

 弾き飛ばした奴も殺れてはないけど気を失ってるっぽいし、やっと安心。


 《ここからの周囲警戒は引き継ぎます》


 うん、ありがとつぐみさん。

 私は視線をガウルに向ける。

 そしてゆっくりと近づいていく。

 

 ボロボロだ。

 多分、向こうで死んでる毛むくじゃらのキモイ奴と戦ったんだろう。


 ……なんとなく、ガウルがしてくれたことが分かった。


 『ありがとう』はガウルが起きてから言おう。


 さーて、私が今やるべきことは……ここから離れることかな。

 こんな見晴らしのいい場所は危険すぎだし。

 まずはそれからだよねー。


 でも家壊れちゃったんだよな……どこ行こ……。


 なんてことを考えながら私はガウルを咥えようとして───何かボールのようなものが転がっていることに気づいた。


 なんだろう。


 それは本当に僅かな好奇心からだっだ。

 窮地を脱し、心が少し緩んだことにより抱いたほんのわずかな好奇心。

 私はガウルを咥えるのを止め、そのボールに近づいていった。


 …………。


 結論。

 そのボールはボールではなかった。

 人の顔面だった。


 ぶっちゃけ、それだけなら今の私にはあまり衝撃を与えない。

 白目剥いててキモー、ぐらいの感想しかない。


 だけど、それだけじゃなかった。



 その顔面は───



 えぇ……坂本じゃん……………………。



 ───めちゃくちゃ会社の後輩だった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る