13.飛んでいたモノ
JR線T駅近くにある沖縄料理屋でU-Maと泡盛を飲みながら海ブドウをつついていると、U-Maがボソリと話し始めた。
あれは中学三年生の夏の頃だったと思う。
友人のYと自転車でK県にあるS湖にブラックバスを釣りに行こうと夜中の二時少し前に近くにあるボーリング場の前で待合わせをしていた時のことだ。
当時、K県A市という田舎に住んでいたが、S湖まで自転車で片道三時間の道程で見込んでいたから、朝五時から釣りを開始する目標で、この時間に待合わせをすることにしていた。
やはり夜中の二時前というと、人ひとり、いや車一台さえ通らず、ひっそりとしている。
真夏とはいえ、思ったより外気はヒンヤリとしていた。
車が一台も来ないので、俺は道路の真ん中、ちょうど十字路の真ん中に自転車を停めて、Yが来る方向をみながら待っていた。
すると何やら視界の先にぼんやりと光の玉のようなモノが入ってきた。
地平線に近かったので星でも目に映ったかなとみていると、光の玉は徐々に大きくなっていった。
というより、光の玉がかなりの速さで俺の方に向かって飛んでいるようだった。
このままの位置だとぶつかるかも知れないと思い、自転車を倒して俺もその場からすぐさま離れた。
俺が離れた瞬間、光の玉はそのまま真っすぐ十字路を突っ切って飛んで行ってしまった。
時間にして1~2分ほどのことだったが、あれはUFOだったんじゃないかと勝手に思っている。
あともう一つ、今から十年ほど前だと思う。
ちょうど転職したばかりで会社がJR線O駅の西口から歩いて十分ほどのところだった。
別の話だが俺が今の業界でシステムエンジニアとして初めて就いたのは、同じJR線O駅の東口近辺にある大手IT企業だった。
何年かはその企業に常駐していたからO駅付近はよく知っていた。
O駅から出て南方面に少し歩くと線路をくぐるガードがあり、くぐった先の角に牛丼のY屋があった。
その日は所用のために昼休みを使ってO駅東口の方へ出ていて、その帰りのことだ。
用が終わって会社に戻ろうとしてちょうどガードの近くを歩いていると、O駅の方から電車の警笛と急ブレーキらしき音、そして何かがぶつかった衝撃音が聞こえてきた。
ふと立ち止まり、音のした方に顔を向けた時、ソレはくるくると回りながら飛んでいた。
飛んでいたモノは、恐らく先ほど電車とぶつかった御仁のものであろう千切れた人の腕だった。
そしてソレは、Y屋の二階の壁に当たるとそのまま下に落ちていき、すぐに見えなくなった。
ソレが壁に当たった時に聞こえたベチャッと何とも言えない音が一瞬響いたが、すぐに喧騒に消えていった。
何人かは俺と同じように見てしまったらしく、小さな悲鳴を上げたり、目を背けていた。
当然、イヤなものを見てしまったと思っていただろうと思う。
ん、俺か?
俺はいつもと変わらず何も感じなかったよ、ふーんって感じでw
それに落ちた腕にも何の興味も湧かなかった。
どうせもう使われることもないだろうと思ったからなんだが・・・。
その後、すぐに現場から離れて会社に戻って仕事を再開したよ。
結果として飛び込み自殺だったらしいって後から聞いた。
ま、飛び込みじゃ同情すら湧かないし、理由はどうあれこの世から逃げただけのことだろう?
それよりも事故に巻き込まれた人たちの方が気の毒で仕方がないさ。
その時の俺も含めてさ。
といいながら、U-Maは海ブドウを口の中に放り込むと、美味そうな笑顔をこぼしていた。
そろそろ島ラッキョウを頼んでいいかと私に聞いた後、返事を待たずして店員に頼んでいた。
私は少しばかり残っていた泡盛を飲み干すと、また同じものを頼んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます