第11話  とある牧場にて

気温も暖かくなり始め心地いい風が汗ばんだ体を冷やし心地よく、あたりは一面緑に溢れていて、よくテレビで見るような美しい景色だ


「なあ大地後どれくらいだ、もう1時間近く自転車を漕いでると思うんだけど」


「まだ1時間しか漕いでないじゃないか

まあそうだな後三十分程度だ」


「三十分だと!?」


「おいおい、嘘だろ大地く〜ん」


「俺は今まで先輩に嘘なんてついたことないですよ」


「いや、流石にそれは嘘だろ」


いつもの余裕のある顔ではなくぐたっとした感じで答える


「自転車漕ぐなんて久しぶりだから余計にも疲れるわ」


「本当ですね、その点、鈴はすごいな〜」


綾香の視線を辿るとこの景色にベストマッチな青木の姿がある


「みんな疲れ過ぎ、まだみんな高校生でしょ!」


「そうは言ってもなお前みたいに運動大好きな子はあんまりいないんだよ」


「いいこと言うね、さすが俺の後輩」


「そんなこと言って、水沢先輩たまにジム行ってますよね?」


「それはモテるためだから別だ、あれはそこそこやれば良いし」


「理由はともかく、お前は運動不足だから今度、先輩に連れてって貰えばどうだ?」


「お?来ちゃう?男女共々大歓迎だよ、特に女子」


女性陣三人に視線を送る


「三人を代表して警察に電話させてもらうわ」


「取りつく島もないねえ」


部員五人でただただ続く牧場への長い道を自転車を漕ぎ続ける


なぜそもそもこうなったかと言えば部室での活動中のテレビが原因である


「この子牛、可愛くない?」


「可愛い!」


読んでいる雑誌の手を止めテレビに視線を移すとそこには地域の牧場が映し出されていた

青木も綾香も興味深々といった所だ


「確かに可愛いな、お前もそう思うだろ」


隣でパソコンをいじる大地を見る


「俺はあまり興味がないな」


「やっぱり大地レベルの変人となってくると

感覚がズレちゃうのかな」


青木からの宣戦布告だ


「何を言うか、お前が俺の好きなアニメのキャラの可愛さが分からないのと同じようなものだ、これだから脳筋は」


「これでもテストでいい順位とりました〜」


「餌に釣られてな」


「そ、それが理由じゃないし!」


「まあまあ二人とも落ち着いて、ほら鈴ちゃん番組見逃しちゃうよ」


さすが水沢先輩、止めるのがうまいな


「む〜」


どこか不満そうな声を上げながらもテレビに視線を戻す


「この場所だったら自転車ですぐだな」


「え、嘘!」


「これくらいで嘘はつかん」


さっきまでの諍いは何処へやら


「よし、じゃあ今から行こう!」


勢いよく立ち上がる


「いやいや、流石に急すぎるって!それに私自転車ないし!」


「それなら部室に人数分有るぞ、整備なら俺が全部してるし完璧だ」


「牧場の美味しい牛乳飲みたいし、

俺はさんせ〜い」


「あ、じゃ俺も飲みたいので賛成で、岩下先輩はどうします?」


読書に集中していたようだが

会話内容は理解しているようだ


「私も行くわ、ここ最近運動不足だったし」


「じゃあこれで全員賛成だね!早速行う!」


「私の意見は?」


「じゃあ行かないの?」


「行く!」



そんな微笑ましい下りの結果

今に至るのだが、大地のすぐをそのまま飲み込んでしまわなければと後悔しているがそこまでではない


なんだかこんな田舎道を走るのは結構

好きなのだ

一夏の思い出とでも言うのだろうか

何かそこに物語があるような気がする


感傷に浸っていると騒がしい声がそんな気を一気に吹き飛ばす


「じゃあ今から最後に牧場に着いた人

が牛乳奢りなんてどうです?」


「まって鈴ちゃん、それはあなたたちに有利すぎるわ」


先輩も結構キツそうで有る


「何を言ってるんだい雫?青春は待ってくれないのだよ」


水沢先輩が一番に飛び出す


「あ、ずるい!」


その後ろを青木が


「あ、待ってよ鈴!」


それを追うように綾香が


「私の力を見せてやろう」


その後ろを中二病拗らせた大地が追う


流石に俺に声れを追う体力はない


「先輩一緒にゴールしませんか?」


先輩も同じのようだ


「あらそれ最後私を置いていくパターンじゃないの?」


イタズラっぽく笑う


「俺は置いていかないですよ」


「それは心強いわね、いい後輩を持ったわ

あなたの扱いを人間にしてあげる」


「今までの俺なんだったんですか」


「何かしらねえ」


「意地悪い先輩だなぁ」


「あら、これでも優しくしてあげてると思うのだけど」


「マジすかぁ」


中々に先輩に人間と定義されるのは難しい事のようだ


雫先輩は小説家として活動中のようだ

どこでどのような風に出版しているか知らないが、愛好会の旅行に自費で来ているから

小説からの収入源はあるのだろう

ここまで未確定なことが多いのは、先輩が

僕らにあまりそのことを話したくないのが

多い


「ねえ、幸田」


「なんですか先輩?」


「もし自分が小説書くとしたらどんなの書く?」


「そうですね」


少し考えてみる


「田舎を舞台にした話とか、青春特有の悩みをメインにした話とかですかね」



「いかにもね」


「すいません」


「十分だと思うわ、普通の人に聞いてもとっさに言える人なんてあまりいないもの、ここはやっぱり退屈しないわ」


「そうですね」


「今度文化祭で部員全員で小説大家でもやってみる?」


「知り合いに読まれるのは恥ずかしです」


その書いた小説には意図せず書いた人の思いや、考えが見えるからそれを見られるのは

ベットの下の、例のあれレベルで恥ずかしい


「確かにそうね」


「先輩だったどんなの書くんですか」


「そうね…大嫌いだった子にいつの間にか恋しちゃった青春物」


「うわ〜ベタ〜」


「たまにはそんな単純なものでいいのよ」


「そうゆうものですか」


「お〜い、遅いぞ!」


そこには、燃え尽きている青木に綾香

余裕シャクシャクにみんなの自転車をかける

大地、大きく手を振る水沢先輩の姿があった


「じゃあ行くわよ!」


いきなり先輩の自転車が速度を上げる


「ちょ、ずるいですって先輩!」


急いでその後ろを追いかけた





「牛乳うめえええええええ!」


割高めではあるが、その価値は十分にある

ちなみに、結局勝敗は俺がギリギリ追いつき

同着だ


「確かにこれは美味しいな」


「さいこー!」


「これ牛乳ってレベルじゃねーぞ!」


みんな思い思いの牛乳の感想を述べるが

どれも好評のようだ

運動した後だし余計にもだろう


「じゃあ子牛見に行こう!」


「おー!」


彼女らは可愛いのためなならそんなに元気に

なれるのか


「僕は今度ソフトクリーム食べてきますね」


「俺も行くぞ幸田よ!」


俺らも大概うまいものの為なら元気でした


「全く後輩たちは元気ね」


「そうだな…」


「私達もゆっくり見て回らない?」


「珍しいなお前から誘ってくれるなんて」


「悪い?」


少し不機嫌な顔を向ける


「悪くないよ、行きましょうかお姫様」


「からかわないでよ」


「はは、からかってないんかいないよ、早く見て回ろう」


「あなたもまだまだ元気ね」


二人は歩幅を合わせて歩き始めた


「あなた卒業したらどうするの?」


「卒業か…全然考えてないや、お前は?」


「まだ何となくってだけで全然決まっていないわ」


「難しいよなぁ、どこかに攻略本落ちてたりしない?」


「落ちてたら高く売ってあげるわ」


「嬉しいね」


選択肢が多すぎて選べない

今の正直な感想である


「先輩はどうやって決めたっけ?」


「楽しそうな方へじゃなかった?」


「カッコいいな…」


「そうね、あなたもそうしたら」


「そう割り切れれば楽なんだけどね、君のヒモになるなんてどう?」


「そんな男は死んでもごめんだわ」


「厳しい事言うね」


ゆっくりと牧場の中を歩き続ける

しばらくの間静寂が訪れるがその静けさの

中には暖かさがあった

何も言わないからこそ感じ取る


「いつかまた来れるといいわね」


「そうだな」





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