汚職の魔術師とアルトロモンド

おうみとんぼ

アルトロモンド

アルトロモンド 




 今から大事な事を言うから、良く聞きなさい。


 原初創造器オリジンを揃えたあと、呪文を唱えるんだ。


 世界でもっとも有名な呪文を唱えるんだよ。


 知らないって? そんな事は無い、忘れているだけさ。


 次にお前を待ち受ける出来事は、扉の魔人ゲニウスとの邂逅だ。


 お前は自分の願いをゲニウスに伝える。


 彼ないし彼女は、『扉』からお前の願いを連れてくる。 


 アルトロモンドはお前の願いを叶える。


 だが、扉を開くことが出来るのは――愚か者だけだ。


 己を信じて疑わぬ愚か者だけが、扉へと辿りつく。


 たゆまぬ冒険心だけが、〈願いの扉〉――アルトロモンドへ導いてくれる。




 『ゲニウスの扉』冒頭の一節だ。




 私が子供の頃、夢中になって読んだ冒険譚。


 時が流れて体が大きくなり、世の中を知るに連れて、その本に書かれた文章は私の身体から少しずつ失われていった。


 心の欠片が詰まった宝箱は、気づけば伽藍となっていた。


 無垢な心が思い描いていた夢も、いつしか自ら塗り潰していた。


 生きていくのは大変で、夢から覚めた目は否応なく現実と向き合う。


 現実を生きようとすればするほど、願いだけが膨れあがった。


 生きる苦しみに歯を食いしばれば、宝の地図を欲する自分が居て、


 塗り潰れた夢に何が描かれていたのか思い出そうとする自分が居る。


 世のしがらみから逃れたかった。


 どこか遠くへ行きたかった。


 好きなことをしたかった。




 ――私は、扉を開く愚か者になりたかった。


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