アタシは猫を探すらしい

はいどらんじあ

何よりも大切なのはやる気だと

外から聞こえてくるラジオ

淡々と紙に書いてあるだろうことを述べ続ける男性アナウンサー。うるせぇ!女子アナを出せ、女子アナを!!

そうすれば、まぁまぐろっぽくてなかなかいい感じ……キモイな、これ。

ラジオはポーンと機械音を出して今が六時になったということを知らせてくる。

六時……もうそんな時間に。本日月曜祝日を家族には受験勉強してるからと騙して、実は全然せずに娯楽小説を読んで時間を無駄にするアタシ。本当に救いがないでござる。


未来には不安しかない。ほんと、どうしようね。こんなんで大学行けますでしょうか?推薦であったとしてもムリじゃね?

やる気が出ないの、これ持病。外は冬特有の視覚的にも寒さを感じさせる厚ぼったい雲が出ていて、月も見えやしない。ここらは街灯も少ないからほんとに真っ暗。こんな暗いのに、しかも寒いのに隣のじいさんは今日も今日とてラジオを垂れ流して農作業。

やる気の出ない病気に侵されている身としては、心の底から尊敬する人の一人が彼です。因みに今年で七十歳。彼曰くまだまだピチピチだそうで。嘘つけ奈良漬けの大根みたくしおしおで、ヨボヨボじゃないか。あとあの人は秘密にしているっぽいけど、近所じゃ有名な大魔導士。つまり行き遅れまくったチェリーボーイ。すまんねじいさん。もう少し美形だったらアタシの口を使わせてやってもよかったけど。せめて歯を磨け!話し相手としては最上でも口が臭い。

ラジオは基本AMが流れている。これはとても個人的な意見だけど、FMはイケイケな感じでAMは爺婆御用達。アタシはAM派です。FMをあんま聞いたことがないとも言う。うちは車内では大抵音楽が流れるからね。父さんは演歌ばっかであんまり面白くないけど。母さんのも趣味じゃない。やっぱり時代はクラシック。それかAM流しましょ。


ふとラジオ音声が消えてコオロギ達の演奏会しか聞こえなくなった。ありゃ、じいさんの本日のお仕事終了か。ザリザリと靴底のゴムが地面と擦れる音がする。家に帰っていってるな。これは、結構くるものがあって寂しい。さっきまで聞こえてたのが無くなると無意識に今までのこれが変わらないと思っていた事が実は全然そんなことも無く呆気なく変わることが明るみになって、自分がバカな考えを持っていた事が分かる。

何言ってるのか自分でも分からん。ようはノスタルジックな気分になるのだ。

机の横、開けている窓越しに外を見やる。真っ暗。真っ暗。街頭のLEDがぽつぽつ見えるけど、あれは下を照らしているから二階から覗いてるこっちでは蛍の光よりも光源としては弱い。ただ何となく白いのあるなってだけ。

網戸のグリッド線的なフレームが邪魔くさくて上に持ち上げる。……なんか蚊が入った気がする。もう冬なんだから大人しく死んどけ。外の光景は見えやすくなったけどやっぱり真っ暗。真っ暗。じいさんは見えない。残念だ。あの独り身チェリーボーイじいさんに挨拶のひとつでもしてやろうと考えていたのに。

網戸を閉める。それから本が積み重なっておよそ受験生とは思えないほどごちゃごちゃした部屋を掻き分けて、殺虫剤をプシュッ。


「ゴホッゴホッ」


煙たい……


さてさて勉強しますか。……やっぱやめた、お気に入りの本を見つけたからこれを読もう。サド師匠の本は我がバイブル。腐ってんな。ただしBLはどっちかと言うとそんなに……。悪くはないけど夢中にはなんねっす。そんなアタシは腐女子ではなく、婦女子に分類されますか?師と仰ぐ人を致命的に間違えている気がする。そんなアタシは腐女子です。縛りたい、縛られたい。


集中して本を読んでいると三十分はすぐに経つ。今日一日もこんな感じで過ぎてたわ。階下から母さんにご飯だと呼ばれた。

今日の予想は肉じゃがでどうでしょう?

違うか。違うな。油の匂いがするから、違うな。

今度肉じゃがの作り方教わろう。

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