乙女ゲームのヒロインに転生していたので、とりあえず悪役を教育したいと思います。
味噌野 魚
第一章 孤児院時代編
プロローグ
深い森の中。大きな木々にその姿を隠された太陽が、葉を通し緑色の光としてその存在を主張する。
17歳、春。ゲームの中でのヒロインの運命が、この日、この場所で、動き出す。
でもそれは、
「ムフフ」
むふふ。うへへへ。げへへ。ああ無理。笑いを我慢できない。
とうとう私はその場で高笑いを始めた。いやだって、こんな最高な気分なのに笑うの堪えなきゃいけないとかムリムリ。
「勝った! 私は運命を変えたぞ!」
おっしゃあ! とガッツポーズをする。
ゲームの
だがしかし! 今現在王子は誰一人として来ていない!
王子がヒロインを迎えに来るのは日中。日が暮れてから迎えに来たことは一度もない!
顔をあげて空を見て見ましょう! 日が沈みかけていますね! イェーイ!
つまりタイムリミットは間近! あいつらが迎えに来ない限り本編は始まらないのだ!おっしゃあ!
「……長かった」
私は涙をぬぐった。
ここまでの道のり、ほんとうに長かったし、けっこう死にそうな目に遭った。ヤンデレブラコン王子の脅威に晒されたり、遭難したり、誘拐されたり、人攫いに捕まったり…etc。
本編で死ぬ可能性大だから本編開始を防ぐべく行動してきたというのに死にそうな目に遭うとか、私どんだけ死神に愛されてるんだよと何度思ったことか。
だがしかし! 本編開始を無事に防いだ今となっては死にかけたことすらいい思い出のように感じる。うん。いい思い出なわけがないよね。今の私ちょっと頭おかしいな。
まあいい! まあいいさ! 今日さえ乗り切れば私は自由なのだ!
明るい未来に思いを馳せる。
師匠の元でもう少し魔法についての勉強をするのもいいし、ここを出て一人暮らしをするのもいい。どちらにせよ今日さえ乗り切れば私は死亡フラグを回避できる。
幸せに満ちた未来が私を待っている、そのはずだったのだが……
「リディア、やっと君を見つけた。迎えに来たよ」
「……へ?」
もうすぐ日が沈みますよ~って感じの空の下、私の目の前にはとろけるような笑顔の銀髪王子がいた。
「……。」
脳内にドラ〇エのモンスター登場シーンのBGMが流れる。
ドゥ~ドゥ~ル~、ドゥッドゥドゥル~。ハハハ。顔が引きつるね。
王子様はにこにこ笑顔で、さあ僕の胸に飛び込んでおいで! って感じで腕を広げていますけど、いやいや抱き付きに行かないからね。なんで私が抱き付くの当然だと思ってるわけ? 私の今の顔見たらわかるでしょ? 絶対に抱き付かないからな!?
とりあえず。運命は変えられなかったクソー! とか、やっぱり逃げられない運命だったのね~しくしく。とか言いたいことはたくさんあるんだけど…
「どうして悪役のあんたが私を迎えにきてんのよ!?」
「は?」
「ていうか私、悪役もろとも全員のフラグを折っといたはずだよね!?」
「はあ?」
「うん、わかった。これは夢だな」
「……この馬鹿発言。間違いない。リディアだっ!」
「ギャー!! この馬鹿力、夢じゃない! アルト、お前本物かァ! つーか抱き付くな! 離せ! 骨が砕ける! レ、レフェリー!ヘルプぅ~!!!」
こうして、本編は始まった。
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