愁を知らぬ鳥のうた

成上

愁を知らぬ鳥のうた

 ピィ、と鳥が声をあげた。鳥かごの中の彼は、元気そうに餌をついばんでいる。それが愛おしくて、少女はそれに近づき、フッと微笑んだ。

 毎日決まった時間に餌を与えられる鳥は、なるほど「愁いを知らない」と呼ぶにふさわしいだろう。ピィピィと楽しそうに歌っていた。

 少女は自分も夕食を食べようと、テーブルの上に置きっぱなしの缶を開けに席へ向かう。一人で摂る食事も、ほとんど選択肢がないメニューにも慣れたものだ。パカ、と音を立てて缶が開いた。

 かつては一年半ほどしかなかった賞味期限は、技術の進歩により五年ほどに伸びた。どういう仕組みかはわからないけど、と少女は乾パンを口に放り込んだ。

 ふわりと広がる甘みは最初こそ彼女を喜ばせたが、今となってはなんの感慨もない。当たり前だ。もう空になった缶は二つになるのだから。

 明日はエナジーゼリーにしようかしら、と口当たりの良さから消費の激しいそれに彼女は想いを馳せた。

 暑さを感じた少女は空調を付ける。窓がないこの部屋は空気が籠りがちだ。

 今日はもう寝よう。少女はベッドへ体を滑り込ませた。


 彼女が住う壁の外。その分厚い壁の地下室の外では、銃撃音と爆撃音と怒号と、地下室鳥籠の中の長閑な雰囲気とはかけ離れた音が飛び交っていた。

 愁を知らぬ鳥は──。

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