詩章

第1話

 好きな人が自分以外を好きだった場合、あなたはどうしますか?

 私だったら……




 高校2年に進級が近づいたある日、私は図書室へと向かった。

 この学校では2年になると文系と理系にわかれ、テストの成績順に上からAクラスBクラスCクラスと振り分けられる仕組みだ。

 どちらに転んでも私のAクラスは揺るがないだろう。

 学年トップとまではいかないが入学してからテストでは10位くらいをキープしている。


 問題は文理の選択だ。全く考えがまとまらず図書室で何か参考になるものはないかとすがってみたのだ。


 終業のチャイムと共に教室を出たので図書室にはまだ生徒は誰もいないようだ。


 さて、思い付きで来たのはいいけど、どうやって本を探せばいいんだ……

 私ってバカなのかも。そんなことを考えながら窓から差し込むオレンジに染められた室内をぼーっと眺めていると後ろから声をかけられた。


「通路の真ん中に立たれると困るんだけど」

 低めの落ち着いた声の方を振り返ると知らない男子が立っていた。

 短髪で、気だるげな細い目。背は私より少し高い。

 上履きの色からして1つ上の学年だとわかった。

「あ、すみません。ちょっとぼーっとしてて」

 目が合うと一瞬怯んだような表情が垣間見えた。


 道を譲ると彼はどうもと言って奥へと姿を消した。

 横切られる瞬間、彼は目線だけ動かし私をチラリと見た。


 なんとなく、彼のことが気になった。


 彼が向かった先へと勝手に足が運ばれていく。


 図書室の一番奥の通路で彼は誰かと話していた。

 ダメだと思いながらも聞き耳をたててしまう。

「あの、霧島くんのことが、私……好きです」

 霧島というのかあの人。モテるんだな。そんなことを考えていると彼はあっさりと答えを出した。

「ごめん。俺ずっと好きな人がいるから。君とは付き合えない」

 すごいところ見ちゃったかも。立ち去ろうとした時、彼と視線が交わる。あ、ヤバッ。

 とりあえずその場は立ち去ることにした。


 どうせもう会うこともないだろうしと思いつつも、もしかしたらと再会を期待する自分がいる。なんだか妙に落ち着かない気分だ。


女生徒の告白の台詞が脳内で何度も再生される。

告白か……どんな気持ちなんだろうな……




 翌日。

 電車通学の私は、駅からの通学路を他の生徒と一定の距離を保ちながら歩いていた。

 すぐ後ろで、自転車のブレーキ音がした。

「あ、野次馬だ」

 振り返るとヤツがいた。

「野次馬ってアンタねぇ。私はたまたま居合わせただけなんですけど」

 霧島くんと呼ばれていた彼はニヤニヤしながら私に問う。

「あの辺りってここら辺の地域の文献とか置いてあるところだけど君は何を調べてたのかな?」

 バレてるじゃん。これはもう逃げ切れそうにないな。

「うっさいなぁ。早く学校行け!」

 もうほっといてくれーと思っていると、彼は自転車を降りて私と並んで歩き出した。

「アンタ面白いな。名前教えてよ。俺は霧島っていうんだ。1年だろ?」

「面白いとか言うな。女性に対して失礼でしょ」

 なんか昨日と雰囲気違うな。チャラいのかこの人?

「怒ってんの? ごめんね。でも名前くらい教えてくれてもいんじゃない?」

 キッと睨んでやったがヘラヘラしたままだ。諦めて名前を教えてやることにした。

「塔野めぐみです」

「ホントに名前しか教えてくれないんだー。面白いねやっぱり」

 こいつホントに昨日の図書室で会ったやつと同一人物なの? なんか思ってたのと違う。

 どうでもいい会話が次から次に流れていくので気になることを聞いてみた。

「先輩は好きな人いるって言ってましたけどこの学校の人なんですか?」

「いや、この学校にはいない。てか、もう死んじゃったし」

「え?」

 思いもよらない言葉に立ち止まってしまう。

「冗談ですか?」 

 真剣に問うと

「いや、本当だけど」

 あっけらかんに彼は答えた。

「そうですか、なんかすみません」

 悪いこと聞いちゃったかな。

「君がそういうこと言うとなんか面白いな」

「え?」 

 どういうことだ?

「まぁ変な気を使わなくていいからさ。とりあえず学校行こうや。遅刻したくないしさ」

 それから、うまく会話ができなかった。


 教室に着いてからもなんとなく気持ちが重たい。

 あの時の彼の言葉、表情、声音、そのすべてがフラットであったことが気になってしかたなかった。

 結局その日は何にも手につかず上の空な1日を過ごしてしまった。


 はぁ、私は……何をしているのだろう……

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