第16話 文化祭1

体操着ぶちまけ作戦は、計画通り成功した。教室に忍び込むのは得意技のような感じになってきたな。もちろん、油断は禁物。

体操着をぶちまけた後の様子は、露崎さんの報告によるとけっこう騒ぎになり男子が疑われた。男子はもちろん全力で否定。鍵がかかってるロッカーを開けようがないという点を男子は強調したそうで、それなりに女子側が納得しそうになったところで、一人の男子がエロいことを発言してしまった結果それもぶちこわし。現在は険悪な雰囲気になってるそうだ。鍵の謎はとけないので、女子は全員暗証番号を変更したそうだ。まあそうだろうな。

クラスの文化祭実行委員がなんとか仲直りさせようと頑張ってるらしいけど、残り数日では難しいんじゃないかとのことだ。これで当日の破壊ができれば完璧だな。腹いせに男子がやったと思うことだろう。


高山はあれから学校を休んでいる。

担任は、腹を壊すなんて誰でもあることだとか言ってるけど、そんなことはみんな百も承知なんだよな。さすがに高山の取り巻きも今回の件については関わりたくないって感じだ。沖田さんによると、操作ミスで撮影するとか自分で公開するとかありえないから、ウィルスとかに感染してたに違いないって話がでているそうだ。以前のタバコの件とかもそうなんじゃないかという声も聞いたとのこと。そういうことになるよな。となると、高山本人とか高山の家族もウィルス感染を考えるはずで、警察に届け出とかするんじゃないかな。ちょっと心配だが、これはどうなるかちょっとわかんないな。


『警察に届けるとなると、例の動画も提出する必要がある。本人はとうに削除しているはずだし、そもそも嫌がるんじゃないかな』これは野島くん。

そうかもしれないな。今回の件が自分を標的にしたものだとは思ってないと思うし。学校の誰かがやったて感じだと、犯人をつかまえたいってことになるかもしれないけど、どこかでウィルスに感染して勝手に動画とられて公開されたと思ってる場合は、泣き寝入りにしかならないんじゃないかな。


文化祭でやるダンスも、高山がこなくなってからは練習も適当な感じになってきた。適当といってもいい加減という感じじゃなく、少々間違っても面白くてうければいいやっていう雰囲気だ。まあ、細かいところまでうるさかった高山がいなくなって気楽な感じになったともいえる。

それと、休み時間とかに、何人かの女子が沖田さんに話しかけるようになってきた。まあ、彼女は帰国子女だし、色々と話したいって子はいると思う。面倒な高山がいなくなってようやく話しかけられるようになったということころか。取り巻き連中も高山がいないとおとなしい。こうなってくると、高山ってのは面倒なやつだったんだなって思う。一人の厄介なやつがいなくなるだけでクラスの雰囲気は変わるもんなんだな。正直なところ、高山が学校に来なくなってよかったと思うくらいだ。


で、クソ谷中は眼帯を外したが、ちょっと目の周りが紫になっている。これはどう見ても殴られてるだろ。本当のところは本人に聞かないとわからないが、殴られたと思うことにしよう。これまでのところ谷中がカツアゲしている様子はないが、文化祭まではおとなしくしているだけかもしれないので、終わってからは気をつけないとな。ただ、間違いメールを気にしているのか、こいつらのメールでのやり取りが殆どなくなった。送った覚えがない点はどう解釈してるんだろうな。一応、発信元は谷中の取り巻き連中のものではなく、新たに取得したメールアドレスと適当な名前にして、誰が送ったかはわからないようにしている。送ったのは誰だってことでお互い疑心暗鬼してればいいんだけど。


さて、動体検知カメラも試験で問題なく動き、後は文化祭当日を待つのみ。

2年D組で破壊するのは僕の役割だ。茶店がどんな感じかは露崎さんから詳しく聞いている。どう破壊するかも色々と検討した。最初はスプレーで罵倒語でも書こうかと思ったけど、スプレー缶は小さいものでもかさばるので、隠して持ち歩くのは難しく、それと使った後は服とか手に匂いが付いてるかもしれないので、やめたほうがいいだろうということになった。スプレーで落書きされたら噂が広がるだろうし、学年とクラスが違うとはいえ、僕がスプレーの匂いさせてたら怪しまれる。


彼女のクラスの出し物は江戸時代の街道の茶店をイメージしたものということで、赤い布のシートをかけた腰掛け、これはビールとかのケースにダンボールを載せてシーツをかけるらしい、と、絵を描いた背景のパネル、コスプレ用の手作りのかつらや着物、後は急須やポット、紙カップ等がおいてあるそうだ。団子は手作りするらしいが、これは朝の時点では教室にはないかもしれないとのこと。

なので、背景パネルを倒して折り曲げて踏みつけたり、布のシートにペンを突き刺して穴を開けて破いたり、かつらを破壊したり紙コップを踏みつけて使えないようにすることになった。


こうしてあらためてやることを並べてみると結構ひどいことをやるって感じだな。一生懸命作ったものだろうに。まじでやるのかよって気もしてきた。クラス全体が標的なのは露崎さんの希望だし、やることについても露崎さんがOKを出してるし、彼女を誘ったのは僕だし、もうここまで来たらやるしか無いのだが陰湿な感じだよな。なんかいじめる側がやりそうなことだ。


高山の件もそうだけど、僕は復讐とか攻撃には向いてないんだろう。谷中への反撃がいまいちな状態なのだが、もういいやって気になっている。こいつらがカツアゲし始めたら暴露はしたいけど、こっちからの攻撃はもうしなくていいと思ってる。やられてる方なのに反撃しなくていいとか、お人好しなのか負け組根性が染み付いているのかも知れないな。まあもちろん、野島くんとかが攻撃したいなら協力するし、今回のも露崎さんの望みだしやるんだけど。


文化祭当日の行動についても話し合った。

僕が通う高校は上履きはなく、靴のまま校舎に入る。みんな同じ上履きなら足跡がついても誰だかわからないが、普通の靴の跡が残った場合、D組の男子が無実を証明するために残ってる靴跡と違うということを主張するかもしれない。露崎さんにクラスの男子がどんな靴履いてるか見てもらったところ、男子の靴はよく知らないとのことだったが、有名メーカーのスニーカーを履いてるやつが何人もいるそうだ。僕が履いてるスニーカーは街の靴屋で値段で選んだ安物だ。なので、同じ靴を履いてるやつがいない可能性が高い。いつも履いてる靴は結構ぼろいので、この機会に有名ブランドの安いモデルを買うことにした。とりあえず、学校でどんな靴を履いてるやつが多いのか確認し、今日の放課後に買って帰ろう。

もちろん、足で踏みつけるにしても靴跡がくっきりとは残らないよう、踏んだ跡に靴を動かして靴跡がぼやけるようにするつもりだ。新品だとくっきりと残るかも知れないし。


いよいよ当日。

登校自体が遅れる場合、基本は親から連絡しないといけないので、僕はいつも通り登校してホームルームの後で腹が痛いので体育館には遅れて行くということにした。野島くんは登校と当時に保健室にいってそこから監視するそうだ。今回、文化祭当日の朝に実行することが決まってから、一度ホームルームの後に腹が痛いといって次の授業に遅れておいた。腹の調子がいまいち良くないという印象を担任に与えておいたほうがいいと思ったのだ。


当日も学校にはいつもと同じ時間に登校する。スマホは音がならないようマナーモードにしてある。動体検知カメラの通知が飛んでくると音が鳴るからね。

これまでも何度か教室に忍び込んだことはあるが、放課後以外に忍び込むのは初めてだ。今回は全生徒が学校にいるし、体育館の行事が終わったら教室に戻ってくる。これはなかなかの緊張感だ。緊張で手の汗がすごいことになっている。顔色も悪いかも知れない。


ホームルームが終わり、体育館に向かうためみんなが教室を出始めたところで担任に腹が痛いと伝える。顔色が悪いが大丈夫かと言われたところを見ると、ほんとに顔色が悪いのだろう。体育館には遅れて行くことを伝え、トイレに向かう。


個室に入りスマホを見る。野島くんからカメラは問題なく動いているとの報告。露崎さんからも教室から全員出たとの報告がはいった。イヤホンをつけると、動体検知のアラームが鳴りまくっている。監視カメラの内容が表示されるサイトを開く。設置した2台のカメラ映像と2D年D組教室にしかけたカメラの映像が見える。廊下と階段のカメラには体育館に向かう生徒が映っている。


トイレの滞在時間を5分から10分とすると、15分程度以内に体育館に到着するのが自然だ。遅れて入ると目立つので体育館には行かないという選択肢もあるが、破壊工作を疑われないようにするにはやはり体育館にはできるだけ早めに行ったほうがいいのか。僕が体育館にいたかどうか気づくやつはいないと思うけど、これについてみんなで検討した結果、野島くんは保健室に残っていても問題ないが、僕は体育館に行ったほうがいいだろうということになった。


体育館の全校集会というか文化祭の開会宣言だったかなんだか忘れたけど、これが始まったら露崎さん、沖田さんが例のボタンを押す。全員が体育館に集合したという合図だ。彼女たちがボタンが押したのを確認したら、カメラの映像を確認しつつ2年D組教室に向かう。その後、何か問題が発生したら露崎さん、沖田さんが再度ボタンを押す。二度目が押されたら要注意ということだ。


トイレに篭ること7分。この間、ずっとカメラの映像を見ているが、4分経過以降は誰も廊下を通らない。10分後、二人がボタンを押した。始まったようだ。最初は校長の話だったかな。さて。向かうか。一応トイレの水は流す。

『トイレを出る』

返事はないけど野島くんが保健室でイヤホンつけて聞いているはず。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る