4 仲間のグルメ・海老名編!
海老名駅橋上駅舎の中にあるカフェで、事情を説明した。
「
「名刺を用意しているとは、なかなか用意がよろしい! うむ、わが鉄研も部員各自に名刺を用意せねば、な。用意する備品として覚えておこう」
「撮影であちこち行くから、撮影で出会った人に渡すために用意してるの」
得意げな華子である。
「でも、鉄研、ねえ」
華子はちょっと迷っている。
「仲間でやれば、いろいろ楽しいわよ。今日も実物観察楽しかったし!」
「うむ。仲間で連帯した行動なら、社会的な、世間様からの見栄えも良くなるな」
「一人じゃできないこともいっぱいあるわ!」
「でも、今日助けてもらった以上、恩返ししないと気がすまないのもぼくにはあるんだ」
華子は義理を感じているようだ。
「入部するわ」
「ありがとう! じゃあ、入部届!」
うなずいて記入のために機関車DD51のデザインされたペンを取り出した華子であった。
「うむ、これでまた貴重な新鋭駆逐艦が我が艦隊にドロップしたのであるな」
「何故にまだ艦これネタ……ヒドイ」
「ひどくないひどくない」
「でも」
彼女は言った。
「どうせなら、夕食してかない? 助けてもらったから、おごるわ! というか、おごらせて! ね!」
「ええっ!」
華子の先導でしばらく海老名の住宅街を歩いていくと、それはあった。
「こんな店、海老名にあったっけ?」
「あったの。私の家はここなの。宣伝下手だから知られてないけど、お客さんみんな満足してくれる」
彼女の案内で向かったそこは、住宅街のまんなかで『食堂 サハシ』の看板が出ている大衆食堂だった。
「うむ、ドラマ『孤独のグルメ』で井ノ頭五郎さんがフラフラと引き寄せられそうな、なかなかの風情である。こういう店にこそ多くの場合、B級グルメの真髄があるのだな」
「そう。B級グルメなのよ。時々A級も出しちゃうけどね」
店内に入る。
「わーっ、模型とか鉄道グッズがこんなに飾ってある! だから鉄道のビュッフェ車の符号で『サハシ』なのね。カウンターがまるで、写真で見た昭和のビュッフェ車の雰囲気!」
御波は思わず喜んでしまう。
「2階にはNゲージのレイアウトがあるの。前はお客さんにレンタルして運転してもらってたんだけどね、いろいろあって。
おとーさん、もうじゃんじゃん料理出して!」
「え、悪いわ! ちゃんとお金払うわよ!」
「ほんと、それはちょっと」
「うむ。そこまで負担させてしまってはこの『食堂サハシ』の経営にも響きかねないであろう。それは大変恐縮至極であるのだな。かつての食堂車も採算の問題で営業休止に追い込まれることが多かったらしいからの」
「じゃあ、1000円だけ。1000円で飲み放題食べ放題コースで」
「安っ! それでも安っ!」
「助けてくれたし鉄研に入れてもらったから、記念割引! ねー! おとーさん、これでいいわよねー!」
厨房の奥から「いいぞー」の声が聞こえた。
「あ、これ、食事券。うちはお客さんにみんな渡すの。今入鋏するわね。お父さん、切符テツなの」
「へー、すごい! オリジナルデザインの切符だ! 地紋までデザインされてて、紙質も本物そっくり!」
「おとーさん、切符の話すると止まらなくなるから、話の途中で遠慮しないで止めてね。この前それでお客さん、帰れなくなって大変だったから」
*
「食べたねー」
「というか、『うわっ、私、食べ過ぎ』ってドン引きしそうな暴飲暴食」
「だから、JR西日本の車輌を魔改造魔改造というけど、東日本にも魔改造の例はいっぱいあるんだからぁ! 103系なんかVVVFインバータ積んだことだってあるんだし」
「……華子ちゃん、その話はもう6周目よ。お酒入ってないのに……」
「時々いるのだ。ソフトドリンクでも宴が楽しいと、頭のなかでお酒よりもっと強烈な脳内麻薬が出る体質のもの。華子も斯様な御仁であろう」
「楽しくていいけど……」
「うむ。ワタクシも存外に補給しすぎて、離陸重量過大で動けないのである……。これは想定外の失策である」
「あ、お父さん、夜遅くなっちゃうから、車でみんなを家に送ってくれるって。家教えてね」
突然シラフに戻る華子だったが、食堂『サハシ』の座敷は、満腹のみんなが累々と転がる様相となってしまったのだった。
*
『食堂サハシ』の帰りの車も、『快特 海老名』の行先種別表示がバイザーにつけてあったり、鉄道の保安装置ATS-PやATC搭載の表記が真似て付けられている、なんともテツな車だった。形式名に『キハ』もちゃんと記されている。
しかも驚いたことに、本来のクラクションとは別に補助で鉄道のホイッスルの音が鳴らせるのだった。
「このホイッスルの音、AW-5ですか?」
「おおー、さすが鉄研だね! 汽笛の区別もできるとは。いいね! そう! 知り合いに作ってもらったの。これはサンプリングして回路から鳴らしてるんだけどね。
初めはコンプレッサーと本物のホイッスルで鳴らそうとしたんだけど、コンプレッサーもホイッスルも鉄道用の本物は重たくてでかくて。でもこの電笛も走りながら鳴らすと本物そっくりのドップラーがかかるよ」
「すごーい!」
そして、この日もみんなは、楽しい一日を思い出しながら、それぞれの家で床についたのだった。
しかし、まだ部員は4人。これでは鉄研は同好会のままだ!
さらなる部員ゲット目指して、物語は続くのである!
###コメント###
というわけで2019年鉄道の日記念公開で2話までアンコール公開しました。読みやすくするため各話2000字ぐらいで分割してあります。
ああ、残りも加筆したいなあ……。やるかなあ。なにしろこの鉄研シリーズが私好きなので、そのはじめの話はしっかりさせときたいんですよね。以前公開したのは4年前。当時頑張って描いても今見るとやりなおしたくなるのです。
なお海老名駅周りの風景は2015年当時を想定しています。文中に出てくる相鉄線ホームの駅そば屋さんは現在存在しません。畳んじゃったんです。残念。相鉄、こんど新宿に乗り入れたりするんだけど、そこまで生き残れなかった。あそこで働いてたパートのおばちゃんたちどうしてるんだろう。懐かしいけど……。
あと海老名駅前露天駐輪場のところには、なんと今、小田急ロマンスカーミュージアムが建設中です。2021年開業を目指して工事中。そしてそのために奉安所と書いた海老名SE車保存庫のなかのSE車はその展示準備のために現在相模大野に移送されています。でもその途中で整理されてせっかく保存されていたSE車の中間車が廃車になっちゃったんですよ……。小田急はお金も場所も余裕なくて残せなかった。税務当局を恨みます。産業遺産の税金安くすべきだと思うけどなあ。
あと華子ちゃんが入部届書かされたカフェも海老名駅に実在します。ぜひ海老名のほかの場所もふくめて聖地巡礼推奨。都心から480円でできる聖地巡礼。コスパよくていいですよ。
でも食堂サハシだけは実在しないかも。元ネタは大洗にある某海辺の食堂だし。でも……もしかするとあるかもしれないな……私がはっきり覚えてないだけで。ひいい。
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