ムーンストーリー

タンディガータンディ

第1話 プロローグ

 月、地球上で夜空に美しく輝く天体。人類の歴史の中でこれほど神秘に満ちており、且つ身近な存在でありながら、その歴史や地質等について科学が発達した現在でもそれほどわかっていない。

それもそのはず、地球から一番近い天体といえ39万キロメートル彼方の宇宙にあるのだ。

人類が、宇宙に解き放たれまだ1世紀にも満たない。そこに行くには、今世紀に入っても大変苦労するのである。

我々にとって月は未だ得体の知れない未知の世界。それゆえ、人々は月を神とたとえ太陽と比べた。

太陽が現実世界の支配者なのに対し、月は夜の世界・闇の国や幻想の国・冥界の支配者としたのも、そんな人々の思いがあったからに違いない。

そして、かつて人類が考えた月のイメージは、今、事もあろうか現実のものになろうとしていた。


・異常現象

【20××年3月22日21時22分】

 宮崎の日南海岸は、太平洋を望む景勝地で黒潮の影響を受け良質な漁場を育んでいる。

季節は、冬が終わり3月の早春を迎え穏やかな日々が続いていた。

素人の釣り人達が集まる人気の岩場では、夜、太公望を夢見て連日何本もの竿が垂らされている。

宮崎市の会社員である永友達也は、金曜日の夜仕事を終え大潮をめがけ大物を狙っていた。

暫くすると、常連の釣り仲間である30代半ばで同級生の伊東司がやってきた。

永友は、最近仕事が忙しくこの友人と久しく会っていない。

「司、久しぶりだな。調子はどうだ?」

永友は、釣りの準備を始めた伊東に声をかけた。

「達也、最近変なんだ。ここらの潮目が変わったような気がする。そのせいか、大物がよく釣れるようになって喜んでいるんだが」

伊東は、仕掛けを作りながら独り言のように言った。

それに対し、永友は驚く様子もなく答えた。

「潮汐って、予測可能だろう。毎年、変わるはずないじゃないか。釣具店に、印刷されて置かれているだろう。まあ、よく釣れるのだったらそれはそれで良いじゃないか」

伊東は、釣り竿を垂らしながらまた独り言のように言葉を続けた。

「確かにそうだ・・・ でも腑に落ちない・・・」

永友は、深刻そうな伊東の顔を見ながら返した。

「地球温暖化で異常気象の時代だから、多少ずれても驚きはしないよ」

それを聞いた伊東は、やれやれといった風で答えた。

「達也、相変わらず脳天気だな。確かにそうかも。特にニュースにもなっていないし。おっと、後から来た俺に福が来たようだ!」

見ると、伊東の釣り糸に大きな黒鯛が上がってきた。

 そんな何気ない会話の中にある現象、まさか今後全世界を巻き込むようなカタルシスが潜んでいようとは今は誰も知るよしがなかった。

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