向日葵と太陽と月と

山田。

第1話 2月8日

僕は君に告白した。


雪の日の夜だった。


部活帰りに一緒に帰ることが日課になっていた僕達はその日も薄暗い田んぼ道を歩いて帰っていた。君と僕は幼稚園からの幼なじみで、気がつけば隣にはいつも君がいた。

君はいつでも笑っている。

ニカッとハツラツとした笑顔で。

例えるならばそう、向日葵だろうか。

悲しみなど、辛いことなどないのかもしれない。

そんな君の笑顔が僕は好きだった。


ゆっくりと、すっかり慣れた歩幅で並んで歩く。

今日は氷点下になるらしい。君が手に吹きかける息はキラキラと白い水蒸気になり、君の目線より少し上で暗闇に消える。

魔法のようだと、無意識にその横顔を見つめた。

その息に触れたら凍ったもの全てが溶けてしまうんじゃないかと馬鹿げたことを考えたが恥ずかしくなって頭を振った。

そのくらい君の言動はいつも暖かいのだ。

無意識にポケットに手を入れる。不思議と暖かい。探るとカサカサと音がして温もりの正体がわかった。

そのカサカサとした温もりを握りしめ、反対の手で君の手をとる。

思わず目を見開いた。君も驚いて目を見開いている。

君の手は暖かい言動とはほど遠く、まるで氷のように冷たかった。

冬の手は冷たい。女子なら尚更体温は低いだろう。あたりまえの事なのに、勝手に、君は全てが暖かいと勘違いしていた。途端に恥ずかしくなり、同時になんだか悲しくなった。

「どうしたの…?」

君が困惑した目で僕を見ていた。

急いでポケットの中の温もりを、君の氷のように冷たい手に握らせる。

君はすぐに、僕の大好きな顔になったのだろう。声が跳ねていた。

「カイロ…!ありがとう。私いつもは持ってるのに今日忘れてきちゃって…ホント助かる!」

暗くてよく見えないが、きっと君の頬と鼻の先と耳は真っ赤になっているのだろう。そして白い歯を躊躇することなく大胆に見せて、くしゃくしゃな笑顔を浮かべているのだろう。

照れくさくて顔を背けた時、雪が止んでいることに気づいた。そして何となく先程より周りが明るい。

「あ!」

君が上を見上げて声を上げた。

君の目線の先を見ると見たこともないほど大きな、鮮やかな月がそこにはあった。

「そっか、今日スーパームーンだったね。雪だったからすっかり忘れてたよ。」

君は少し嬉しそうだった。

ふと君の顔を見た。

心臓が飛び跳ねた。

君の横顔は少しだけ大人びて見え、いつもの笑顔とは違う「微笑み」を浮かべていたからだ。

顔が、熱い。

冬なのにマフラーの下の僕の首はじんわりと汗をかき始めた。

心臓がうるさかった。

微笑みなど、人間誰しもがする表情ではないか。なにを突然動揺などする必要はないじゃないか。落ち着け。落ち着け!

心臓の音が聞こえてしまったのだろうか。それとも僕の視線に気づいてしまったのだろうか。

君がこちらを向いた。

「どうしたの?」

あぁ、後戻りなんかできない。

意識の向こう側で僕は口を開いていた。

「すきだ。」

時が止まる。

雪が降った日は静かだというが、こんなに静かなものだったか。

君は僕を見つめて動かない。

僕も君から目を離せなかった。

ゆっくり、慎重に、君は口を開く。

「わ、たしも。」

僕の頬に暖かい何かがつたった。

君の顔はまた見た事のない笑顔に変わった。

その笑顔の名前を僕は知らない。

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