私のバンドと仲間たち

笠原美雨

第1話物語の始まり

 私にはなにもなかった。打ち込んでいるモノも、好きなモノも。ただ、普通の生活を送るために高校へ通っていた。毎日がつまらなかったけど、それが当たり前だと思っていた。仲のいい友達がいなくても、それが当たり前だと。

 駅ビルに蛍光ペンを買いにきた。中間試験対策。平均点くらいはとれそうだけど、一応勉強しておかないと。うっかり赤点なんてとったらめんどくさいことこの上ない。

 文房具店の隣から音楽が聞こえてくる。普段は無視するけど、今日は何となく引き寄せられた。若い女の子の声、バンドの音。

「すみません、今かかっている曲はどんなグループですか?」

「有線だからくわしくは知らないけど、たしかレモン・スカッシュだと思うよ」

 店員さんに聞いて、CD売り場に探しにいく。表紙を見ると、私くらいの女の子たちがはにかんでいる。試聴ブースで聞いてみたら、お店で聞いた声で、楽しそうに演奏をしていた。なんかいい、そう思った。

「私もこんな風になりたいな」

 思わず、そうつぶやいた。何もない私でも、こんな風に毎日をエンジョイしたい、初めてそう思った。今まで何もしてこなかったけど、まだできるかどうかもわからないけど。

 蛍光ペンを買い忘れたこと、家に帰って思い出した。

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