第32話 つまらない(実際はつむりなんだけど)
最近の若者はすごあなぁ。そんな陳腐な感想しか出てこなかった。いやさ、俺が彼くらいの頃はどうだったか思い返してみるとオーク──それも上位種を複数体同時に相手なんてできなかっただろうな。いや、今でも一人であの数を瞬殺するなんて芸当は無理だ。
「いやー、アーツィー君、君は凄いなぁ。俺にはあんなこと出来ないよ。俺ができてせいぜいあのオーク一体を相手にするくらいだ。魔法が使えないって話だったけど、十分にその剣の才能があるから騎士になっても活躍できると思うよ」
ここで俺は自分の実力を盛らない。むしろ少し低く言う。実際はあのオーク3体ならいける。瞬殺は出来ないが着実にダメージを与えていき、殺せる。
年上だから、先輩だから、とそんな考えで見栄を張って自分の実力を盛った先輩が何人も無茶ぶりを振られ、死んでいったか……。あるいは仲間をピンチにしたり死なせたりした先輩を見てきたか……。
俺はそれを知っているから盛らない。純粋に相手を評価する。
「え!? いやいや、そんなお世辞は言わなくていいですよ。俺、調子に乗っちゃうんで。マイクさんでもこれくらい出来るんじゃないんですか? 俺はまだまだ弱いんで、力をつけなきゃいけないんです」
謙遜か。その年で、その才能……。嫉妬するにはちと歳をとりすぎたか?
「みんな、これでまぁ、アーツィー君の実力はわかったと思う。アーツィー君なら今回の依頼は難なくこなせると思うが、冒険者としての経験が浅い。だから彼の足りていないところは俺たちでカバーする方向で」
「わかったわ」
「ああ」
「了解」
各々が頷きマイクに賛同する。このメンバーの中にアーツィー君の実力を認めない者はいないだろう。
「よし、なら、作戦はカークとゲイルさんとミレイヤさん、そしてアーツィー君が前衛で、俺とリシエラは後衛。......っと言っても互いの間合いに入らないない距離で固まってくれていれば、前衛は好き勝手動いてもらって構わない。4人のフォローをするし、みんなとの距離感が離れ過ぎていればはぐれないよう声をかける。多少モンスターを後ろに流しても俺たちの後続が処理するから深追いはしなくていい。異論は?」
俺の作戦を聞いてみんな目を配らせる。少しの沈黙の後、ダブルバトルアクス使いのゲイルさんが口を開いた。
「……なぁ、たしかソロでやってる俺たちの動きを一人づつ見てから編成決めるんじゃなかったか?」
「あぁ、そのつもりだった。だけど、どうにも森の様子がおかしいようだ。さっきアーツィー君が倒してくれたオークだってただのオークじゃない。変異種だ。それに時間的にまだダンジョンの結界が破られたわけではないだろう。考えられるのは森の異変としかないと思う。だからこの先は何があるかわからない。あまり悠長なことはしていられないってのが俺の判断だ」
「なるほどな。今の変異種オークの群れと戦うのが俺だったら苦戦していただろう。そして判断ミスをしたら俺は死んでいただろうな。ってくらいの実力だ、俺は。アーツィー君には到底及ばんさ」
「え!? いやいや、そんな!? 意表をつけば誰だって倒せますよ。そんなに俺を持ち上げないで下さいよぉー」
ゲイルさんの実力は俺より少し上くらい……か。あのオーク達をベースにどのくらいやれるかで実力はなんとなくつかめる。それにしてもアーツィー君……きみはどうしてそこまで自分を過小評価しているんだ?
……まぁ、それはあとで考えるとして先に進むか。
「よし! 先へ向かおう。ダンジョンの入口までここの道を進めば良いだけだが、さっきのように変異種が現れてくる可能性がある。ここからはさっき俺が言った陣形になって臨戦態勢で進むように」
「わかった」
「りょーかい」
「わかりました」
あれから俺たちは特に何事もなく目的のザイツェダンジョンの入口のついた。
情報通り入口は結界で塞がっていて、今にも溢れだしそうな勢いでモンスターが集まっている。スライムやゴブリン・コボルトなんかはもうダンジョン下層にいる狂った目をした大型モンスターに踏み潰されてミンチになってやがる。
潰されているモンスターの悲痛な断末魔の大絶叫が入口から響いてくる。
そんな地獄の門と化したダンジョン入口を眺めていると脳内に女性の声が聞こえてきた。
「あー、あ、あー……コホンッ。聞こえますか? 入口にいる冒険者のみなさん。
「!? ちょ、ちょっと待ってくれッ!! まだ後続が着いてないんだ! あと2,3グループくらいは来るはずだ」
俺は慌てて反論する。あんな地獄の門をこじ開けて出てこようとしているモンスターをたった6人だけで捌くのは無理があるだろう。全滅させる訳ではないがさすがに限度ってもんがある。
たしかギルドが用意していた馬車の数は3、4台だったはず。その中の一番乗りが俺たちってだけで、まだまだ後から来るはずだ。あの時ギルドにいたのは20人ちょっとだったが、街中に召集かけてもう20人くらいは集まるだろう。
「え~。そう言われましてもぉ~。もうエッちゃんが限界なんですよぉ~」
「全グループが揃わなくてもいい! せめてあと、1グループだけでいいから到着するまで待って欲しいッ!!」
エッちゃんって言うのは恐らくこの結界を張っているエウスマキナだろう。ここにいる6人だけで目の前の地獄から飛び出してくる凶器に狂ったモンスターを削るのは不可能だ。耐えるので精一杯になるだろう。
「って、言ってるけどどう? エッちゃん。……え? もう無理? 後続はどのくらいで着くかって? ん~と……。あ、あー、後続の方たちはあと10分くらい掛かりそう。なんか途中でモンスターと戦ってますね。……じゃあ、エッちゃんもう無理そうなんで結界解いちゃいますねぇ~」
「!? はっ、ハアッ!? ちょ、ちょっと待ってくれ!!」
一方的にテレパシーを切られた。まぁ、一方的にテレパシーを送って来たから切るのも向こうの一存なんだが……。
「リーダー今の話ヤバくない?」
「ああ」
「でも、やるしかねぇだろ? 後続と合流出来ないつってもやんなきゃいけねぇんだし……。ああ、でも、少し作戦考えねぇと。真正面からやってもただ轢き殺されるだけになる。かといって下手にやつらの側面から攻撃して街道からモンスターがズレて森に入っちまったら今度は森にいるモンスターがパニックをおこしちまう……。くそッ!! 想像以上に状況がやべぇ」
「俺、学園生なんで校則で初級ダンジョンまでしか潜っちゃいけないんですよ。なので、中級ダンジョンのモンスターとやれるってだけでワクワクします」
俺とリシエラの会話に割り込んできたアーツィー君はやる気マックスだけど俺を含めた他のメンバーはこの地獄の門のようなダンジョン入口を見て青ざめているんだが?
変異種オークを瞬殺できるアーツィー君の実力ならいけそうな気もするが、俺たちはきみ程の力はないんだ。ほら、今のアーツィー君の戦闘狂じみた発言を聞いてみんなの青い顔がさらに青くなっちまった。さらにアーツィー君が続けてとんでもないことを言いやがった。
「俺が大物を処理しながら中に入って行きます。処理しきれないのは軽く傷付けながら進みますんで、そいつらをみなさんで相手にして下さい」
アーツィー君は剣を構えて駆け出した。
「は? え、アーツィー君ッ!! そ……」
それはいくらなんでも無理だろう。今、作戦考えて言うから早まったことはしないでくれ。
そう言いたかった。だが、結界が切れた──。
──ドドドドドドドドドッッッ!!
物凄い地響きと共にモンスターが溢れた出した。俺はすぐさま指示を出す。
「く、ここはアーツィー君に賭けるしかないッ!! さっきアーツィー君の言ったように俺たちが流れたやつをやるッ!! もし、アーツィー君がのまれたら、街道の両サイド2チームに展開して街道から漏れないように誘導するッ!! いいかッ!?」
「「ああ!」」
「「了解!」」
クソッ、いくらなんでも結界切んの早すぎんだろっ! せめて作戦練らせてからにして欲しがった。アーツィー君はもう結界を切られることがわかっていたからあんなこと言ったのか……。アーツィー君、無事でいてくれ。きみの実力を信じるよ。
アーツィー君がモンスターの中に入って行く……。すると───。
「でえぇぇぇえ!!!!」
「んんんんんんんんんんーーーー!!!!」
「でででええええええぇぇぇえーー!!」
「んんんーーーーーッッッ!!!!」
「むうヴヴぅぅうううーー!!!」
「しいぃぃいぃぃぃッーーーー!!!!!」
「ムウウウウヴヴゥゥゥーうッ!!」
「しぃいいいいいいいいッ!!!!!!」
「カアアアアアァァァァーー!!!!!」
「たあああああぁぁぁああぁッッ!!!」
モンスターの中に消えたアーツィー君の方から断末魔が立て続けに聞こえた。
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