第2話 僕の斬撃が見えなかったのか?(斬撃なんて出してない)

 ラミリスタ剣魔学園は魔人の襲撃があろうと、生徒・教師が死のうと、翌日普通に授業が始まる。

 『軍やギルドに入れば隣にいた人が死ぬのは良くあること。だから何があっても翌日には腑抜けずに通える胆力が必要だ。』

 という教育精神がこの学園にある。悲しむ暇は与えない。自分の弱さを認めて強くなれ。ってことらしい。

 なんとまぁ、剣魔学園に良くある校風だこと。


 そんなことを考えている内に僕は学園に着き、下駄箱を開けるとそこには一通の手紙が僕の上履きの上に置いてあった。


「え?これって…」





 3



「いや、まさか…」



 2



「俗に言う…」



 1



「ら、ラブレ…」



 バタンッ



 僕はとりあえず下駄箱を閉める。いやいや、まさかぁ。僕にこんなタイミングでラブレターなんて…。


「!」


 ま、まさか昨日、僕が能力発動しているとこを見ていたあの転校生ちゃんか?助けられたから好きになっちゃいました。的にな?

 いや、バカな。そんな


 僕はキョロキョロ周りを見る。すると、下駄箱の影に隠れる(隠れきれていない)あの転校生ちゃんがこっちを見ていた。

 これはひょっとすると…ひょっとするのか!?だとしたらチョロいぞ。この転校生ちゃん。


 ってか、リザさん。この子の記憶消えてなくない?僕のことガン見してるよね?リザさんがミスるとは思えないし…。ああ、そうか。組織の人間って考えを失念していたよ僕。

 ま、まぁ、まだ手紙の中身も手紙の差出人もわからないし。とりあえず、ささっと、そして何気無く上履きと一緒に手紙を取り出しポケットに突っ込む。で、教室へ向かう。


 


---




 転校生ちゃんの名前を忘れていた僕はクラスメイトが転校生ちゃんのことを『イルちゃん』と呼んでいた。愛称だとわからん。こういう時、アニメキャラみたいにフルネームで名前を呼び合って欲しいと切に願う。


 だって、ポケットからチラ見した手紙の差出人が『イルフィリア・クライツェ』と書いてあった。


 この教室に『フィーちゃん』とか『リアちゃん』とか呼ばれている女子生徒はいるし、その子達の名前も曖昧だ。だって普段、女子と会話しないし僕。

 あと、手紙の差出人がこの教室の人かもわかんないわけだし。




 朝の最初の授業が終わった。僕はトイレに行き、手紙を開封する。


『放課後、待ってます』


 と書いてあった。


 どこでだよ!どこで待ってんだよ君は!?手紙の差出人がドジッ子ちゃんなのはわかった。ただそれだけだった。




 僕は教室へ戻る最中に昨日死んだと思っていた勇者とすれ違った。


「え?」


 どゆこと?…教室へ戻った僕はすぐにその答えがわかった。


「さすが勇者様って感じ」

「で、今日は教会から朝来たんだってー」

「教会は病院並みに医療に関して整ってるし、なにより教会は勇者様のこと好きだもんねー」


 とか、僕にわかりやすく会話を繰り広げてくれていたクラスメイトがいた。なるほどね。あの教会の医療なら瀕死の重症の勇者も一晩で回復できるって訳か。教会の医療ってすげーな。


 

 授業中、手紙の差出人を再び考える。放課後、どこで待ってんだろ?とりあえず僕が教室で待ってればいいか。

 放課後、この考えをしなければ良かったと後悔するとは今の僕には思いもしなかった。








 キーンコーンカーンコーンー…。


 午後最後の授業の終わりのチャイムがなる。さて、僕はこのまま居眠りさせてもらおうかな。

 普通に教室に居残ってても他のクラスメイトからなんでお前残ってんの?って聞かれた時、答えられないからな。

 この居眠り作戦なら最後の授業からずっと居眠りしてたからだよ&手紙の差出人にももし教室じゃなくて別の場所で待ってて、なんで昨日来てくれなかったの?と聞かれた時に言い訳できるからだ。


 ふっふっふ、この作戦に穴はない。


「おい、レル、もう授業終わったぞ」


 僕を起こしに来た友人・アーツィー君。く、起こされるという想定はしてなかった。肩を揺さぶりながら再度起こしに来る。


「おーい、レルー。起きろってばー」


 ここまでされて起きないのは不自然過ぎるな。仕方ない。起きるか。


「ん、アーツィー君。…あれ?授業は?」


 僕は寝ぼけたフリをする。アーツィー君は苦笑しながら答えてくれた。


「ハハッ、もうとっくに終わってるよ。チャイム聞こえなかったの?」


「うん、熟睡してたみたい。アーツィー君が起こしてくれなかったら夜になってたよ。ありがとう、アーツィー君。ハハハ」


「良いってことよ。あ、俺は部活あるから。じゃ、また明日」


「うん、また明日」


 僕の笑いはカラ笑いだ。アーツィー君、余計なことをしてくれたもんだ。部活あるなら僕を起こさずとっとと行けば良いのに。

 今はそんなことを考えても仕方ない。とりあえず教室を出よう。まぁ、一応、こういう時のための、別の策はある。それは…。







 しらみ潰しだ。


 




 そう、こういうイベント事の場所は大抵決まっている。一つはさっきいた教室、他には屋上、校舎裏、中庭、旧校舎、空き教室などなど。それらをしらみ潰しで廻っていこうという作戦だ。

 この時の言い訳はこうだ。「いやぁ、実はカバンに付けてたストラップを無くしちゃってぇ」というものだ。もちろんカバンからストラップを外してカバンの中に仕舞ってある。


 さて、とりあえず屋上から行こうかな。





 屋上のドアを開け、外に出る。屋上の中央まで歩くと、空からボロボロの女の子が降ってきた。そして少し遅れて魔人がやって来る。え?来すぎじゃない?昨日来たばっかじゃん。


 立ち位置的には僕が魔人と女の子の間に割って入ったみたいな?全身、ボロボロの傷だらけの女の子が叫ぶ。


「おい、お前!逃げろ!」


 僕は両手をズボンのポケットに入れたらままだった。魔人が喋りだす。


「その女を庇っても意味はないぞ。大人しく女を差し出せば、苦しまずにお前を殺してやるぞ」


「私なんかを庇うな!私を見棄ててさっさと逃げろ!」


 うーん、どうしたもんか。このままだと僕死ぬ。だけど女の子が僕のこと見てるし能力はあんま使いたくないしなぁ。だけど仕方ない。また、あれやれば誤魔化せるかな?


 僕はポケットから両手を出し、腰に提げている剣を鞘ごと抜き取り、なんか今から技を出しそうなカッコいいポーズをとり、鍔を軽く弾き、刀身を少し見せる。そして能力発動。














「お前はもう、死んでいる」












 3



「この私と戦お-」



2



「-うと言うのか?」



1



「ふん、そのいき-」

「ダメェ!逃げ-」



 カチンッ



「ヤバブぐぼぁ!!!」

「-てぇーーー!!!」



「僕の斬撃が見えなかったのか?」


 などと、抜いてない剣で決めゼリフを言う。今までこうしてきたし、これで結構騙せてきた。ってか組織の人ら本気で僕の剣術だと思っているみたいだし、追加で万能能力がいくつも持ってるみたいな勘違いるみたいだし。


 で、いつも通り魔人は血を吹き出し断末魔をあげながら死んでった。女の子がボソリと呟く。


「マルチ…デリーター」


 あれ?この子組織の人間だった?って、良く考えれば魔人と戦うのって軍かギルドか組織くらいしかないな。


「噂通りだ。仲間のピンチを知り、タイミング良く現れて相手を斬り伏せる。これ…が…」


 眠りに落ちた。傷だらけだし、安心して気絶したのか?いや、違う。


「昨日ぶりだね、リザさん」


「ああ、こんなにお前と会うのが早いのは久しぶりだ」


「なんか最近魔人の動きが活発だね」


「ふ、そうだな。その動きを彼女に探って貰っていた所だったんだ」


 リザがボロボロの女の子をチラリと見る。


「お前の力がなければ彼女は死んでいた。今回も助かった。礼を言う」


「や、やめてくださいよ、リザさん。リザさんに礼を言われるだなんて-」


「ん、なんだ。私が礼を言うのがおかしいか?」


「あ、いえ、ソンナコトハナイデスヨー」


「何故カタコトなんだ。…まぁ、いい」


 そう言ってリザはボロボロの女の子を担ぐ。


「やつらの動きがわかったらお前にも働いてもらうからな」


 そう言ってリザと女の子は霧となって消える。




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