掌編小説「PANDORAの希望」
棗りかこ
掌編SF小説「PANDORAの希望」(1話完結)
「みんなに言っておかなければいけないことがある。」
PANDORA計画の推進者、コニー博士が、乗務員を全員集めた。
「これから、皆は、惑星オメガに旅立つことになった。」
アルテウス流星群との衝突を避けるためだ…と、
テレビモニターで、今後の進路と目的地を、告げる。
地球は、既に、人の住めない惑星になっていた。
「ラジャー。」
皆が、機敏な返答を返す。
今迄、太陽系を出てから、いろんなアクシデントに遭遇した。
今度も同じだ…。ひたすら、避ける。
小さな船で、慌てて地球を旅立ってから、もう、3年の月日が過ぎていた。
人類は、高度文明で自滅していた。
地球は、生物が住めない環境に、急激に変化した。
野菜は、工場で作られ、
最新型の宇宙船にも、実験的に、野菜室がつくられ、
宇宙パイロットが、自活できる設備に整えられていた。
「オメガって…。」
野菜室でトマトをもぎながら、ケイトが言った。
先に旅立った船があった筈よね…。
「今度、やっと地球人と会えるのね。」
いろいろな地球型惑星が、発見され、
その一つ、惑星オメガに、既に、移住者が旅立っていた。
移住計画の草分け的象徴だった、惑星オメガ。
乗組員は、希望に胸をふくらませた。
そう、惑星オメガに降り立つ、その瞬間まで。
彼らは、これから出会う人間たちに、思いを馳せた。
だが…。
「何これ?」
無作法な出迎えに、アリーが叫んだ。突然、突き付けられた銃口。
居並ぶ元地球人が、一斉に彼らに銃口を向けていた。
「船を降りて貰おう。」
リーダー格の金髪の中年が、冷然と、
「これから、俺らと君らは、入れ替わるんだ。」
「君らは、この惑星に、残り…。」
「俺たちは、君らの船で、この惑星を出る。」
ジャックされた船内は、静まり返っていた。両手を両耳まで上げて、乗務員は全員投降した。
「さようなら、諸君。」
何がどうなっているのか、わからぬ儘に、宇宙船カサンドラ号は、彼らをオメガに残して旅立った。
「どうなってるのよ~。」
安全を確認すると、アリーが再び、ヒステリックに叫んだ。
「わからん。」
「だが、とんだことになったことだけは、わかる。」
ケイトは、ロジャーと組んで、周囲を探索することになった。
荒れ果てた大地。畑には、草一本生えてなかった。
「どうやら、ここもアルカディアでは、ないみたいだな。」
ロジャーは、乾ききった大地にしゃがみ込むと、赤い砂を、摑んで、投げた。
あいつらの船はどこにあるんだ?
気付いたアンドリューが、偵察に向かった。
技師ハラダが、俺も行く、と付いていった。
船は容易に見つかった。だが、カサンドラ号と違って、野菜室がなかった。
昔の船だから、設備がないんだな…。
「あいつら、だから、乗っ取りやがった!」
彼らは、より安楽な暮らしを求めて、カサンドラ号を乗っ取ると決めたのだと、皆の結論は、一致した。
「どうするの?私達。」
その時、船のスピーカーが、ピーピーと鳴り響いた。
「なんだ??????」乗務員全員が、スピーカーの方に走り寄る。
彼らは、聞いた。彼らにとっての、生きる希望を。
彼らは、次にオメガに来た宇宙船ヨンドル号を乗っ取った。
野菜室ばかりか、合成肉工場も備えた、最新型の宇宙船。
彼らは、船を見回って、驚嘆の声を上げた。
「カサンドラ号より、すごいわ!」
それを、見上げていた、ヨンドル号の昔の乗務員たちは、
カサンドラ号の乗務員と同じ事を、考えた。
「次の船が来たら、皆で乗っ取ろう!」
絶望の果てに、唯一残った希望。
彼らは、同じことを考える連中だった。
PANDORA…。
(おわり)
掌編小説「PANDORAの希望」 棗りかこ @natumerikako
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