ドタバタインザナイト 〜Gとフォロワと時々ドンキ〜

阿部 梅吉

G(未知)との遭遇






地球最大規模とかゆー令和始まって早々謎の台風19号が襲った日、



地震や桜島噴火などもあり、人々は逃げまどい、交通網は乱れに乱れ、コンビニやスーパーなどあらゆる店が軒並み閉まったあの日。



家が揺れ、いつ何時停電や窓の崩壊が起こるかと怯えていたあの日。



人々は台風が過ぎ去ったあと、こう言った。



ああ、もう大丈夫だ、と。



次の日の太陽の穏やかさと人々の軽快な足取りを私は忘れないだろう。



電気のついてない薄暗くガムテープで窓が貼られたコンビニに人々が集い、通りには人が溢れ、交通網は復旧し、スーパーはいくつかの食材を消したまままた明かりをつけ始めた。



3連休も相まり、人々はいつになく穏やかに、晴れやかにその日を過ごしていた。







ただ、私を除いて。









その日、私は交通網の麻痺の関係や体調もあり、オフ会に参加できなかった。



また、イベントに参加すると会場で吐いてしまう不幸な体質を持っているため、冬コミには参加せず、冬休みは実家の北海道に帰る予定だった。



私はその悲しさを拭うために冬コミに合わせてKindleで自作同人を売ろうとイラストレーターの方と画策していた。



彼と軽い打ち合わせをしている間、ふと横を見ると、何やら可愛らしい大きなコオロギが見えた。





あー……



ふう。





私は村上春樹の登場人物ばりにため息を付き、やれやれと首を降った。



コオロギはなかなか可愛いが、私が今見たのはおそらくコオロギではない。




北海道民には縁のない、今まで幻の生物だと思われていた伝説の生き物であると確信した。





奴は間違いなくこの地球に、日本に生きていたのだ。



 



私は初めに不安よりもある種の感動と楽しさを感じていた。








私は感極まって彼に名前をつけた。



ルパン、と。




なんて可愛らしいのだろう。



彼は家主の私に一切知られることなく、一切のことわりもなく、この家に侵入していた。



世界で最も名の知れた怪盗の名を冠するのも悪くないだろう。




私には動物に有名人の名前をつける癖がある。



前に実家で飼っていた亀にはイアンソープと名付けた。

亀は愚鈍であったが、泳ぐ姿は誰よりも可愛らしかったからだ。



また、今使用しているノート型パソコンにはマイクロフトホームズ、電子辞書にはナポレオンと名付けている。不可能という文字がないからだ。




また、私は度々家に侵入してきた虫をそのまま放置して共存する癖があった。




前に一人暮らししていたときには、ハチが入ってきた。



私はハチに花子と名付けて寂しい一人暮らしの唯一の癒やしにしていたが、翌日電気をつけると電球の中で彼女は固まって死んでいた。





もともと私は殺生を好まない。



側近の将軍が自分を裏切って暗殺を企てない限り誰だってそいつを丸焼きにしたりしないだろうが、私は特に殺生を好まない。



というのも、私は大学時代、実験で多くの動物を類まれなる理性と好奇心を総動員して殺してきたのだが、もとより精神が不安定であり、また、人間と文化と叡智のために殺されるのは仕方ないと心得ていても、いざ自分が手を汚すのはほとほと嫌だという、自己欺瞞的な精神から、もう二度と生物はむやみに殺さないと誓ったのである。





が。





人にはその誓いを破らねばならないときがあるのだ。





人里に降りたクマは射殺されねばならない。

それはクマと人が共存するためである。



一度クマが人里に降りてしまうと、以降ずっとクマは人里で暮らさざるをえなくなる。





生物と生物が共存するには、適切な距離がある。



その距離を保つためには、時として血を流さなくてもならないのだ。



悲しいことだが、それはれっきとした真実である。







私は真実に目を背けてはならない。




たとえどんな犠牲が出ようとも、血が流れることになろうとも、少なくとも私は幸せな豚であることより、れっきとした人間である方を選ぶ。



いや、好むと好まざるに関わらず、世界とはそんなものなのだ。



真理は時として残酷だ。





弟と右腕をもがれたような気持ちになりながら、私は顔を上げた。





だが私が真っ先にとった行動は、お互いをよく知るフォロワーに電話することだった。



私は幾分動揺していた。




ゴキブリが出たんだ、と私は電話で彼に白状した。



私は緊張していた。



初めてのことだからどうすればいいのか何もわからなかったのだ。


何ごとも初めてのことは緊張する。


胸がどきどきし、息が荒くなる。


目だって背けたくなる。



でも、抗えない。



私は我慢の限界だった。



(ゴキブリの)視線を感じるたびにドキドキし、もうだめ、と許しを乞うた。



もうどうすればいいのかわからないの、と彼に正直に話した。



ねえ、朝、もしよかったら、一緒にいて、、、?



と言うと(一部脚色しています)



彼は、



僕も無理です、、、(〃ω〃)



と言った。(一部脚色しています)





そうかあ。そうだよなあ。







と思い直して一目散に彼を見捨てて私はでかけた。





歯磨きをしたままだったが仕方あるまい。



正直洗面台にすら寄り付きたくないので、歯ブラシをくわえたまま外へ出た。




一度は名前までつけ、一瞬だがかわいがった存在だが仕方あるまい、このままだと彼(G)と彼の家族にこの家を明け渡すことになってしまう。



それはまずい。



家賃光熱費を出してくれるならまだしも、のこのこと現れて食べ物と住処を提供してくれるちょろい奴だと思われたら、そのまま居着いてヒモになることは確定なのである。



危うく私はヒモニートダメンズを生成するところであった。



いい女は男を磨いて育てるものである。

決して甘やかしてはいけないのだ。







しかし近所のコンビニへ行って私は気づいた。





ゴキブリ駆除剤が売ってない。





仕方無しに近所のもう一つのコンビニへ行くが潰れていた。



ここらへんではまだ余裕をこいていたので、私はこの時点でも正直【ゴキブリに会うなんて関東の一人暮らしって感じで楽しいな】とヌルいことを考えていた。



3軒目のコンビニでもやはりなかった。





と、ここで先ほどヘルプを求めたフォロワーから耳寄りな情報を得た。



スーパーなら深夜まで営業している、と!





ナイスだ。



さすがだ。





さっきは一時ヘタレだと、ちょっと、ちょっと思ったが、人のことを何も言えないので黙っておいたが、見直した。





これで大丈夫だ、と思ったが、

やはり4軒目のスーパーでもなかった。





おいおいおいおい!!!



ジーザス!!!





神はやはりいないのか!!!!



そうだ神は死んだ!!!!



ニーチェだってそう言って死んだじゃないか!!!!



ゾシマ長老だって生き返らないんだ!!!!



予言は敗れる!!!!



ノストラダムスは嘘つきだ!!!!!



もう俺は誰も信じない!!!!



今はもう平成じゃない令和なんだ!!!!





と思ったが、冷静に考えると帰宅途中にドン・キホーテがあることを思い出した。



ドン・キホーテとは、その格安さと物の詰め込み具合、客層の幅広さで有名なお店である。


私は何も考えずにそこに滑り込んだ。



私にとっては、そこが最後の砦だった。



深夜十二時を回り、軒並みお店が閉まる中、ドン・キホーテだけが開いていた。



早速店内に入ると、所狭しと物が詰め込まれてある。



ちょうどハンドクリームが気になっていたので、テスターをいくつか試して香りを楽しみ、そういえばタオルも欲しかったことを思い出し、2つカゴに入れたところで正気に戻った。


いかんいかん。



早速私はドン・キホーテの結界の中で術にハマっていた。


ここは特別な結界が張られてあり、ついつい人々は物を多く買ってしまうのである。


また、ここにあるものにははたいてい破格の数字がつけられてあるため、動揺した者はつい我を忘れてしまうので、ここに入った者はすべて精神を強くする必要がある。





私は術を破り、必死に理性を働かせてゴキジェットを探した。





……





あった。





神は、いたのだ。





神は存在した。





この0時というド深夜に関わらずレジに人が並ぶ意味のわからない空間に、多くの人がなぜか黒いマスクをしているこの空間に、神はいたのだ。



しかもお茶が58円だった。



いつも使ってる脱毛クリームも500円で売っていた。



私はここを今度からメッカと呼ぼう。





ドン・キホーテは、その物語の中では、現実と騎士道小説の区別がつかずに、旅に出た。



しかしここでは、現実と幻は一体なのだ。



ここではすべての夢を実現する。




誰かが言った。



人が想像することは結局のところ、現実になり得る、と。



それは嘘ではなかった。



現に私は、幻を真実にした。





ここは私が探していた空島だった。



人の夢は、終わらねえ!(どん)!






私は家に向かって歩きだしていた。



そう。



私の本当の戦いは、これからだ。







★★★




家に入るのが怖かった。



私は臆病な人間だ。




しかし、私はこれからは冷酷な殺人鬼にならなけらばならない。



どんな任務もこなす暗殺者に成らねばならない。


コードネームは黄昏だ。ヌルフフフ。




私はレオンの後半のバトルシーンを必死で思い出しながら、家の前でゴキジェットを開けた。



ゴキジェットはさながら、銃口だった。




おそるおそる鍵を回す。




明かりがついたままだ。




私はひっそりと家に戻った。




気配はない。


しかし奴は確実に潜んでいるはずだ。



私は救援を求めた。




何度も殺しの実績のある男、


その名もT宮Uに。



コードネームは【ビッグブラザー】だ。




彼は人生の中でGに【何度も遭遇】し、そのたびに屍を葬り、時には紙越しに殴ることもあったという。



私は彼に、「家に帰ってきたけど奴は居ない」とすかさず報告する。


彼は落ち着いて、


「無理にこちらから探す必要はない。来たときに殺せばいい」


と妙にハリポタの最後のハグリッドみある言葉を返してきた。



「……妙に手慣れてるな。



さてはお前、殺した奴の数を覚えたないだろ?」



と私が冗談ぽく聞くと、



「もちろん」



彼は平然と言ってのけた。





……完敗だ。 

さすがはビッグブラザー。



俺にはできないことを平然とやってのける。そこに痺れる憧れる。



赤く、真顔になったDiscordのアイコンが本物の殺人鬼を思わせた。


「そうか、まだヤツを仕留める機会はあるからな」



内心の焦りを悟らせないよう私も冷静に答えた。


「いなければ寝たほうがいい」と彼は言った。



もう深夜の2時だった。



さすがの彼も限界のようだった。



「おやすみなさい」



彼は言った。



「おやすみなさい」


私も言った。



「ありがとう」呟いた言葉は彼に届かなかった。





世間ではラグビー日本代表が初めてベストエイトに進出していた。



誰しもが感動の言葉を口にしていた。



おめでとう、おめでとう、こんなこと誰も夢に思わなかった!!!!




そうだ、私の夢は終わらねえ!!!




ドン・キホーテが教えてくれた勇気と希望を明日に抱いて、私は寝ることにした。







ふとラインを見ると、兄からメッセージが届いていた。





【GOKI♡GOKI同棲❤生活】(本文ママ)




……新たな物語の始まりだった。




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ドタバタインザナイト 〜Gとフォロワと時々ドンキ〜 阿部 梅吉 @abeumekichi

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