第30話 大団円5
「『始まりの少女』?」
「そうです。そう名付けられていました。そ
れと同時に『終わりの少年』と言う記載もあ
りました。」
「それはセットなのかな?」
「綾野先生、先生は全部知ってらっしゃるの
ではありませんか?」
「いや、私にはある程度の推論はあっても確
信はないのだよ。」
「そうですか。続けます。『始まりの少女』
とは何者なのか。どういった力を持っている
のか、その答えが先ほどのお話です。」
「では彼女が宇宙を滅ぼすことが出来る存在
だと?」
「少し言い方が悪かったかも知れません。滅
ぼすということではなく、彼女の力はリセッ
トなのです。」
「リセット?ゲームのアレか?」
「そう。彼女の役目はリセッター。この宇宙
を一からやり直すことが出来るリセッターな
んだよ。」
宇宙をリセットする。一から始める。だか
ら『始まりの少女』なのか。
「彼女は無条件にリセットができるんだろう
か?」
「いえ、そういう訳ではありません。彼女が
リセットするのは彼女の周りの世界に彼女が
絶望した時のみ可能と記されていました。」
「絶望した時。そうか、だからあの子を眠ら
せて自分の役目を聞かせないようにしたんだ
な。ここで人間の醜い所を見せられてしまっ
ていたから。それで彼女が人間に絶望してし
まったら、この宇宙はリセットされてしまう、
ってことか。」
「まあ、自体はもう少し複雑なんだけど、大
体それで間違ってはいないよ。」
「それなのに、なんでそこに彼女が立ってい
るんだ?」
修平が指摘したとおり、彩木瞳は桜井亮太
に支えられて立っていた。話は当然全部聞い
ている。
「僕が手加減をしました。」
「おい、それがどういうことか、判っている
のか?リセットされたらどうする?」
「それでもいい、と考えているからですよ。
最初から彼女に全部話を聞かせるつもりでし
た。ただ、それを言うとそこの方たちが邪魔
をしそうだったので、一旦気を失ってもらう
ことにしたのです。」
火野将兵は内情の早瀬と公安の西園寺の方
を見て行った。
「当たり前だ、そんな危険な事が許されるは
ずがないだろう。まあ、話を聞いていてもい
なくても我々が保護することに変わりはない
が。」
「生憎ですが、そういう訳にはいきません。
僕が彼女を捜していたのは、彼女を監禁した
りする訳ではなく彼女に人間をもっと知って
もらって、その上で今の人類が、宇宙がリセ
ットが必要かどうかを判断してもらうためな
のですから。そして、そこの少年が『終わり
の少年』です。これはどなたもお気づきでは
なかったかも知れませんが。」
そういって桜井亮太を指さした。指された
本人はキョトンとしている。意味が全く判っ
ていないようだった。
「『終わりの少年』?その情報は我々には無
いぞ。西園寺、お前は知っているのか?」
「いや、知らない。それは一体なんだ?」
「『終わりの少年』とは『始まりの少女』が
繰り返す宇宙のリセットによる再生を終わら
せる存在なのです。神父は当然ご存知だと思
いますが、この宇宙は今まで『始まりの少女』
によって何回もリセットされてきました。そ
れを終わりにし、この宇宙が本来の終焉を迎
えるようにすることが『終わりの少年』の役
割です。」
「彼女を殺す、ということか。」
「いいえ、それではまた別の『始まりの少女』
がいずれ誕生するでしょう。そのサイクルを
終わらせる、ということです。」
「具体的に言ってくれ、その少年は一体何を
するのだ。」
「彼は彼女と協力してリセッターとしての能
力を未来永劫封印する、ということです。」
「なら、それを今ここでやるなら、もう彼女
を保護する必要はない、ということか。」
「保護などと言葉を誤魔化さないでください。
あなたたちは拉致監禁しようとしているだけ
ですよね。僕はそれを拒否します。そして彼
にも、同じように今の人類の本質を判断して
もらうつもりです。それに、あなたたちが最
後の手段と思っている、彼女を殺す、という
選択肢は、彼女が理不尽に命を失ってもリセ
ットされる可能性があるのですよ。」
「そんな情報は聞いてないし、言っている意
味が解らん。」
「早瀬課長、僕は二人をあなたたちには渡さ
ず、二人を連れて世界を巡って人類が今の宇
宙に相応しいかどうかを判断させる、と言っ
ているのですよ。」
「そんなバカな話があるか。この二人が宇宙
全体の生死を握っている、握り続けているの
を許すことになるんだぞ。」
「邪魔はさせませんよ。多分神父も協力して
いただける筈ですし。」
「我に何をしろというのだ。」
黙って聞いていた神父はなぜか七野修太郎
とは離れたところにほぼ闇として存在してい
る。
「神父にはこの国や、他に国にしても国家権
力に僕たちが害されることがないよう、手を
まわしていただければと。」
「世の権力者どもに圧力をかけろと?」
「脅迫、の間違いでは?どちらにしても、自
由に僕たちが動けるのなら大丈夫です。」
「我がそれを受けるとでも?」
「そうですね、多分。あなたの主は面白がっ
ていただけると思うのですが。」
(確かに『面白そうだ』って言ってるよ。)
「だまっておれ、ヴルトゥーム。」
(怖わっ!)
「綾野先生も協力していただけるのではない
かと思っているのですが。」
「条件がある。」
「どんな条件ですか?」
「これ以上、火の民を取り込まない、という
ことと、その二人の安全だ。」
「判りました。二人は当然守ります。火の民
は、まあ、一時休止、ということで。」
「だめだ。今後一切取り込まないと約束した
まえ。」
「仕方ありません、先生の協力はぜひ頂きた
いので飲むことにしましょう。」
「ちょっと待て、本気か?宇宙がリセットさ
れたら我々は全部滅びてしまうんだぞ。」
「本気でないとこんなお話は出来ませんよ。」
火野将兵は終始冷静だった。
「遠藤君、君の願いは神父に頼んでおくから
多分桂田利明という人間を訪ねることになる
と思うよ。」
「よく判らないが信じることにする。騙した
ら地獄まで追いかけるからな。」
「いいよ。では、皆さん、またどこかでお会
いしましょう。」
そう言うと火野将兵、彩木瞳、桜井亮太の
三人は普通に倉庫の出口から出て行った。止
めようとした早瀬たちは動けなかった。既に
人間に形ではない神父に遮られたからだ。
「お前たち、聞いていたとおりだ。あの者た
ちの邪魔をすることは我が許さない。お前た
ちの上司にもそう伝えるがいい。」
そういうと闇と化した神父も消えた。
気が付くと早瀬、本山、西園寺と榊原が残
されていた。神林たちも消えている。
「どう報告すればいいんだ。」
その早瀬の問いに応える者はいなかった。
始まりの少女(クトゥル-の復活第7章) 綾野祐介 @yusuke_ayano
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