067 番外編07 お別れは悲しみよりもドタバタで(前編)

(前後編です)

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 プルンがノイエ君と家に帰る日が来た。

 プルンは朝から元気がなく、とうとうオレの部屋のクローゼットに潜り込んでしまった。丸いお尻とちっちゃな尻尾が見えてて、可愛いやら可哀想で――。


「プルプル震える尻尾か。いいな」


 うん、やっぱり来るよね、変態ラウが。

 でもオレはプルンを慰めるのに忙しいから無視するのだ。それに、ちゃんと止めてくれる人もいる。


「やめろよ、兄貴」

「でも美しいよ。見てごらんよ、あの小さな丸い尻尾」

「当たり前だ、わたしの使い魔だぞ」

「お前たち、ムイちゃんの尻尾も褒めてあげないとダメじゃないか。拗ねてしまうぞ」

「おー、ムイちゃんの尻尾もふさふさでイイぞ」

「兄貴、言い方が変だ」

「ムイちゃんの尻尾はしましまになっているのが良いね。デザインとして大事なポイントだよ」

「デザイン……? まあ、いいか。そうだぞ、ムイちゃんは尻尾も良いんだ」

「だが、オムツ姿が一番じゃないか? ムイちゃんはオムツはもう卒業したというし、プルンならまだオムツだ。人化してオムツを穿かないだろうか」


 リア婆ちゃんの息子たちは相変わらず言いたい放題。オレは振り返って睨んだ。プルンに聞こえたらどうするの? まったくもう!


「プルン、またあそぼーね。いつでもつれてきてもらったらいいんだよ」

「きゃぅ……」

「いっぱい、たのしかったもんね!」

「きゃん」

「ムイちゃんのしっぽ、さわっていーよ」

「きゃぅ」

「だから、こっちにおいでー」

「きゃぅ!」


 振り返ったプルンはクローゼットの中から降りて走ってきた。コロコロしてるし、前足と後ろ足が同時着地なものだから変だけど、斜めになりつつオレのところまで辿り着いた。

 プルンはオレのレッサーパンダ姿に抱き着いて、受け止めきれなかったオレもろとも転んだ。


 よしよし、って撫でて、尻尾をぽふぽふ振る。プルンはぎゅうぎゅう抱き着いてたけど、少ししたら安心したみたい。顔を上げて「きゃふ」と鳴いた。


「ムイちゃんのしっぽ、きもちーよ!」

「きゃん!」


 プルンはオレの尻尾を見ようとして、ハッとした顔になった。


「ムイちゃー、おなか、くろくろでちゅ?」

「えっ、いま? いまなの?」


 今頃気付いたらしいプルンに、オレは驚いてしまった。そう、レッサーパンダであるオレのお腹側は黒い毛なのだ。だがしかーし。とってもふかふかで気持ち良いのである。

 背中よりもお腹の方が柔らかい毛らしいよ。オレはレッサーパンダの時、背中に手が回らないから知らないんだ。つまり、これはリア婆ちゃん情報。あ、ルシもお手入れの時に話してたね。

 みんなオレのふわふわにメロメロなのだ。


「ムイちゃんのおなか、くろいけどもっふもふだよ」


 決して腹黒という意味ではないのだ。一応すかさず「もふもふ」であることをアピールしちゃう。ここ、とっても大事。

 プルンはこてんと首を傾げた。


「もふ?」

「うん。さわってもいーよ」

「はいでちゅ」


 触っていいって言ったのに、プルンは頬を寄せてすーりすりする。それは猫的な感じじゃない? そりゃジャイアントパンダは大熊猫って言うらしいけど!

 まあ、甘えたい盛りだよね。赤ちゃんだもんね。

 いいよいいよと思っていたら、そうっと近付いてきたラウが手を伸ばしてきた。もちろん、パシッと手で弾いたよ。音はペチッて感じだったけど。


「ラウはだめ」

「な、何故だ。いいじゃないか」

「だめ。なんかいやなよかんがするの」

「どういう意味だよ」

「兄貴の変態部分がムイちゃんには分かってるんだよ。ここにいる間、ずっと兄貴はおかしかったからな」

「いいじゃないか。可愛いものを愛でる。素晴らしいぞ」

「筋肉の次は可愛いものか。兄貴はいろいろと突き抜けすぎだからな」

「そうだぞ、ラウ。ムイちゃんの嫌がることは禁止だ」


 さすが委員長タイプ、優等生のリスト兄ちゃんです。ありがとう!

 オレはプルンを抱っこした状態でずりずりとお尻移動でラウから離れた。

 でも、移動した先にまたしても変なのが!


「美しい……」

「きゃー」

「きゃん?」

「毛並みが光を帯びて、これを絵に残すには……」


 オレが叫んだのに、クシアーナさんてばぶつぶつ独り言。

 ダメだ。

 撤退すべき。オレはむくっと起き上がってプルンを抱っこしたまま、また移動した。


「かくなるうえは、ノイエくんなの」

「わたし?」

「ノイエくんはプルンをへんたいからまもりきってね!」

「あ、ああ」

「ムイちゃんはじぶんのことでせいいっぱいだから」

「ああ……」

「ムイちゃんもいそがしいんだよ。つかいまのおしごともあるしぃ。ルシのおてつだいもあるんだから!」

「そ、そうか」

「ぼうけんしゃもするからね!」


 むふん。

 胸を張ると、抱き着いていたプルンが離れて「んんー」と変身した。


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