066 番外編06 モフモフでコロコロ




 その日、オレはプルンと一緒に獣の方の姿で遊んでいた。

 プルンのパンダ姿が見たかったので頼んだら、一緒に変身しようと言われたのだ。

 最近は人型に慣れすぎてて久々だったけど、戻ったら戻ったですごくしっくりきた。

 うむ、これこそオレの原点!!


 そんなオレを見て、プルンはめちゃくちゃ喜んでくれた。


「きゃぅきゃぅ~!」

「きゅんきゅん」


 獣姿の方でも人語が喋れるんだけど、つい獣語になっちゃうのはオレたちが赤ちゃんだからかな?

 あっ、オレはもう赤ちゃんじゃないんだけどね!

 ……オレは流される生き物。プルンの喋りが感染しちゃうのだ。そういうことにしておくのだ。



 とにかく、オレとプルンは服を脱いでから「んん~」と唸って変身し、屋敷内を走り回っている。

 獣姿って何故か走りたくなるよね。


 そんなオレたちの後ろを、ラウが笑いながら追いかけてくる。不審者丸出し! こわいよ!?

 ラウの後ろにはノイエ君がいて、ぶつぶつ呟いてたからやっぱりこわい。

 応接間では超割増されてる美麗のオレとプルンを描いているクシアーナさんがいるし、もしかしてここは変態の巣窟かしら。


 リスト兄ちゃんだけは大丈夫だと思ってリア婆ちゃんがいるお部屋に走り込むと、お仕事をさせたい秘書のルソーと「わたしはここでムイちゃんと暮らすんだ」「ダメに決まっております!」とやりあっていた。

 リア婆ちゃんは呆れた風でソファに横たわってる。安定の魔王様スタイルだね。


 リスト兄ちゃんとルソーのやり取りが激化する前に、オレは慌ててUターン。プルンがブレーキ効かずにコロコロ転がっていっちゃったけど、お構いなしに置いて逃げた。

 ごめんね、プルン! 君の犠牲は忘れない!

 大丈夫、きっとルソーが助けてくれるよ!



 庭に出るとフランが素振りをしていた。オレもオレもって思ったけど、よく考えたら今は獣姿で何も持ってないんだった。残念。

 しょんぼりしつつ走り込みの練習だーとフランの周りをくるくる回っていたら、プルンもやってきた。


「きゃぅ……」

「きゅんきゅん」


 オレが消えたように感じて寂しくなったらしい。ここにいたの? と泣き出しそう。

 ご、ごめんね?


「きゅん」

「きゃぃ」


 謝ったら「いいの」って健気な返事。うむ、なんだかすごく悪いことしたみたい!

 オレは爪が当たらないに、そうっとプルンの頭を手で撫でた。よしよし。レッサーパンダの掌はモフモフしてるから痛くないよ。

 プルンは嬉しくなったみたいで抱きつきにきて……。まあ、ぶつかっちゃうよね!

 ふたりしてコロンとなった。


「きゃぅ!」

「きゅんきゅん」


 地面に転がるのは楽しい。オレたちは顔を見合わせた。プルンは途端に元気になった。

オレの言いたいことが分かったんだね。

 よし、泥遊びだ!


 オレはプルンを振り返りつつ畑の横の細い道を走った。近くの林を抜けて、小さな川まで向かう。

 そこに浅瀬になった絶好の場所があるのだ。



 むふふ。

 オレは必死で川の水をバチャバチャした。土が濡れて、なかなかいい感じ。プルンは最初分からなくて見ていたけど、すぐにパアッと目を輝かせた。

 分かるかね?

 そう、これは畑なんかではできない大泥んこ場なのだ。


「きゃぅー!!」

「きゅんきゅんっ」


 ハスちゃんは王都の訓練施設にいるし、コナスはオレの代わりにルシのお手伝い中。

 邪魔をする者も泥まみれになって糠漬けみたいになる者もいない。

 オレは高笑いをしながら泥に飛び込んだ。


「きゅはーっはっはっ!!」

「きゃぅん~!!」


 続けとばかりにプルンも飛び込んで、全身泥塗れ。

 もう楽しくて楽しくて、オレもでんぐり返し。

 更に、川の水をもっと取り込もうと足でバチャバチャ引っ掛けて、泥んこの場所を増やしながら暴れまわった。


 泥団子の作り方も伝授したよ。

 これはとっても大事。水分が多いとべちゃべちゃになって作れないからね。その見極め方をプルンに教えてあげるんだ。固める強さや艶を出す方法など、惜しげもなく教えてあげるのがいい先輩の証。


 あと、武器としての泥団子も作成しましたよね。


「いい? このなかにくさいくさのしるを、しこむの」

「きゃぅ」


 細かい作業なのでオレは人型に戻って説明した。

 プルンはパンダのままでも問題なし。赤ちゃんの時と同じく手先は不器用だからね。

 本人には言わないよ。そういうのはいつか自分で気付くものなのだ。


「おさかなの、ぶにゅんってしたところもいいよ。めだまはね、ルシにもらうの」

「きゃぅ?」

「あとねぇ、トゲトゲのはっぱとかも、ゆうこう」

「きゃん」

「こいしはあぶないから、ほんもののあくにんにだけつかうんだよ?」


 今日は危ないので石入りは作らないのだ。でも、悪者に対する武器については教えておいてあげた方がいい。

 プルン可愛いから、誘拐されちゃうかもしれないもんね。


「おあそびのときの、どろだんごこうげきは、こっちね」

「きゃん!」

「わるものには、どうぶつのうんこをいれてもいいからね。ただこれは、じぶんにもダメージがあるの……」


 しょんぼりしたら、ガサガサって葉音と一緒に声が。


「お前、なんちゅうことを教えてるんだ」

「フラン! ……ししょー」

「おう。もう呼び捨てでいいぞ? それはともかく、危険な遊びを教えるんじゃない」

「だってー! もしプルンがゆうかいされたらどうするの? はんげきのチャンスがあれば、こうげきしないと!」

「お前って見た目に似合わず案外攻撃的だよな。あと方法がえげつない」

「ちっちゃい子がたたかうためには、ひじょーにならないとダメなの」

「お前はまた……」

「ムイちゃんなの」

「はいはい。ムイちゃんだな。で、ムイちゃん、ルシが探していたぞ。コナスを囮に使うのを止めないと、そろそろまずいんじゃないのか?」

「ぴぇっ」

「ほれ、水浴びしてから帰るぞ」

「はーい」

「きゃぅ!」

「そっちもまた、白黒の模様が分からないぐらい泥だらけになったな。ノイエが見たらひっくり返りそうだ。坊主まで悪ガキになっちまったってな」

「プルンはプルンっておなまえだよ。あと、ムイちゃんはわるガキじゃないの」

「……そうだった、プルンだな。よしよし。ほら、こっち来い。深みにハマると危ないからな。ムイちゃんは獣姿に戻れよ」


 フランはなんだかんだで世話焼きだから、オレとプルンを片方ずつ担いで川の中に入った。オレに獣姿に戻れって言ったのは掴むためだったみたい。

 首根っこ掴まれたまま何度もじゃぶじゃぶされるという、なかなか豪快な洗い方された。ん、でもオレ、水も滴るイイ男になったんじゃないかな?



 作った泥団子は硬さ別に大きな葉っぱで包んで持って帰った。

 途中でラウに出会ったから投げておく。


「おっ、な、なんで俺に投げるんだ」

「なんとなく?」

「きゃっきゃ!」

「プルンは楽しそうだなぁ。ムイちゃんのこういうところ、真似しないか心配だ」


 言ってるそばからプルンも投げた。残念ながら全然届かない。それでもプルンは楽しそうだった。

 でも、ラウの後ろを追ってきていたノイエ君に、プルンの投げた泥団子が当たってしまって――。



 プルンが反抗期になったって泣きながらリア婆ちゃんに訴えてるノイエ君の横で、オレは正座したままルシに怒られたのだった。


 何故か一緒にコナスも正座で(は無理だったけどそれらしく)座ってたし、プルンも子パンダ姿でぽてっと座ってたから、オレは怒られても平気だったよ!

 ……平気だったよ……。





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漫画で動くムイちゃんを見たくて、カクコンに登録しました

comicwalker賞狙いです

よろしくお願いします~









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