064 番外編04 コナスの冒険、あとハスちゃん




 オレとプルンが木箱で階段滑りを楽しんでいる頃、コナスは大冒険(?)を経験したらしい。

 それを知ったのはルシに叱られながらだった。

 ちなみに叱られた理由は「スピードを出すために絨毯じゃなくて木箱を使ったこと」と「それを見た息子五人組がはしゃいで階段をめちゃめちゃにした原因を作った」から。

 なんか納得いかないんだけど!

 ルシってば、息子ちゃんたちに怒れないからって、オレをだしにしすぎじゃない? まったくもう!


 それはそうとコナスの冒険だよね。

 何があったのか、コナスとルシからじっくり聞いたんだけど――。



 *******



 コナスの冒険は、ムイちゃんが階段落ちをコソコソ画策し始めたのがきっかけで始まった。

 ムイちゃんがコナスにアリバイ工作を頼んだからだ。


「コナス、ムイちゃんのかわりにはたけからキュウリ、じゃなかったオクラをとってきてくれる? ルシがおだいどころにいるから、ザルの上にのせてきてね」

「ぴゃっ!」

「ゆっくりでいいよ。じかんをかけて、はこんでね!」

「ぴゃぅ」

「むふふ。そのあいだにムイちゃんは、にんむをすいこうするのです」

「ちゅるのでちゅ?」

「プルンはいいこね。シーッだよ。ぐふふふふ」


 木箱を引きずりながら、ムイちゃんは行ってしまった。残されたコナスは、ふんっと踏ん張ると「いざ出陣」とばかりに畑へ向かったのである。


 毎日のように雑草を取っているため、畑は比較的歩きやすい。コナスも小さな草に足を取られることなく歩いて向かう。ジャンプはできるけれど、近くにムイちゃんがいるから「やる気」になるだけだ。コナスだけなら、しない。

 ぴょこぴょこと進めばムイちゃん曰く「みどりコーナー」の畑が見えた。

 手前にキュウリ、奥にオクラがある。

 コナスからすれば森みたいな畑の中を、どんどん進んだ。


「ぴゃ?」


 カマキリがいた。待ち構えていたのか、大きな鎌を持ち上げている。

 その後ろには見事に育ったオクラたち。

 立ちはだかる敵に、コナスはむんっと気合を入れた。


「ぴゃーっ!!」

「シャーッ」

「ぴゃぅぴゃぅ!」

「シャーッ」


 敵は威嚇するだけで鎌攻撃はしない。コナスはぴょこぴょこと避けながら、カマキリの横をすり抜けた。

 背後から一撃の体当たりをしようとして、だがしかし――。


「ぴゃぁ!?」


 カマキリは飛んでしまった。

 コナスは仁王立ちでカマキリの飛ぶ姿を眺めた。やがて「あれ? もしかしてカマキリ逃げた?」という事実に気付いた。

 つまり、コナスは勝負に勝ったのだ!!


「ぴゃっ!!」


 喜びの舞を踊ったのは、ムイちゃんがいつもそうするからだ。コナスはぴゃいぴゃい踊りながら、自分の仕事を思い出した。そう、オクラをもいで運ぶという仕事だ。ムイちゃんに頼まれた大事なお仕事である。

 コナスは一番大きく見事な太さのオクラを、抱き着いてモニョモニョ動きながらなんとか収穫したのだった。



 トゲトゲが頭についた状態で台所に向かうと、ルシが出てきてコナスを見下ろした。


「畑で何か騒いでいると思えばコナスだったんだね。ムイちゃんはどこかな?」

「ぴゃ?」

「知らないフリがムイちゃんにそっくりだねぇ。でもだから、バレバレなんだけど……。ふふふ」


 ルシは「さあおいで」と屈んで手を伸ばした。コナスは素直に飛び乗った。ルシはコナスにとても優しいから好きだ。今も頭についたトゲトゲを取ってくれる。

 だからか、つい、教えてしまった。

 家の中央にある大きな階段、そちらを指差したのだ。


「ムイちゃんはあっちにいるんだね? 畑をコナスに任せて」

「ぴゃ」

「さあ、トゲは全部取れたよ。オクラは今日の料理に入れようね」

「ぴゃ!」

「まずはムイちゃんの捕獲だ」


 ルシはコナスを手にしたまま階段に向かった。

 ムイちゃんはルシとコナスを見て「コナスがゲロったのー?」と叫んだ。叫びながらも木箱はスピードを上げたまま滑り落ちてくる。コナスがあわあわしている間に、ルシが慌てて受け止めていた。

 それからルシがムイちゃんをゴツンとやって、びっくりして心配でオロオロするコナスは「ゲロった」が何か聞く間もなかったのである。



 *******



 さて、それはそうと、その頃のハスちゃんだ。ムイちゃんがこんな楽しい遊びをしているのに、ハスちゃんがいないなんて有り得ない。

 彼が何をしていたかというと――。


 またしてもルソーと追いかけっこの末、ハスちゃんは躾教室に放り込まれていたのだった。しかもルソーがセットで。

 本来なら飼い主が同行するところ、ムイちゃんでは無理だと悟ったルソーが自ら名乗りを上げた。

 王都一厳しいと言われる躾教室では、キリッとした顔の強そうな犬ばかり。

 軍用犬と呼ばれる、細身の筋肉質系が多い。ぽよっとして、表情だけはイケメンに見えるハスちゃんとは雲泥の差だった。

 彼らは皆、やる気に満ちている。


「わぉん……」

「ワン!」


 鳴き方からしてキリッとしていた。ハスちゃんはちょっぴり腰が引けてしまった。けれど逃げようにもルソーがリードを離さない。

 周りはポジティブでアグレッシブでブートキャンプだ。


「わぉ……ん」


 ハスちゃんはしょんぼり尻尾のまま、地獄の訓練に参加させられてしまったのだった。

 その成果が見られるのは、また別のお話……?




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