10 勇者 vs 聖女 Final Round

 俺は昔を思い出していた。

苦しい戦いの日々だった。

そんな苦しい戦いでさえ今ではいい思い出だ。

俺はかつて勇者として大魔王を倒すために

仲間達と共に旅をした。

懐かしいな、また会いたいものだ。


俺は今でも毎日素振りをしている。

勇者の剣、俺の相棒だ。

いつ如何なる時でも鍛錬は忘れない。

それが騎士というものだ。

勇者としての役割を終えた俺はただの騎士に戻った。

元々目立つのは好きじゃない。


「や、レオンおはよー!」


「マリー起きたのか。珍しいな」


昔を思い出したのはマリーが遊びに来てくれたからだ。

暫く滞在するらしい。

マリーも背が伸び、すっかり女性らしくなってきた。


「レオン、目がエロいよ」


「オイオイ、マリーの成長に昔を懐かしんだだけさ」


「ま、あの頃より背も伸びて美人になったからねー

レオンは変わらないね」


「そうか。嬉しい事を言ってくれる」


「本当に変わらないから、

あの時の真っ青の顔を思い出しちゃったよ。うぷぷ」


「あの時って先代聖女の日記か?」


「そうそう!」


「あれは参った。もう博打だったな」


「まさか本当だったとは私も思わなかったよ」


そう言ってマリーは『賢者のワンド』を懐から取り出す。


ヤケになった私達は地図の場所に行ってみた。

そこには本当に洞窟があり、入り口は封印されていた。

そしてアリシアの祈りで入り口の封印が解けたのだった。

手に入れたのは 『聖女のサークレット』、『賢者のワンド』、『剣聖の双剣』、『筋肉を引き立たせるネックレス』、『鑑定のルーペ』、その他財宝だった。


「お姉ちゃんは凄いよね。結局全て

お姉ちゃんの言うとおりになってたからね」


「ああ、お陰で破産する事無く、大魔王を討てたな」


「レオンはどうして勇者辞めちゃったのさ」


「単純だ。目立つのは好きじゃないんだ

それに私がしたのは結局奪うことだけさ。」


「そっか」


 マリーはその後、賢者として各国を巡り、

魔道士に講義をする先生になった。

弟子は既に1000人を超えるらしい。

またマリーに他のメンバーの現在も教えてもらった。


 剣聖は最後まで名前が不明だったが

あの戦いの後、自分と結婚し幸せに暮らしているとのこと。

元々貴族なので領地経営に勤しんでいる。


 商人ルイジアナは魔王討伐の旅で得た財を元手に

大商人の仲間入りを果たした。

彼女が得た『鑑定のルーペ』のお陰で鑑定士としても有名のようだ。

因みに、その鑑定のルーペのお陰で

アリシアから貰った剣が呪われていた事を知った。

そして呪いの地味な内容も。

今では笑い話である。


 筋肉ことボマー師は道場を再開。弟子が3人増えたらしい。


「また、皆で会いたいものだな」


「そうだね」


朗らかに笑っていると

騒がしいのがやって来た。


「父ちゃん! 今日も稽古つけてくれよ!」


「ああ、おはようアレン。

稽古はいいが、その前に挨拶だな。」


「おはようアレン。」


「おう、おはよう父ちゃん、マリー姉ちゃん」


「ちょと、レオン。5歳児に剣を教えてるの?」


「ああ、俺も3歳の頃から習ってたな」


「父ちゃん手合わせしてくれよ!」


「ははは! アレンにはまだ早いが、

ま、いいだろう。」


木刀を構え向きあう私と息子。


「やれやれ、じゃあ私が合図するね。開始!」


やはりアレンはまだまだ基本ができていない。

というか基本を忘れて振り回しているだけだ。

軽くいなし続け、あまりに大きな隙を見せたので

アレンの木刀を弾き飛ばす。


「あ! 木刀が!」


「アレン基本がなってないぞ!」


その時、


「勇者さまーー!」


アリシアの声に気を取られてしまった。


ゴス。


「アチャー! これは…… きついわー。

レオン大丈夫?」


「…………」


しかし私は声を出せない。

木刀を飛ばされたアレンは渾身の頭突きを

そう! 私の金的にしてきたのだ。


「父ちゃん参ったか!」


「ア、アレン…… そ、それは ……反則だ!」


魔王達ですらしてこなかった攻撃。

世界共通の暗黙のルール。その攻撃はダメ!

ということを教えていなかった私のミス……だ。

うずくまって悶絶する私。


「ヒール! 勇者様大丈夫ですか?」


アリシアのヒールでなんとか生き返った。


「かーちゃん。父ちゃんに甘いよ」


「もう、アレン。その攻撃はやっちゃダメです

弟か妹が出来なくなりますよ」


「え! そうなの?それは困る!

ゴメンかあちゃん! もうやらないよ」


顔を赤くしながらアリシアがアレンに教育していた。

アレンよ謝る相手を間違ってるぞ?


「お姉ちゃんさ、結婚して子供も出来たんだし、

いい加減名前で呼ぼうよ」


「マリーちゃん。恥ずかしいです」


「マリー姉ちゃん。大丈夫!

二人きりの時は名前で呼んでるからさ」


「え?、アレン。いつの間に」


「へぇ、羨ましいこって」


などと和気藹々としている中、

なんとか会話できる様にまでなった。


「そ、それで、アリシアどうした?急いでいたようだが」


「あ、そうです。勇者様、大変です!」


「村長様のところの…」


「息子が森に入ったまま帰ってこない!か?」


そんな事も昔あったな。懐かしい。


「いえ、猫ちゃんが行方不明です!」


「そ、そうか……それでまさか?」


「ええ、勇者様にまかせて下さいと言ってきました。

私も手伝います!一緒に探しましょう!」


「父ちゃん、かーちゃん、いってら」


「私もう少し寝る。じゃお二人さん頑張って!」


アリシアはヤル気を滾らせている。

変わらないな。アリシアは。

本当にいつまで経っても可愛い私の奥さんだ。


やれやれ、こうなったら猫でも犬でもとことん探してやるさ。


私とアリシアは歩きだす。

二人きりになり不意にアリシアは


「レオン様大好き♡」


と言って私の頬にキスをしてきた。

アリシア、それも反則だ!


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勇者パーティーと大魔王との

戦いは3日に及んだという。

大魔王の攻撃は凄まじかったが

やがて勇者の剣が大魔王の胸を貫く。

勇者がトドメを差した時、大魔王の呪いによって

勇者も命を落とす筈だった。

しかし、それを救ったのは聖女だ。

大魔王の呪いとは今まで殺してきた

モンスターの恨みの総量に応じて

威力が高まる即死の呪いだった。

しかし聖女がモンスターの魂の穢れさえも払い

成仏させてきたお陰で勇者に呪いが発動しなかった。

大魔王は驚きつつも微笑んで逝ったと言う。


『俺もやっと成仏できそうだ』


賢者マリーンの日記によれば

それが大魔王の最後の言葉とされる。

以後世界に魔王は誕生していない。


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「母さん、大魔王を倒した勇者様ってどんな人かな?」


本を読み終わった少年は母親に尋ねる。


「そうね。きっと勇気があって

とっても強い人だったのではない?」


「僕も将来勇者様みたいに最強になりたい!」


少年の目は輝いていた。



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Winner:聖女


決まり手:トドメのキス


勇者は何時だって聖女の前ではタジタジ

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勇者撃沈 丁太郎。 @tyohtaroh

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