家賃5000円『浪風館』
雨宮r
第1話 浪風館の朝
家賃が5000円。破格の値段だ。普通はこの値段で京都に暮らすことはできない。
アパートは二階建てで一階には共有スペースのほかに3部屋、二階にも3部屋あり、僕の部屋は一階の階段のすぐ横にある。二階の一番奥の部屋だけが空き部屋で他は入居者で埋まっている。共有スペースにはシンクやコンロ、電子レンジに冷蔵庫など自炊に必要なものがそろっているほか、テレビや6人掛けのテーブル、ソファなどのダイニングスペースとも言える設備が整っている。
このアパートには大学生だけが暮らしているわけではない。というか、大学生はボクしかいない。他の人たちも職種が同じ人はいないみたいで生活のリズムはバラバラだ。
今は朝の7時ぐらいだから、小学生5年生の
「
ちょうど時間が被ったから、お味噌汁を分けてあげている。と言っても材料費はきっちりともらっているけど。一人分を作るよりも複数人分作って、材料費を分けたほうが安くつくのだ。
「それはよかった。最近学校の調子はどうだい?」
「うーん。ぼちぼち。まあ楽しくやってるから大丈夫だよ。」
最近の小学生は悟ってるな。
「大地さんは大学どうなの?大学の雰囲気が思ってたのと違うって言ってたけど。」
「…今は模索中。大学は4年もあるんだし、見つかるかなって思ってる。」
「…………4年間って結構短いって聞くけど?」
……最近の小学生は本当に悟ってる。
「そうだぞ。学生時代なんて一瞬だ。ゆっくり考えようにも時間は待っちゃくれない。」
「おはよう。明日葉さん。どうしたの?こんな朝早くに起きてきて」
彼はこの浪風館を自宅兼事務所として探偵業を営んでいる
「いやね、今日の8時から来客の予定でな。たぶん依頼だと思うんだが。」
「依頼客?それはまた珍しいっすね。物好きがいたもんだ。」
「物好きとは失礼だな、全く。実力はあるんだがな。お前らもどうだ?俺に依頼してみないか?あ、もちろん金はとるがな。」
ちょっとケチ臭いところと自信過剰な面があるけれど気のいいお兄さんみたいな存在だ。
「おい
…どうしてわかったんだろう?
「お前は顔に出すぎなんだよ。」
「小学生から金をとろうなんてどうかしてると思うよ。力斗さんに依頼をする人なんてそうそういないと思うけど。」
響也君も言うなぁ。まあボクも力斗さんが仕事をしているところは見たことがないし依頼が来たなんて疑わしいのもよくわかるというか。ね?
「実際に来てるんだよ。」
「まあまあ。力斗さん、どうする。朝ごはんならまだ残ってるけど。」
「お?じゃあ、お願いしてもいいか?一の料理は落ち着くからな。客が来なくても早起きしてもいいんじゃないか、と時々思う。」
そんなことを言っていても力斗さんが早く起きてくることは基本的にはない。そもそもお客さんが来ないのだから以前朝ご飯をふるまったのは力斗さんが彼女さんにフラれたときだ。あの時はダイニングスペースの一角をずっと占領していたせいで、決して邪魔な位置ではなかったがずっと辛気臭い空気を放っていた。
「おいおい。一、いつの話を思い出しているんだよ。お前は顔にはっきりと出るんだから自重しろ。」
「え、マジ?そんなことないよね、響也君。」
「う~ん。まあ結構出てるね。」
「まじか~。」
自分ではポーカーフェイスなほうだと思ってた。自信あったんだけどな。じゃんけんで勝てたことないけど……。
「あ~ジャンケンはダメだ。はっきり書いてあるもんな。次グー出すぜ~って。」
「え!!?どうしてジャンケンってわかったんだ?そこまで顔に出てた?」
「いんや。これは口に出してた。」
もうだめだ。顔を隠して生きるしか…。ターバン買ってくるか。
「そんな寂しいこと言うなよな。俺は好きだぜ♡お前の表情」
おえっ。ウインクされたよ。気持ち悪い。
「あり?ダメか。自信あったんだがなぁ」
「なににだよ」
…駄目だ。朝の時間は貴重だ。こんなダメ人間に付き合っているわけにはいかない。落ち着いて味噌汁をすする。うん、いい出来だ。だしはストックして置いた合わせだしを使ってキャベツとわかめ、豆腐を具にいれている。火が通るのに時間のかからない具材にすることで、朝でも手軽に味噌汁を飲むことができる。
「そろそろ出るね。」
「おっ、もうそんな時間か。俺も事務所の準備しねぇとな。」
こうして浪風館の朝が過ぎていく。時々一緒になることもあるが、大抵はバラバラだ。この浪風館にはあと二組ほど入居者がいるが、まあその紹介はおいおいしていこう。
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