朝顔の観察
@nosta
朝顔の観察
7がつ20にち 青いはながみっつさきました
7がつ21にち はなが赤くなりました
7がつ22にち 青と赤とむらさきにかわった
遺伝子組換え朝顔の観察は、小学生1年生の夏休みの宿題の定番だ。子どもたちには育った朝顔と観察帳、そして薬液の入ったカートリッジが配られる。それを土に差し込むと、朝顔は毎日違う色を見せてくれるのだ。細かい原理は覚えていないが、ピーエイチだかなんだか、とにかく高校で習う程度の簡単な仕組みだったと思う。子どもたちは観察日記に毎日の色の変化を書き、担任教師の私はカートリッジ付属の表で色の変化の答え合わせをすればいい。中高生向けの課題やテストであれば、それらをスキャナーに放り投げて、自動採点ソフトにかければものの5分で終わる作業だ、だが、そういった文明の利器は小学1年生の書き文字を認識できるほどには進歩していない。今、答え合わせしている観察日記には時折、左右反対のひらがなの「お」が顔を出す。だから、こうやって人の目でひとつずつチェックするしかない。
8がつ12にち はながひとつしぼんだからいろみずにしました
花がしぼむ時期も予め決まっている。……答え合わせといっても点数をつけるわけではない、観察と記録を通じて、与えられた課題に真面目に取り組む練習をさせるためのものだ。私のように家に持ち帰ってまですべてをチェックしようとする同僚は少ないが、子どもたちが真剣に取り組んでくれたものをないがしろにする気にはなれない。それに、その「子どもたち」の中には私の息子も含まれているのだ。
8がつ23にち きいろとみどりのはながさきました
今年の1年生は皆個性的だ、顔つきも違うし得意な科目もバラバラ、運動神経にも差があって体育の授業はひどく苦労した。ハンデを抱えている子も少なくない、私の息子はひどいアトピーを発症している。
8がつ31にち さいごのはなもしぼみました
6年前から、農作物も、家畜も、そして人間さえもがAIによって定められた方針に従って遺伝子組換えされている。低コストで発現系を制御する技術が実用化された折に、人間による好き勝手なデザインが横行し多様性の消失が危ぶまれたからだ。観察用の朝顔のように、人間によってデザインされた生物は、子孫を残すことができないと定められている。
だから、裕太は私の、実の息子ではない。
朝顔の観察 @nosta
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。朝顔の観察の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます