第21話 部活×過去

テストも無事終わり、俺は改めて部活に復帰をした。

花梨はというと高校数学の中でも基礎中の基礎、三角関数のテストで無事赤点回避できたようだ。余弦定理の公式とか出してくれた先生に感謝しろよ……。

かくいう俺は、放課後部活とはいっても大した活動は行っていない。なぜなら全員転校生とはいえ、知り合いだからわざわざ部活として行動を起こすほどではないのだ。

イリーナに呼ばれたため俺はある場所へと向かっていた。


「ファイトー!オー!」


運動系の部活の掛け声とともにアスファルトを踏む音、基礎体力の練習なのだろうがいまいち掛け声を出す意味は俺には今でもよくわからない。

しかし、運動系の走る声に合わせてある人物を見かけたので声をかける。


「翔梧!平山がブチ切れてたぞ!定期テスト開始3秒でペン置いて寝てたことに!」

「え!まじかよ……わからねえものは分からないし仕方ないだろ。」

「なぁにが仕方ねえだ阿保!さっさと勉強して再試受けてこい!」

「気が向いたらな!」


馬鹿だろ。

平山とは俺たちの古典担当の教師の名だ。

今回の漢文のあまりのできの悪さを嘆いた平山先生は、補修では無く、もう一度再試をとり行うということにした。ここで赤点を回避できれば補修を受講できずに済む。

しかしこの男、翔梧は受けないという確固たる意志を持っている。全くもって格好良くないけどな。


「うへぇ、西日が妙に眩しい……。」


季節は梅雨、連日雨の中珍しく今日は晴れた日であった。

特別棟の階段を昇りながらどうにか昔のことを聞きだせないかと考える。

まず、5人一斉に集まるのはまずい、俺のバラバラな記憶が漏洩しかねない。

ならば一人ずつだ、イリーナならば部活でも二人っきりになることが出来る。それに昔の事だ、少しくらい間違っていても記憶違いで済ませる。


「うーっす。」


ドアを開け、中の様子を見た時だ。

机がいくつか煩雑に並べられた椅子に座っているのは可憐で、白い、アザレアの花の姿。

俺には芸術という物が全くと言っていいほど理解できない、しかし俺にもわかる。この感情そのものが芸術なのだろう、と。


「ソウタ!今日はいい知らせがあります!」

「あ、あぁ……部員でも増えたのか?」

「いえ、そうではないのですが……転校生が来るそうですよ!部活の活動が出来ますね!」


ん?それはおかしい……この学校に転校するタイミングが明らかにおかしかったのは俺の幼馴染だけだ。花梨や有栖、柊にイリーナは口裏を合わせて転校をしてきたのだ。

この学校に俺の知り合い以外で転校をしてくる場合、春先に来なければ何よりもおかしいのだ。


「ちなみにその子って、どんな子だかっていうのは分かるのか?」

「うーん……顧問の先生に聞いたのですが……」


口ごもるほど、か……vipのご令嬢でも来るのか?こんな公立の高校に?


「まぁいいや、それよりも少し昔の話を覚えているか?」

「えぇ!当然ですよ!私は颯太に会った時のことをよく覚えています!」


そうか覚えてるか……なら問題はここからだな。

どうやってイリーナに自然と聞き出すか、ここはかなり重要になってくる。

少しずつ……少しずつ……はぐらかしながら…。


「俺とイリーナって確か小学校の時に出会ったよな?」

「はい!」

「確か……外で遊んだ時……」


イリーナの目つきが唐突に光を失っていく。

やべ、ハイライトが消えてる。


「学校の……」


徐々に目に光が戻り始める。

あっぶね、これ以上ミスるのはやばいかも……。


「体育館……。」


あぁ!ヤバイ!目の色がどす黒い感じになってる。

ソウルジェム並みにやばいよこれ!


「教室……そう教室!」


元のイリーナの目へと戻る。

深呼吸を取りつつ、頭の中の情報をかき集める。

昔、教室で初めて会った奴全員思い出せ思い出せ……!


「ソウタが私に声をかけてくれたんですよ。髪の色で怖がられてた私を。」


そうだ、一人の女の子だ。教室の片隅でいつも本を読むか寝ている休み時間。

俺は何気なく寝ている子を起こしに行ったんだ、なんでだろうか?そんなことをしようと思ったのは。



私の周りには友達はいなかった。

いつも授業を聞き、先生の言うことを聞く毎日。楽しくもないが学校にそんなことを求めるのが間違いだったのだろう。

いつも通りの毎日の中、一人の男子がその世界を壊しに来た。


『お前、いつも寝てるよな!なんで寝てるんだ?』


私は自分に話しかけてくる人などいるとは思わなかったので虚を突かれたかのような反応をする。


『そ……それは学校がつまらないから……。』

『じゃあ面白ければ寝ないんだな?』

『そう……だけど……。』

『じゃあ今から学校サボって秘密基地紹介してやるよ!』


は?彼は何を言っているんだろうか。

学校をサボる?そんなことは考えたこともなかった。

学校というのは学びの場でありサボるなど言語道断、罪にすら値するほどだ。


『ここでつまらなくて寝てるくらいなら外出て面白い新しい学びを見つける方がいいだろ。』


私の世界は白、この髪のよう色のない毎日を送っていた。

しかし、彼はあろうことか私の白い世界を汚く、雑で、馬鹿馬鹿しく、そして『面白く』色を付け始めた。

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