乳ガンの話
笑いの要素が無いタイトル通りの話ですので、スルー可です。読んで差し支えない方だけどうぞ。
最近は仕事も残業続きで疲弊していたが、それに加えて胃痛の種があった。
経過観察中の胸の腫瘍について、気になる点があるということで精密検査を受けたのだ。
お医者さんからは「悪いものではないと確認するため」と説明されたが、つまりそれは悪性(癌)になっていないかを診るためのものだった。
私が20代後半の時。突然、左胸から出血した。
訳が分からないまま婦人科を受診すると、血液検査の結果ホルモン値に異常があり、乳汁分泌があるので薬を出すと説明された。
「乳ガンの可能性があるのではないですか」と質問すると、明らかに動揺した医者から「素人は黙ってろ」と怒鳴られた。知人の看護師に相談したところ、受診すべきは乳腺外来だと分かり、知人に教えてもらった病院を受診した。
精密検査の結果は良性腫瘍で、毎年経過観察の健診を続けることになった。症状があったりなかったりしながら、10年近くが経過した。
あの時、乳腺外来にたどり着き良性だと分かるまでの約1ヶ月間。
漠然と、おばあちゃんになるまで生きるのだろうと信じていた私の人生観は壊れた。
本当は、私たちは明日をも知れぬ身なのだと、心底分かった。
自分にとって一番大切なのは何かを考えた。
検査結果が出た後、私は退職して遠距離恋愛だった恋人の元へ行こうと決めた。そして紆余曲折を経て、彼と結ばれた。
あれは、私の人生の転機だった。
今回も、いろいろ考えた。
どうして……とも思ったけれど、10年前に消えていたかもしれない命だ。本当は、次の瞬間何が起こるかわからないこの世界。天災も人災も、起こるその瞬間まで誰も予想なんかしていない。幾千もの可能性をすり抜けて、たどり着いた「今」。そのありがたさを感じた。
同時に、それなら、もっと大事に生きたかったなと思った。
腫瘍はホルモンバランスの乱れも影響しているのだろう。ストレス、と言われたら心当たりがありすぎる。10年前だって、多忙な部署で残業と休日出勤を繰り返していた頃だった。
私は視野狭窄なもので、仕事でも余裕は無いし、帰宅後も気持ちを引きずって、こどもの話も上の空のことがある。
悩みに囚われて、頭はパンパン、肩はガチガチ、眠ろうとしても眠れない、という夜もある。
目一杯自分を追い込んで、栄養ドリンクとブラックコーヒーで疲労をごまかし、自分を責めたり他人を怒ったり、気持ちに振り回され続ける。
そんな生き方はもう嫌だなぁ、とつくづく思った。
穏やかに、緩やかに。
囚われず、固まらず。
流れる水のように、生きていけたら。
それはもっと、自分にも周りにも、優しい生き方なんじゃないだろうか。
今を一緒に生きている奇跡を思ったら、いろんなことが許せないだろうか。
ちっぽけで弱い自分を、奮い立たせるよりも。
深呼吸して、肩の力を抜いて。凝り固まらずに、周りを見渡して。直進じゃなくて、迂回もアリで。ミスしたって、お互い様で。
これじゃダメだって自分を責めるよりも。
ちっぽけで弱くても、ここまで歩いてきた、自分を信じて。
検査結果は、良性だった。
帰り道、柔らかな夕陽の中を歩きながら、今の気持ちを忘れたくないと思った。
今を精一杯生きるんだよって、教えてくれた人はたくさんいるのに。
何度も何度も、刻み付けたいって願うのに、忙しない日々に紛れて見失っていくけれど。
当たり前の明日、ではなくて。
ありふれた今日、ではなくて。
目の前の今、今、今。
帰宅した私を出迎えるこどもの笑顔とか。
一緒に食べる美味しいご飯とか。
うつむき加減に微笑む、連れの横顔とか。
そんな今を、きちんと見つめて生きたい。
ここまで読んで下さった貴女。
貴女がもし40代以上で、今まで子宮頸がん健診や乳ガン健診を受けたことがなかったら、受診を考えてみて下さい。
婦人科系の健診って、気が重いし怖い感じがしたりするけど……大切な貴女を守るために。
20代、30代の方も、自己触診にトライしてみることをオススメします。月経終了後がタイミング的にいいらしいです。
乳ガンの5年生存率は90%越えだそうです。早期発見、大事。
20代、30代で胸に腫瘍ができるのは稀みたいなので、私はリスクが高いのでしょう。あるかなしかのささやかな私の胸ですが、いろんなものを引き受けてくれてるんだろうなと思います。
大事にしていきたいです。
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