第444話 2020/12/31 言葉とか

 本日は4時起き。大晦日。一年の締め。シェイクスピアではないが、「終わり良ければすべてよし」である。今日は一日家に完全に引きこもっていよう。そして完全万全の究極体(何が?)の状態で来年を迎えるのだ! うおーっ! ……眠たい。


 毎日毎日飽きもせずキーボードを叩いて、何百何千という言葉を連ねているというのに、何でこう言葉というのは簡単にならない物なのだろうな。使えば使うほど難しくなって行く。

 ずっと以前、アニメ『ビッグオー』で「アーキタイプ」という言葉を知った。日本語で言えば「元型」という意味だ。漢字は文字でだいたいの意味がわかる。そんなに難しい言葉という印象はない。だが実はこれかなり難しい言葉である。元々は心理学用語だからな。集団的無意識の具体化というのが一番平易な解説ではないか。民族神話や地域の伝説などを解釈するのに使われる言葉である。

 ただこの元型、日本語では音を同じくする「原型」(英語で言えばプロトタイプ)と意味が混同され、何か創造物の源流に当たるモノをアーキタイプと呼ぶような使い方もされている。ビッグオーでのアーキタイプはこちらだったのではないか。

 アーキタイプで思い出したが、「アーキテクチャ」ってカッコイイ言葉だと思うのだ。思うのだが、これがまた難しい。元々建築の世界で使われていた言葉で、建築物そのもの、建築様式、建築学、そして建築物の構造といった意味がある。ここから、コンピューターの設計思想やソフトウェアの構築スタイルなどもアーキテクチャと呼ぶ。

 と、言われれば何となく理解はできる。だいたいの感じはフィーリングとしてつかめる。だが、これを自分の文章の中に生きた言葉として放り込めるかとなると、なかなかそうは行かないのだ。だいたいどんな場面で出て来る言葉なのだ。どんな職業の人が使う言葉なのだ。それが全然わからない。

 建築関係といったって、いろんな職業の人が関わっているからな。たとえば頭にハチマキを巻いた大工さんに、カンナをトンカチでコンコン叩きながら「この家のアーキテクチャは」とかしゃべらせたとする。言葉の意味的には間違っていないし、状況的にも特におかしくはない。問題があるかどうかでいえば問題はない。ただ説得力が皆無というだけである。読んだ者がみな「そんなヤツはいねえよ」とツッコんでしまうという致命的欠陥以外には特に悪い部分はないのだが、やはりこれは正解ではないのだろう。

 しかしこの手の問題は、こういった特殊な専門用語・業界用語の類いに限った話ではない。もっと簡単で平易な日常的に使う言葉でも、状況が理解できないとサッパリ意味が伝わらない事はある。

 昨日30日、静岡県の島田市でヘリコプターが山林に墜落し、搭乗していた1人が死亡した。この事故の警察への第一報は近隣住民の110番通報だったのだが、その住民は警察にこう話したらしい。

「ヘリコプターの落ちた音がした」

 これが報じられると一部ネットでは盛り上がった。「何でヘリコプターの落ちる音を知ってるんだ」と。「戦争経験者か?」「ベトナム帰りか?」などなど。まあ確かに、文字面だけを追えばそういう解釈も可能だ。

 だが真顔でマジレスをするなら、この通報者は事故発生の前から外に出ていたのだ。そして頭の上をヘリコプターが飛んでいった。しかしその直後に大きな音がしたので、警察に通報した。つまり、

「ヘリコプターが飛んでいった後で大きな音がしたのだが、墜落した可能性はないだろうか」

 という意味で、

「ヘリコプターの落ちた音がした」

 と言葉にしただけの話である。別に実戦経験豊富な歴戦の勇者ではない。

 とは言え、文字書きとしてはなかなか示唆に富んだ事件である。小説の中でヘリコプターの落ちるシーンがあったとき、それを登場人物に通報させる場合、リアルに振るなら「ヘリコプターの落ちた音がした」と書くべきなのだろう、本来は。だがこれだと読者からの「ベトナム帰りか?」というツッコミが待っている。シリアスなシーンが笑えてしまっては元も子もない。

 しかしだからといって「ヘリコプターが飛んでいった後で大きな音がしたのだが、墜落した可能性はないだろうか」では長い。冗長だし説明的に過ぎる。なので間を取って適切な着地点を探さねばならない。その着地点は作品の内容や話の流れによって変わってくるのだろうが、まあ「ヘリコプターが落ちたかもしれません、大きな音がしました」くらいの文字数と情報量に抑えておくべきなのではないか。

 まったく言葉は難しい。考えれば考えるほど難しくなる。だから面白いというのもまた事実ではあるのだけれど。


 暫定政権と南部の独立派勢力『南部暫定評議会』とが手を組んで新内閣を発足させて、北部のイスラム教シーア派武装勢力『フーシ派』に立ち向かおうとしている中東イエメンの情勢は先般も紹介したが、30日、アデン空港に新内閣の閣僚が到着した直後、ミサイルと思われる何かが撃ち込まれて爆発し、26人が死亡、50人余りが負傷した模様。フーシ派の攻撃と思われる。

 現場には警備兵も多数いたし、当然空港周辺の安全も確認したはずだ。だがこういう事になる。つまりはおそらく、どこかに何らかの穴が開いているという事だ。それは我々が外から眺めて考えるほど簡単に埋まるものではないのだろう。テロリストには年末年始も関係ない。ご苦労様な事である。


 イスラム教徒のテロリストと聞くと、2016年バングラデシュのダッカで日本人が殺された人質立てこもり事件を思い出す人もいるかも知れない。そのバングラデシュで25日、映画監督が逮捕された。と言ってもテロ関連ではない。「警察を侮辱した」というのが理由らしい。

 簡単に書くと、この監督が映画の中で、警察が犯罪被害者に対して冷酷な対応を取る様を描いたのだ。これに警察が腹を立てた模様。まあ、表現の自由って何かねという話である。しかし失笑モノの情けなさだな。思春期の青少年並みの傷つきやすさか。

 ただ、下を見て安心するのも不毛だとは思うのだが、「日本の報道の自由は世界で何位だ」とかいうのを問題にする人たちは、こういう事件をどう考えるのだろう。日本なんて警察を映画でもテレビドラマでも悪者にしまくってるし、それどころか総理大臣だって馬鹿にしまくっている。でもそれで何人の映画監督が逮捕されたか。

 自分たちの「ジャーナリズム」が思い通りの形にならないからといって、日本は危機的状況にあると主張するのは、ある意味自分たちに与えられた力の有効利用とも言えるのだろうが、要するにエゴであろう。そういうのは仲間内だけでやってくれないかな、と思わなくもない。


 大晦日の更新はこんなところで。昨日は3000文字ほど書いて、今朝は1000文字書けている。何だ、年末調整なのか。とにかく、明日は新作の公開だ。何とか頑張ろう。

 さて、今年も1年こんな駄文を読んで頂いてありがとうございました。また来年もお時間のあるときにお付き合い願えれば幸いです。皆様良いお年を。

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