イデオロギーは悪なのか〈15〉
それぞれの「イデオロギー諸装置」は、それに促され導かれて互いに関連づけられて関係している人々の集団、言い換えると、「イデオロギー的な社会集団」を持っていると言える。
そのそれぞれの社会的で具体的で現実的な関係性は、それぞれの集団的な関係性として、それぞれに個別的でバラバラに存在していると見なすことができる。しかしながらそのそれぞれが社会集団として互いに競合し重複し、ときには対立するということもありうる。
社会機構としての国家の機能は、その領域の内部においては、そこに存在する人々あるいはその人々が形成している社会集団の互いの関係性を、互いに関連づけられたものとして体系化し統合し調整し統制するものであると言える。もっぱらそれを目的としているとさえ言えるし、むしろそれこそが「国家のイデオロギー」だとさえ言える。
もちろん個々のイデオロギー的社会集団も、その内部においてはそこに存在する人々の互いの関係性を体系化し統合し調整し統制する機能を持っている。
しかしながら当然その機能は、その領域の外側にいる人々には及ぼすことができない。異なる関係の体系において生きている人々の関係を、統合し調整し統制するには、その領域を超える領域において具体的で現実的な関係を構成する機能を持った「体系的な社会機構」が必要になる。むしろそれを目的とした社会的な関係の体系が必要になる。それを社会的な機能としてその機能の内部において現実的に可能なものとしているのは「国家」の他をおいてない。
一方で、個別のイデオロギー的社会諸集団は、国家の機能において統合され調整され統制されることで、国家と「イデオロギー的な関係を持つ」ことになる。ゆえにそれらの諸集団の諸活動は、国家との「イデオロギー的な関係を表象する行動」として、それらの諸集団の、互いにおいて関連づけられている活動として体系化され統合され調整され統制されている。
これにより、個々のイデオロギー的社会集団の持つイデオロギー装置は、「国家のイデオロギー装置」として体系化され統合され調整され統制されており、「国家のイデオロギー諸装置」として位置づけられるものとなる。
アルチュセールは「イデオロギーはイデオロギー装置の中に存在している」(※1)と言う。ところでこの言い方には少し補足が必要になるだろう。
「イデオロギー装置の中に存在する」のは、イデオロギー的関係を導きそれをとりもつ「機能」だと考えることができる。「装置」とはあくまでも、機能としてその役割を果たすものである。
たとえば、電話の中に会話が存在するわけではない。電話はあくまでも「会話するという関係性」を導き、その関係をとりもっている「装置」なのであり。逆に言うと、たとえ電話がなくなっても会話がなくなるということはない。その意味で、たとえイデオロギー装置がなくなってもイデオロギーがなくなることはないとも言えるわけである。
また、イデオロギー的関係が「別のイデオロギー装置の機能」において導かれとりもたれているとしても、それによってイデオロギー的関係の「本質」が、別なものになってしまうということはない。たとえ「電話という装置の代わり」にメールやLINEなどの「別の装置」を使用しても、「会話する=コミュニケーションするという関係性の本質」に変わるところはない。ただ「その様態が変わる」ということでしかない。
しかし、電話という装置による、会話をするという関係性の内部においては、別の装置によるその関係の「様態の変様」は、関係性の「本質の変質」と見なされてしまう向きもある。そこでは、「関係性それ自体がそれで変わってしまう」ように考えられてしまったりもする。
そこで「本来の関係性」などという「イデオロギー」が現れてくるのである。曰く「文字を飛ばし合うより声を交わし合う方が本来の人間らしい会話ではないか」などというようなことになってくる。いやもっと「本質的であろう」とすれば、「いや、本来の人間同士の会話は、実際に顔を突き合わせて直に会話することの中にあるのだ」というようにまた「別のイデオロギー」もそこに現れてくるだろう。「イデオロギーの対立」なるものは、まさにそのように現れてくる。
それぞれの関係の様態は、それぞれの関係性の内部においてはそれぞれ本質的である。しかし、別の様態はそうではない、そのようなものは本質的ではないというように、その「外側」においては見出されてくるのである。
ともあれ、「イデオロギーは、イデオロギー装置の中に存在している」ということ、あるいは「本質は、そのありようの中に存在する」などという言い方は、そのイデオロギーの内部においてのみ言いうるのである。
(つづく)
◎引用・参照
(※1)アルチュセール「イデオロギーと国家のイデオロギー装置」
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