私と壊れた家族たち
威剣朔也
①姉
「カンカンカンカン」
耳によく馴染んだ遮断機の音。
目を向けた先に広がるのは満開の桜を両脇に沿えた細い線路と、私のこの後を知っているかのように集まり出した黒々しい烏の群れ。
嗚呼いっそ、この黒たちが私を埋め尽くしてくれれば良いのに。
私は点々とある黒よりも、すべてを塗りつぶす黒が好きだから。
ごぅ、と大きく吠えた風に背を押された私は降りかけていた遮断機の下をくぐり、踏切の中へ足を踏み入れる。
満開の桜並木に両脇を挟まれたこの線路は急カーブを描いていることもあり見通しが悪く、その特性を利用する者が後を絶たない――いわば自殺、あるいは殺人の名所だ。つい先日も、このすぐ近くに在る駅で第三者に背を押され殺された人が居たらしく、地元の新聞に「殺人犯のせいで家庭が崩壊した」という被害者家族からの記事が書かれていたのが記憶に新しい。
「家庭が、崩壊……か」
たった一人、居なくなってしまっただけで崩壊してしまう家庭があるならば、もうすでに壊れようのないほど壊れてしまっている私の家庭はいったいどうなってしまうのだろうか?
壊れてしまっている私の家族たち。その中に私という個人が含まれなくなっただけで、心が軽くなるほど素晴らしいことだと分かるのに。私が居なくなったところで、彼らは何一つ変わらないのだということも分かっているからか、私の気は重いまま。
嗚呼、嫌だ。ああ、いやだ。
最期のこんな時ぐらい心穏やかに。幸せなまま、いきたいじゃない。
「カンカンカンカン」と鳴り響く遮断機の音に、がたごと、と姿は未だ見えないながらも迫りくる電車の音。その音たちに耳を傾けながら、私は時折吹く風に乗り踊る桜の花びらを目にし――それから一拍おいて、刹那の衝撃が私を襲った。
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