第210話 ビジョンパルスお姉ちゃんとのお話 その4


 奇跡の誕生、ね。

 神様の降臨でもおこったんだろうか。

 どのみち文字通りの字面どおりの意味ではないのだろうな。

 

 にしても、


「環境を近くして何したいんですか?」


「さぁ? お姉ちゃんわからないなー。ただ、明らかな実害がひとつあるよ。異空間のなかで暗黒魔術教団がお花の儀式をするごとに、地上では人間が蒼花に変えられてしまうということ。はじめはドラゴンクランの学生が犠牲になってたけど、その範囲はもうアーケストレス中に広がってる。学院側には騒ぎが大きくならないよう今は揉み消してもらってるけど、それも、もう限界かな」


 ちょっと聞き捨てならない言葉を言ったな、この可愛い竜。


「……揉み消すってなんですか。まさか、ドラゴンクランは蒼花の正体を知ってたんですか?」

「当初は悪魔が5体も待ち構えてるなんて想像だにしなかった。だから、早期に決着をつけようとしてたんだけどね……」

「知ってたんですね……」

「…………ごめんね、アーカムちゃんは許せないよね」

「……」


 泣き叫び恐怖に怯えながら植物化する女生徒の最後の姿を覚えている。


 最初の朝だって、衝撃的だった。


 ルフレーヴェ副校長も悪戯にすぎはいって言って、あの場を解散させたのに……いや、今にして思えば不自然だったのかもしれない。


 ルフレーヴェ副校長は、あの時にはもう知ってたんだろう。

 古代竜たちからその危機を知らされ、混乱を招かず、内密に処理するよう手を貸してたんだ。きっと偉大なるドラゴンたちが事件を早期解決すると信じて。


 当たり前だったのかもしれない。


 今のアーケストレスの混沌を見れば、ドラゴンクランの権威が揺れるという事が、どれほど危険なのか、いかほどの不満を爆発させるのか、国を傾けさせるのか、嫌でもわかるというものだ。


 学院も古代竜たちも見えていたんだ。先が。


 だが、一方で少し間違えれば友人があの忌々しい植物に侵されていたと考えずにはいられない。


 俺のは、えらく小さい、視点だ。


「僕はまだ、未熟です……大きな視点に理解を迎えることはできますけど……なんでだろう、小さい物を見る目を失う事がひどく恐いことに思えるんです」


「それでいいと思うな、ワタシは。アーカムちゃんには、いつまでもそういて欲しいって、お姉ちゃんは勝手な事考えてるしね。だって、その方が、人間らしいでしょ? 竜の強さは、竜であること。人の強さは、人であること。自分に与えられた配役に、どれだけ純粋になれるかが、本当の強さを手に入れる為の分かれ道なんだと思うな」


 ビジョンは机の上の砂で、あの蒼い花を描く。机を埋め尽くすほどたくさん、たくさんの花だ。


「いい、アーカムちゃん。もし『蒼花儀式』が神の墓の深部で行われたら、きっとアーケストレスは″蒼の花畑″に変わってしまう。そうすれば、この土地は降り注ぐ無数の巨人に蹂躙じゅうりんされて、魔術王国は終わりを迎えるでしょう。魔術の終わりは、人類の終わりよ。アーカムちゃんも所属してる、正義の秘密結社が築きあげた時間は、すべてが無意味に執着する」


「すべて、無意味……」


「だから、アーカムちゃん。世界を一足先に救ってくれないかな? お姉ちゃん達からのお願いよ」


 ビジョンパルスは小箱のなかからゲートヘヴェンを取り出して顔の近くにもってくると、彼の首を自身と一緒にぺこりと下げさせた。これは……可愛い。


「わふ」


 心なしか顔の引き締まっているシヴァと顔を見合わせる。


「″まったく、本当に仕方のないトカゲーズだよね。アーカム、ちょっと世界救っちゃう?″」


 腕を組み薄い胸をはる銀髪アーカムと、ニヤリと笑い合い、俺たちはビジョンパルスのお願いへ、首を縦にふった。


「ありがとうね、アーカムちゃん。うんうん、よしよし、本当にいい子だよ。食べちゃいたくなるな〜」

「″ねぇ、アーカム、少しは抵抗したらどうかな? 私と言う正ヒロインを置いてイチャイチャしすぎじゃない?″」

「わふわふ!」


 多方面から顰蹙ひんしゅくを買い、額にごつごつした巻き角の硬さを感じながら、俺は覚悟を決める。


 世界を救う。

 きっと強い主人公は逃げないはずだから。


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