第209話 ビジョンパルスお姉ちゃんとのお話 その3

 

「それじゃ、まず伝えるべき事が2つ」


 ビジョンパルスは、ポケットから砂のようなものを机の上に撒いて、指をふたつ立てた。


 リビングの大机中に、自分の意思を持ったように広がって行く砂たちが、何やら断層構造のような模様を形成していく。


 学校のような建物が描かれて、その下には複雑怪奇な迷宮が描かれる。


 ビジョンパルスは、砂で描かれた地図の上部を指差して話をはじめた。


「これがドラゴンクラン大魔術学院。そして、その下が宣教師や暗黒魔術教団、そして悪魔たちが徘徊してる″星騎士団修道院″の『よる』」

「……夜? 夜って、なんですか?」

 

 当たり前のように話を進めようとする彼女を止めて、すかさず質問する。


 ビジョンパルスは「あ、そっか。えーと、異空間のことよ!」とわかりやすく言い直してくれた。


「ずっと昔にね、この地で人を信仰のチカラでまとめようした者たちがいたんだけど……チェンジバースからどこまで聞いてのかな?」


「ほとんど何も聞いてないですよ。ただ、宗教つかって混乱の時代を乗り越えようとした騎士団がいて、それがこの土地に修道院を建てたって事くらいです」


「そうね、それであってるかな。それじゃ、説明をつづけるね」


 ビジョンパルスは旧校舎ーー星騎士団修道院のさらに下に、砂たちを誘導して絵を描き足していく。


「実はこの星騎士団修道院より、深い異空間があるの。地表の現実世界の修道院跡地が深度1としたら、異空間の修道院が深度2。そこから先は、深度3ということよ。深度3の世界こそ、お姉ちゃんたちが現代の魔術師たちーー特にそれを利用としようとしたり、利用できたり、ソレを使って何かを成そうとしたりする者に見せたくないモノが眠っている場所なの」


 机の上にの砂がバサッと崩れて、「ダメ、ゼッタイ!」と可愛らしくデフォルメされた文字で示される。


 深度3の世界か。

 確かに気になるが、他にも質問したい事があの修道院には沢山あるんだけどな。


 過去の投影した幻。

 徘徊する見えざる老人集団。

 そもそも、なんで修道院内はうっすら青白いのか。


 まぁ、後で聞けばいいか。


「それで、深度3の世界には何があるんですか?」

「何があるかは……うーん、言ってもわからないし、見ても理解はできないから秘密ね」

「ぇ、教えてくれるんじゃ……」

「眠ってる子自体は教えないよ。教えるのは、深度3の世界が″神さま″の場所だってこと。つまり、そこは禁忌の神秘が眠っている『神の墓』というわけね」


 神、か。

 たしか巨人たち、『夜空の眷属』はペンデュラムの話だと神造兵器とかいう話だったか。


 何か関係があるのは間違いない。


「神の墓ですか。それじゃ、古代竜は神様を守る使命を背負ってるんですか?」

「厳密には守ってるわけじゃないんだけど……可愛いからそれでいいよ、アーカムちゃん♪」


 しなやかな手先で頭を撫でられる。極楽。


「わふ」

「ぁ、シヴァ帰ってきた」


 また市場へ遊びに行っていたシヴァが、器用に前足で玄関をあけてリビングへ入ってくる。


 ビジョンパルスによしよしされ、ご満悦な様子のまま、俺の足元にごろんっと寝転がってくる。


 彼女もブリーフィングに参加するらしい。


 まあ、いいだろう。

 彼女にも無関係ではない。

 戦力が足りない今、シヴァの参戦も十分に考えていたし、どのみち俺の怪我を知った彼女がおとなしく家で待っていてくれるとも思えない。


 シヴァはお気楽で食べ物の事しか考えていないが、日々の飯の恩には忠実なのである。

 それが飼い主ならば、彼女は火の中水の中にだって、付いてきてくれるのだ。


「それじゃ、続けるね。現状、悪魔を筆頭にした暗黒魔術教団も、異端排除にきた宣教師も、この深度3『神の墓』には到達してないの。なぜなら、深度2から深度3の世界へ移動するのは難しいから。あの無限につづく星騎士団修道院はね、『神の墓』の周囲を包み込んでいる″雲″のようなモノなの。その切れ目は確かに存在するけど、根本的には別の『夜』なんだよね」


「でも、雲の切れ目は存在するんですよね?」


「そっ。だから、時間はかかれど、暗黒魔術教団は神の墓に到達する。残念だけど、トニー教会が今回用意した戦力は多くないから、宣教師が食い止めてくれるのは期待できない。それに、彼らにもこれ以上、『神の墓』に近づいてもらうわけにはいかないから、やっぱりまるっと全滅させないといけない」


 ビジョンは紅瞳をメラメラと燃やし、砂文字で「ゼッタイ、コロス!」とデフォルメされてない文字を描いた。恐い。


「アーカムちゃんは、狩人協会を深度2に配置して、そこで悪魔たちを倒して、宣教師も倒して、暗黒魔術教団も倒して、すべてを守ってほしいな♪」

「……簡単に『いいですよ』なんて返事できない難度なんですけど……まぁ、とりあえず状況はわかりました。ひとつ質問なんですけど」


 俺はどうして、暗黒魔術教団が神の墓を目指しているのか、ビジョンパルスに聞いてみた。


「今、地上で空から巨人が降ってきているでしょ? あれを行う儀式があるんだけど……それをもっと大規模で行いたいわけなのよ、あいつらわね」


「そういえば、チェンジバースさんもそんな事言ってました。『蒼花儀式そうかぎしき』ですよね。……ん、いや、でも、確か嘘をつくとかなんとか……暗黒魔術教団は空から巨人を降らせるために『蒼花儀式』をやってるわけじゃないですよね?」


「……そうね、どちらかって言うと、たぶん巨人が降ってきても、降ってこなくても彼らにはどうでもいいんだと思う。大事なのはアーケストレスの土地を、遥な太古に起こった″奇跡の誕生″の時と同じ環境状態に近づけることだからね」


 むむ、またおかしな単語が出てきたな。

 奇跡の誕生……蒼花を咲かせるとソレが起こった時と、環境が近くなるってことなのか?


 ビジョンパルスお姉ちゃんのお話はつづく。


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