第207話 ビジョンパルスお姉ちゃんとのお話 その1


「うっ、はい、そうですね、今度こそ必ず悪魔を……倒して……って、いや、あの、いろいろ無茶な戦いじゃないですか……? どれだけ準備しても、あまりにも敵が強すぎるっていうか、俺なんかじゃ勝てる気がしないっていうか、そもそも、人間だし……」


 俺では倒せない。

 聖遺物もなければ、属性とやらも使えない俺では、戦う戦わないの選択肢すら与えられてない。


 ましてや、相手には″俺+ソロモン″を一瞬で殺せる肉体持ち悪魔アダンと、チェンジバースの体に憑いたチェンジバース本人より強力な道化の悪魔がいる。


 それに加えて、さらに3体の悪魔だ。

 あれらもまた、肉体持ちの可能性を秘めてる以上、敵の戦力は幾何級数きかきゅうすう的に増加する可能性がある。


 ん……この戦い、無理がありすぎないか?


「チェンジバースさんは、古代竜たち、つまり竜神会議のなかだけで、今回の騒動を片付けようとしてたんですよね……。悪魔が5体もいて、さらに他の勢力もあったのに……そもそもが無謀すぎたんじゃないですか?」


「アーカムちゃんの言いたい事はわかるし、間違いない。だけどね、お姉ちゃんたちにも理由がある事を理解してほしいな。本当は、アーカムちゃんにもあの異空間には足を踏み入れてほしくない。これは厳守しないといけない、古くからの約束なの。だけど、事態はもうそんな事を言っていられなくなっちゃったから、これは本当に緊急的な措置なの。……ゲートヘヴェンは、こうなるが見えてのかもね。アーカムちゃんに強制せず、望むなら手を貸してほしいって」


 ビジョンパルスは机のうえの箱のなか、スヤスヤ眠るゲートヘヴェンを見つめ、細い指先で彼のおでこを撫でる。


 俺はそれを眺めながら、まだ、俺やチューリが、ただの探検ごっこの延長で、旧校舎についてゲートヘヴェンから話を聞いた頃を回想する。


 あの時、俺たちと彼には、まったく別のものが見えていた。


 なんで、ゲートヘヴェンは助けを求めてくれなかったんだ。自分たちが果てしない巨悪と対峙する運命が見えていたのに、どうして逃げなかったんだ。


 俺だったら……勝てない戦いなんか、詰んでる戦いなんかに挑む勇気なんてない。


 意味がないじゃないか。


 なんで、だよ……。


「んっん。……あーあ、未来を視るのがウリなのに、なんだかすっごく負けた気分だなー。ねー、ゲートヘヴェン」


 机に突っ伏し、ビジョンパルスは優しい眼差しで、箱のなかの幼い竜を指でいじくる。

 ゲートヘヴェンは開かない目で、指を探して、ちいさな前脚で彼女の指先に抱きついている。


 赤ちゃんの把握反射はあくはんしゃというやつだろうか。愛らしいが、俺にはとても素直に微笑むことなんてできなかった。


「ふふ、大きくてもワタシにとっては子どもみたいなモノだったけど、これだけ小さくなっちゃうと、食べちゃいたくなるくらい可愛いわね」

「っ、食べちゃだめですよ……?」


 ちょっと声のトーンが本気っぽいことに怖気ける。

 腕があったら、たぶんこっちに引き寄せてかばってる。


「冗談よ。それじゃ、そろそろワタシもお腹くくろっかな」

「? どういうことですか?」

「……正式に、竜神会議の外に救援を求めるってこと」

「っ、それは、いいですね! こっちも戦力を増やせばいいんですよ、頑なにならず! それじゃ、はやく魔術王や、レティス校長に助けをーー」

「彼らはダメ。絶対に入れられない」


 喜色一転、「どうしてですか?」と俺は低いトーンで問いかける。


「これだけ厳重に異空間の封鎖を強行しておいて、いまさらどのツラを下げて、学院に助けを求めていいのやら。それこそ、今回の危機を乗り切っても、竜神会議の尊厳は失われてしまう」


 尊厳、尊厳がそんな大事か?


 負けておいて、ゲートヘヴェンがこんな姿になってるのに、まだプライドを張るのか?


「ビジョンパルスさん、お言葉ですけど、あなたがやらないと、もうどうにもならないんじゃないですか? 古代竜は2柱が失われて、残ってるのはビジョンパルスさんと、もうひとりだけ。それとも他の古代竜たちが帰ってくる目処が立ってるんですか?」

「うーん、たぶんこれ以上は帰ってこないかな。あとの竜たちも、世界を救うのに忙しいだろうし」


「……何というか、薄情なんですね。以外と」


 つい口が滑る。

 

「ふふ、そうでもないの。みんなわかってるんだと思う。″今この時点じゃ世界は滅びない″。だって、ワタシのビジョンは、もっと大きな地獄をうつし、それによって世界が破壊尽くされることを予言したんだから。あ、ちなみに、あの異空間には、十二分に世界を破壊し尽くすだけのモノが秘められてるのよ。予言の存在は、ある意味でソレが完全に覚醒しないことを示唆してるわけ。だから、豪胆な竜たちは、みんな放置してるってこと」


「……うーん、でも、現状まずい、ですよね?」

「まずいよ、すごく」

「だったら! もうプライドなんて気にしてる場合じゃーー」

「プライドが一番大事なこともある。アーカムちゃんも、いつかわかるんじゃないかな。ワタシには、、遠い未来が薄っすらと見えるよ」


 ビジョンパルスはそう言って、紅瞳を歪ませていたらずらっぽく微笑んだ。

 

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