第205話 託した者
クラーク邸の庭に現れた不思議な少女、もといビジョンパルスお姉さんは一瞬でシヴァを手なづけて、コートニーとチューリ、シェリーを屋敷のなかへと運ばせた。
相変わらずすぐ人を信用する、我が愛犬に複雑な感情をいだくが、俺はビジョンに屋敷のリビングまで抱っこしてもらったのでよしとする。
両腕の再生には、治癒ポーションを定期的に服用しても、丸一日は掛かると告げると、ビジョンパルスは「よく頑張ったね。えらいえらい♪」と、俺の頭をなでていろいろお世話をしてくれた。
「″ねぇ、アーカム、こんな非常事態なのに、謎の不審者に心許していいの?″」
「それはそれ。これはこれ。彼女は古代竜に違いないんだから、信用して然るべきだ」
「″やたら頭撫でてくるのを拒否しないのは?″」
「……それはそれ。害はないし、追い詰められた俺のメンタルの回復に役立ってる」
「″ふーん。じゃあ、私も撫でてあげるね″」
痛いです、アーカムさん。
髪の毛を硬い掌底で、ごしごし擦らないで。
「どうかな、そろそろ喋れそう、アーカムちゃん?」
「ぅ、はい、たぶん、平気、です」
すこし時間が経ち、治癒ポーションの回復力と、血式魔術を集中させたおかげで、俺は壊れた声帯を取りもどしつつあった。
ビジョンパルスは、満足そうにうなづき、となりの椅子に腰を下ろしてくる。
「アーカムちゃん、まず初めに伝えておかないといけないのだけど……」
「はい、ビジョンパルス卿」
「パルスお姉ちゃんと呼びなさい」
「……ビジョンパルス、さん」
「パルスお姉ちゃん、ね」
やけに呼び方にこだわるな。
別に嫌じゃないけど……気が抜ける。
「わかりました、それじゃ、パルス姉さんで妥協します」
「ダメですよ、ちゃんとパルスお姉ちゃんと呼びなさい!」
頬を膨らませ、可愛く怒る古代竜。
なるほど、引かんか。
「んっん、それで、初めに伝えることとは?」
「もう、そらされた……ともかく、それが大事ね。まず、アーカムちゃん、間違ってもあの異空間で起こったことが、悪い夢だなんて思わないてほしいってこと。あれはすべてが現実」
「そうですか、夢ならば、どれほどよかったか」
悪魔の集団の出現。
手も足も出ずに、殺されかけた事実。
数刻前の恐怖を思いだす。
精神世界ではソロモンは目覚めず、眠りについたまま。もとから心臓など動いてなく、呼吸もしてなかったので、現在生きているのかすら、判断つかない。
もしかしたら、あのアダンに喉を突き刺された段階で、死んでしまったのかもしれない。
その場合、俺の損失は大きい。
まず最後の切り札である≪Arkham Ⅰ≫が使えなくなる。
ひとつ、破壊エネルギーの崩壊力と死滅範囲が増すのを抑え、エネルギーのロスを″無双状態″の延長にまわすこと。
ふたつ、理性を失いにくくし、銀髪アーカムの精神世界から脱出によって、計画的運用を可能にすること。
この2つができなくなる以上、それはもう≪Arkham Ⅰ≫ではなく、以前の″獣化″≪
純粋魔力放出による、周囲への副次的被害。
そして、理性を失い破壊衝動に特化した俺の手による直接的被害。
空気中を
今のところ奇跡的に被害はないが、もし人間が目についたら、何するかわかったもんじゃない。
≪Arkham Ⅰ≫でも使うタイミングが限られるのに、無差別破壊なんて冗談ではない。
自分が自分でなくなる、堕ちる感覚。
アレは、出来ればもう味わいたくないものなのだ。
それに、人狼の王に誓った。
もう二度と獣にならないと。
≪Arkham Ⅰ≫は、そのための理性のチカラだったのに……。
「クソ……やっぱり、あの場で……いや、でもコートニーもチェンジバースも……なにより、力だけじゃ、どうにもならないのが悪魔か……」
「アーカムちゃん、過ぎたことを悔やんでも仕方がないよ。それより、次のために頭を悩ませるの。託してくれた者のためにもーー」
「託して、くれた、者?」
「そう、彼が、あなたを救ったの」
ビジョンパルスはローブの中から、布につつまれた箱を取りだした。
箱を開けると、そこにはちいさな″黒いトカゲ″が入っていた。
可愛い顔でスヤスヤ眠っており、前脚で頭を抱えている。
「可愛いらしいですね。これは?」
彼女のペットかと思い、何気なく聞いてみる。
「
「…………ぇ?」
俺は我が耳を疑った。
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