第201話 1年間の集大成


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 豪華絢爛ごうかけんらんな貴族の催し。

 今では、忘れられたその城では、今夜、舞踏会が開かれていた。


 血統の者たちが一同に介して行われる、そのパーティは年に一度行われ、おおかたのスケジュールも遥かな昔から変更はされない。


 シャンデリアの明かりに包まれた大きなホールがある。


 その外側、紳士淑女が張り付いたような笑顔で、お互いを称えあう場を、ひとりの少女が駆け抜けていく。


 素早く、されどなにか企んでいるようには見えないように。


 ちょうど、今からお手洗いにいくんです、そう言わんばかりに少し話しかけづらい空気をまとい、少女はほくそ笑む。


 追っ手は巻いた。

 すべては計画通りだ、と。


 


 やがて、豪奢なドレスを着たその少女の姿は、絢爛なる会場から消えていた。



           ⌛︎⌛︎⌛︎



 埃かぶった真っ赤な絨毯のうえを、スキップして嬉しそうにするひとりの少女が歩いていく。


 ドレスを破り捨てて、その下に来ていた、黒ずくめの装束があらわになる。


 ここは、ある古びた城の城下にある廃墟。

 赤い瞳が、特徴的なこの旺盛な少女は、今日この日をもった城には戻らない気でいた。


 闇に紛れて、逃走するための服がその覚悟の表れだ。


「ふん、ふふーん♪ あとちょっと、あーと、ちょっとで、会・え・る♪」


 楽しげな歌が夜の廃墟地帯に響いていく。


 スキップする嬉しげな少女は視線をまっすぐに。

 黒の執事服を着こなした老齢の男も、まっすぐ前を見すえて、ピタリと横につき、一糸乱れぬ足取りで少女の2歩後ろを歩く。


 鍛えぬかれた熟達の執事は、様式美とも言えるモノクルーー片目眼鏡ーーを見事に着用しており、綺麗に整えられた黒髪と相まって気品の高さを感じさせた。


 ふと、少女は違和感に立ちとまった。

 恐る恐る、自身のかたわらにたたずむ執事を見あげる。


「っ、ドルマン!? あがぁあー! だめー! ダメだってばー! ついて来ちゃダメー!」


 少女はあまりの驚愕に跳びあがる。

 焦りに焦った様子で、かたわらでずっと自身についてきていた執事へ、地団駄をふんで怒りはじめた。


 彼がついて来てることに、今気がついたらしい。


「お嬢様、それはできません」

「なんでよ! さっきは『かしこまりました、お嬢様』とか言って、付いてこない流れだったじゃない!」

「方便です。お嬢様も『お庭を散歩するだけ! おほほ!』だなんて、よくも嘘をつけたものですね。まさか城の隠し通路に気づいておられたとは。この廃墟地帯の先に庭などありませんでしょう」

「私も方便よ。ドルマンはああでも言わないと、どこへでも付いてくるんだから!」


 少女はぴょんぴょん飛び跳ねて、「こうなれば実力行使なんだから!」と勢いよく走りはじめる。


 尋常じゃない足の回転率。

 人では知ることすらできない、逸脱した者どもの速さだ……しかし、執事は苦なくその後を追いかける。


 やがて、少女は振り切るのを諦め、立ち止まった。


「なんで付いてくるのー!」

「お嬢様がお嬢様だからです」

「訳わかんないー!」


 逃げてきた暗い森の土のうえに寝っ転がり、少女ほ手足をバタバタさせてがむしゃらに暴れだす。


「すべては、お嬢様が勝手に城をでたことが原因です。お嬢様の捜索に、お父上は骨を折られました。ゆえに、このわたくしめはお嬢様のよこしまな計画を見破り、ここまでお嬢様をつけてきたのです」

「もうー! 全部、ぜーんぶ、台無しだぁ! やだやだ、もうやだよ! 


 少女は叫ぶ。


 毎年恒例の舞踏会という場をつかい、1年かけて城を抜けだす計画を実行したその理由を。

 かつて深い暗闇のなかで、絶望に暮れていた少女を、再び光のもとへ救いだしてくれた少年の名を。


 彼女の名前はリサラ・ストガル・ヴァンパイアロード。


 執事に抱えられ、連行される次世代の吸血姫だ。


「うぁあ、離してよぉ……ドルマン、私、アーカムさんに会わないといけないのにぃ……」


 執事の脇に抱えられながら、リサラは無駄とわかっている抵抗をみせる。


「このドルマン、お嬢様の″戒言かいげん″は効きません。む、そんな愛らしい顔で瞳を潤ませても効きません」

「うぅ、こうなったら『十戒じっかい』を動かして……」

「お嬢様には、まだその権限はございません。それに、今、彼らは″大事な責任″を果たしにいっています」


 リサラは執事の顔を見上げて「責任?」と、首をかしげる。


「お父さんは行かないの?」

「王が動くと方々ほうぼうから顰蹙ひんしゅくをかいます。お嬢様。王がそう簡単に腰あげるわけにはいかない、ということです。それゆえの彼らという存在なのですよ」

「そうなんだぁ……でも、私のことは迎えに来てくれたよ?」

「それほどの異常事態だったと、いうわけです。お父上はそれだけ、お嬢様の身を案じておられるのですよ。ご理解いただけますか、お嬢様」

「うーん、わかった! それじゃ、もう絶対城の外にでないから離してちょうだいな!」


 執事はニッコリ笑い、決してリサラを下ろすことなく、古びた城へと引き返していった。


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