第186話 使い魔は仲間にするのですよ!
杖先にひかりを灯して、青白くほのかに光る旧校舎をすすむ。
突き当たりの扉を開け、あの広い講義室へともどってきた。
ここは相変わらず、机と座席を取っはらって出来た謎空間があるばかりで、そのほかは別段目につくところはない。
件の謎空間について、コートニーに所感を聞いてみても「ふっ」と凛々しく黙すばかりで、特にこれといって何か気づく事はないという。
だとしたら、やはりゲートヘヴェンの言っていた有意な発見とやらは、講義室のことではなく、さらに奥にあると見ていい。
講義室から繋がる横手の部屋にはいる。
「ここです」
壁に手をついて、後ろの3人に心の準備をさとす。
皆、杖先の灯りを消して緊張を顔に表し始めた。
左手の白手袋をはめ直し、手に持つ刀を握りしめて、俺は仕掛けのほどこされた壁を押しあける。
壁の向こう側は前来たときと同じだ。
吊るされるシャンデリアには爛々と蝋燭の炎がともり、二階から、薄ら青くひかる大きな吹きぬけ廊下を照らしている。
以前感じた気配も、やや遠目に感じとることができた。さらに知覚を広げれば、この旧校舎全体に
シェリーの証言によれと、爺さんの姿をした使い魔が放し飼いされてるとのことなので、さながら、この旧校舎は老人ホームと変わらないということだ。
「どうですか、あそこらへんに爺さん高齢者見えますか?」
「ふむ、私には見えないな」
コートニーも見えない派か。
となると、やっぱりシェリーが特別ということだろうか。
「いますいます。やはり、あの使い魔たちは誰とも契約していないと見ました。それじゃ、ちょちょっとやって来ますから、皆さんはここで待っていて欲しいのです。もしかしたら多分、何もしてこないとは思いますが……念のため、なのですよ」
そう告げて、廊下の左右を確認して見てから、横断歩道を駈けぬける小学生のようにシェリーは駆けだした。
子を見守る親の心境で、気配の収束する地点へ走っていく小さい背中をみつめる。
隣の2人、チューリとコートニーは気配すら感じ取れてないので、シェリーがただ闇雲に走りだしたように見えてあるんだろうか。
シェリーは気配のもとに辿り着くと、立ち止まり、肩掛けカバンの中から分厚い羊皮紙を取りだした。
きっと昨日、見せてきた『
羊皮紙状のそれを新聞紙を丸めるように、くるくる、くるくると巻いていき、棒を作成している。
いったい何をするのか、いぶかしんで見ていると、シェリーは羊皮紙をまるめた棒をおおきく振りかぶり、気配の主人をおもいきりぶっ叩いた。
気抜けする「てーいっ!」という掛け声が、微妙に耳に聞こえてくる。
「……あの羊皮紙ってそういう風に使うんですね」
「何が起きてるか、わからんが、たぶん違うと思うぞ」
同じく遠くのシェリーを見守りながら、コートニーが確信の顔で答えてくれる。
「『
「そういうもんですか、解説のチューリさん」
「そういうものだとも、魔剣の英雄」
そういうもんなのかぁ。
しばらくして、丸めた羊皮紙を片手に待ったシェリーが帰ってきた。
笑顔がまぶしく、やりきった顔をしている。
「成功したのですよ! これで蒼花の恐怖はほとんど削減できたと言ってもいいと思うのです。チュンさんだけでなく、こっちの大きなお爺さんにも、呪いを流せるようになりましたから!」
「ちゅちゅん♪」
ほう、それは素晴らしい。
チュンさんの負担が減るのか。
「ではでは、向こうにもはぐれ使い魔いるので、どんどん契約してきます!」
「待て、クリストマス。今、手に入れた使い魔な戦闘能力はあるのか? それ次第では、もうすこし慎重に行動したほうがいいだろう」
シェリーを心配するコートニー。
「あ、戦闘力はたぶん無いのですね! 恐ろしいくらい何もできない使い魔なのですよ!」
即答のシェリー。
コートニーは面食らったように「そ、そうか」と一言だけ。
「こんだけ何も能力がないのは逆に不自然というか、普通ならありえないですけど……まあ、とりあえず危険はなさそうなので、どんどん調査しても大丈夫そうなのですよ!」
「ふむ、『
そう言って歩きだすコートニーに続き、俺たちはついに未踏のドラゴンクラン旧校舎へと足を踏みいれた。
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